日本家政学会誌
Online ISSN : 1882-0352
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ISSN-L : 0913-5227
74 巻, 4 号
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
報文
  • ―心理的安全性からの検討―
    小澤 拓大, 小川 美由紀
    2023 年 74 巻 4 号 p. 169-178
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/29
    ジャーナル フリー

     本研究では, 1. 保育観の違いへの対処と同僚を介した省察および職務満足感の関連, 2. 心理的安全性と保育観の違いへの対処の関連について検討した. 保育者を対象としたオンライン調査および質問紙調査を行ったところ, 142名分のデータが分析対象となった. 分析の結果, (1) 同僚間の保育観の違いはどの園においても起こり得ること, (2) 問題解決方略の使用が同僚を介した省察を促進し, 主張方略の使用が同僚を介した省察を抑制すること, (3) 問題解決方略の使用が職務満足感を高め, 回避方略の使用が職務満足感を低下させること, (4) 心理的安全性が問題解決方略の使用を促進し, 回避方略の使用を抑制すること, が示唆された. 以上のことから, 保育観の違いに対する問題解決方略の使用と保育現場における心理的安全性の重要性を論じた. 今後の課題として, 心理的安全性以外の問題解決方略の促進要因や心理的安全性を高める要因について明らかにすることを述べた.

  • ドイツ在住の日本出身女性への調査から
    和田上 貴昭
    2023 年 74 巻 4 号 p. 179-190
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/29
    ジャーナル フリー

     移民が子育てをする際には, 自身の出身地 (出身国) において身につけた価値観をもとに, 移民先の価値観や制度を受け入れたりしながら子育て感を形成することが知られている. 本研究では, 「子育て観」の形成のプロセスについて明らかにすることを目的に, ドイツ在住の日本出身女性11名を対象にドイツにおける子育てに関する聞き取り調査を行った. 得られたデータは質的研究法であるM-GTAにより分析を行い, 19の概念の生成およびそれらを6のカテゴリーに分類し, 関係図を作成した. 分析の結果, 下記の3点の示唆が得られた. (1) 価値観の異なる移民先における子育てでは, 自身と価値観を共有する人たちの「支え」が自身の安定した子育て行動には必要であること. (2) 新たな価値観を得ることで, 自身の価値観を見つめ直し, 子育てや親としての役割の捉え方における視野が広がるという「気づき」が得られていること. (3) 移民先の価値観は自身の価値観を通して認識され, 子育て行動が規定されていくこと.

  • 西 隆太朗
    2023 年 74 巻 4 号 p. 191-201
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/29
    ジャーナル フリー

     津守眞は, 自ら子どもとかかわる保育実践を通して独自の保育思想を築いてきたが, それは子どもの内的世界と保育的関係における相互的な変容過程を重視する点で, 現代においても他にない独自性と意義をもっている. この保育思想は1970年前後の「転回期」に生まれたものであり, 本研究ではこの時期における津守の体験と探究の過程に焦点を置いて意義を論じる. こうした体験を理解する上では, H. エランベルジェによる精神分析の歴史学, とくに新たな理論の創造過程に関する研究が手がかりとなる. 『乳幼児精神発達診断法』という労作を上梓した後, 客観主義的な研究によっては子どもの内的世界を理解しかかわることが困難だという限界に直面した津守は「混沌」を体験するが, それは子どもの発達過程においても創造の母胎としての混沌が体験されるという理解にもつながった. また, 客観主義的アプローチを超えて, 子どもとかかわって困難な時期を乗り越える心理療法的とも言える出会いを体験したことは, のちの相互的な変容の保育論にもつながった. こうした過程を検討することによって, 津守の保育学を理解する上でも, また保育学を探究する上でも, 研究者・保育者自身が, 子どもと出会う相互的な変容の体験をもつことが, 重要な意義をもつことが示唆された.

資料
  • 星野 亜由美, 布谷 芽依, 岸田 恵津, 相川 美和子, 諏訪 晶子, 谷田 幸繁
    2023 年 74 巻 4 号 p. 202-218
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/29
    ジャーナル フリー

     骨量測定を取り入れた, 教科横断的な食育授業を行い, 食育の有効性を評価することを目的とした.

     中学2年生78人を対象とした. 食育授業は, 保健, 数学, 家庭科の計4時間で実施した. 「心身の健康」を共通の食育の視点とし, 保健は「健康的な生活と疾病の予防」, 数学は「データの分布」, 家庭科は「中学生に必要な栄養を満たす食事」の領域で行った. 骨量は超音波骨量測定装置により右踵骨を測定した. 食育授業は, ワークシートの分析により評価した.

     同性, 同年齢の骨量の標準値と比較した値であるZスコアの平均値は, 男子97.6%, 女子104.0%であった. ワークシートによる振り返りでは, 概ね7割以上の者が健康に関心を持つこと, 教科の理解を深めることができたと回答した. 保健の感想では, 約9割が骨量に言及した. 対象者の記述から, 生活習慣病を防ぐための生活習慣を多面的に理解し (保健), データを箱ひげ図に表すことで骨を丈夫にするためのヒントを取得し (数学), カルシウムやカルシウムを多く含む食品の特徴を理解した (家庭科) 様子が読み取れた.

     したがって, 見えない健康状態を可視化する骨量測定は, 生徒にとって関心が高く, 食育を行う上で適した教材であると考えられた. また, 「骨と健康」に関する教科横断的な食育実践では, 各教科の目標を達成しながら食育の理解を深めることが可能であると示唆された. 一方, 目標に到達できていない者も一部みられたことから, 引き続き授業構成などを検討する必要がある.

シリーズ 研究の動向 70
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