並縫いにおける縫い目の大きさについては, これまで経験的に綿織布には大きい縫い目, 絹織物には小さい縫い目で縫合するのが好ましいとされ, その目安として前者では4mm前後, 後者では2~3mm前後といわれている.しかし, 縫製品における縫い目は着用中の動作や姿勢により繰り返し引っ張られ, 性能変化が大きいと考えられることから, 各種和服地と縫い糸を用い, 縫い目の大きさを変化させて並縫いを行い, これらの縫い目について, 定歪, 7.5%伸長による繰り返し5回の伸長緩和実験, および繰り返し伸長緩和後の試験片の切断強伸度実験を行い, 機能性の面から検討を行った.その結果, 次の事項が判明した.
1) 繰り返し伸長1回田の強度に対する5回目の縫い目の応力変化では,
(1) 試料布においては, 本実験の範囲では, 綿試料布より絹試料布の方が応力減少が大きく, 特に, たて, よこの糸密度比が大きい試料布, すなわち大島および一越における応力減少が大きい.
(2) 縫い目の大きさでは, 6.3mmの場合の応力減少が最も大きく, 縫い目が小さくなるにつれ応力減少は小さくなる.しかし, 2.1mmにおける羽二重では, 応力減少は小さいが縫い目近辺の布の損傷や座屈しわ, および織糸ずれが著しい.
(3) 試料糸では, 絹手縫い糸, ポリエステル手縫1い糸の応力減少が大きく, 綿カタン糸および絹小町糸は小さい.しかし, 綿カタン糸は羽二重において縫い目近辺の布の損傷や座屈しわ, および織糸ずれが著しい.
2) 原布縫合布に対する繰り返し伸長後の縫い目の切断強伸度変化では, いずれの試料布, 試料糸, 縫い目の大きさにおいても, 5回の繰り返し伸長の範囲では強度低下はみられない.
試料布では, 絹織物より綿織物の方が, 試料糸では, 絹手縫い糸やポリエステル手縫い糸よりカタン糸や絹小町糸の方が, 縫い目の大きさでは, 大きい場合より小さい場合の方が切断強度が大きい.
切断伸度変化では, 切断強度の場合と同様, いずれの試料布, 試料糸, 縫い目の大きさにおいても繰り返し伸長後の伸度低下はみられない.
これらの結果より, 和服地における並縫いの縫い目の大きさは, 小さい方が強度的に優れて好ましいが, 薄い布では縫い目近辺の布の損傷が大きいので小さい縫い目は考慮する必要がある.また, 最近, 利用度の多いポリエステル手縫い糸は伸度が大きくすべりやすい糸なので, 小さい縫い目を選ぶ方が適切である.縫い目の大きさは, 布および縫い糸や縫製品の部位との関係が大きく, 一概に綿織物は大きい縫い目 (4mm前後), 絹織物は小さい縫い目 (2-3mm前後) がよいとはいえないように思われる.
抄録全体を表示