吸湿発熱繊維は, 暑くなって汗をかくと発熱効果が高くなり過ぎたり, 逆に寒くなると発汗が抑制されるために発熱効果が低いなどの問題もある. そこで, 吸湿発熱不織布に潜熱蓄熱材を芯物質とするマイクロカプセルを付着させて, その吸湿発熱特性の改良を試みた.
検討の結果, 高湿度空気にさらされることによって生じる発熱ピークの時間幅は, マイクロカプセル付着率を高めることによって広がることがわかった. 未付着の不織布では吸湿発熱による2℃以上の温度上昇がある時間は1分20秒間しか無かったのに対して, マイクロカプセルを付着させた場合 (付着率 : 167%) では8分20秒間も長くなることがわかった. 高湿度空気より再び低湿度空気に切り替えても, 温度上昇している時間は比較的長く維持されることもわかった. また, マイクロカプセルの芯物質の融点を低くするとその傾向が明確となり, 融点が18.1℃以下のものを使用することによって高温状態の時間がより長く維持されることもわかった.
持続可能な社会の実現には, 合成繊維の代替として生分解性である再生繊維が有力である. しかし, 再生セルロースは極めて水による影響を受けやすく, 洗濯すると著しいしわが発生する. これまでに再生繊維は水や有機溶媒によって分子運動して, いわゆるゴム状態に変化することがわかっている. 一方, ドライクリーニング溶剤など分子量が大きい非極性溶媒では転移しないことから, 洗濯によるしわの原因は水中での分子運動状態で物理的な刺激を受けることに起因すると推定できる. 本研究では, 分子間架橋による分子運動状態への影響を明らかにし, その挙動から初期構造である分子シートの存在を推定した. 分子間架橋した再生繊維でも水に濡れると室温で転移したが, 架橋度合いの増加に応じて運動領域は小さくなった. しかし, これだけではその親水性は制御できない. 再生セルロースの内部構造は分子シートの存在が提案されており, 摩耗刺激を与えると (110) と (020) 面の結晶性の変化はわずかであるのに対して (110) 面では2割以上低下したが, 架橋するとその低下が抑制されたことから, 架橋によって (110) 面のへき開が抑制されることが示唆された. その存在は架橋前後の小角X線散乱から求めた水による内部膨潤や染色挙動からも支持され, (110) 面の表面には水酸基が集中していることから水が浸入しやすく, この部分の水酸基に架橋剤が反応して, 分子シート間を架橋している可能性がある.
主婦が社会化され始めていた1960年代を中心に, 主婦に提案されていた家庭着を検討することで, 変わりゆく生活の中で求められていた主婦の在り方を論じる. 主な一次史料として, 朝日新聞および読売新聞に掲載された家庭洋裁の指南記事を使用する. さらに, 家庭婦人の装いと生活の関連や他者からの視線等を同時期の婦人雑誌『主婦と生活』から調査する. 提案された家庭着からは家事労働に従事する姿, くつろぐ姿, そして他者に対して体面を保つ姿が見いだされた. 主婦の家庭着とは, 家庭を明るく, 楽しいものに, または穏やかなくつろぎを演出する役割も担っていた. それは主婦本人のみならず, 家族をも気持ちよく過ごさせるためのデザインであった. 同時期のマイホーム主義の風潮ともあいまって, 主婦は家庭という空間で家族のためだけの親密な存在であることを家庭着によって演出し, 生活の彩り, 家族の団らんを創出した.