日本家政学会誌
Online ISSN : 1882-0352
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70 巻, 10 号
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報文
  • 山村 明子
    2019 年70 巻10 号 p. 629-642
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/11/02
    ジャーナル フリー

     本論では大正期に家庭内労働着が家庭の主婦の装いとして結び付けられた背景について, 労働着・家事労働・生活改良の観点から検討をした.

     第一に大正期の社会情勢による家庭生活への影響, すなわち, 女中払底と新中間層の増加により主婦が家事労働の主たる担い手になったことが, 主婦と家事労働着を結びつけたと考える. 家庭における主婦の在り方は, 家事労働をする姿に他ならないのである. 次に主婦の着物について着目した. 着物の着装は三種の姿, 盛装の晴れ着, 街に出て社交や消費行動をする女性の外出着, そして第三が家庭内での日常着である. なかでも常着や普段着といわれた日常の服装は, 家庭内の装いでも身だしなみを整え, 普段着がレベルアップした. 明治の良妻賢母の姿は素服で家事に励むことであったことと比較して, レベルアップした普段着で家事労働を行うならば, それを汚さないための労働着を合わせる必要が生じたのである.

     学びの場で女学生が用いた作業着は家事労働着として, 家事行為を適切に執り行う主婦像に結びついた. そして主婦の家事労働着の着用姿は, 大正期に主婦が家事労働の担い手となったことを表す一方で, 新中間層の生活における日常の服装のレベルアップが関与しており, 身ぎれいにして働く新しい主婦像を創出したものでもあったと言えよう.

  • 駒津 順子, 田母神 礼美, 大矢 勝
    2019 年70 巻10 号 p. 643-652
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/11/02
    ジャーナル フリー

     カルシウムを含む水垢汚れの酸洗浄に関する消費者情報を調査し, その科学的根拠の実験的検証を行った. 消費者情報を分析した結果, クエン酸利用を肯定し推奨する記述が多くみられた. またクエン酸とカルシウムの反応による沈殿について言及している消費者情報はほとんど見当たらなかった. 炭酸カルシウムの溶解実験によりクエン酸の洗浄力は塩酸や酢酸と同様に高いが, クエン酸は時間が経過すると大量の沈殿を生成することがわかった. pH測定, XRFによるCa定量及びHPLCによるクエン酸の定量の結果, 沈殿は炭酸カルシウムの再結晶化から始まり, 12時間後から炭酸とクエン酸の置換に進むことが分かった. また未溶解の炭酸カルシウムの存在が沈殿生成速度を大幅に増大することも分かった. 更にCaは炭酸塩よりもケイ酸塩や硫酸塩の方が除去困難であることも明らかになった. 以上の実験結果より, 消費者情報に多く見られるクエン酸による水垢の除去メカニズムに関する中和説が, 科学的なロジックとして問題があることが明らかになった.

資料
  • 小竹 佐知子
    2019 年70 巻10 号 p. 653-671
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/11/02
    ジャーナル フリー

     『アンネの日記〈研究版〉』に記載された1942年6月12日 (金) のアンネ・フランク13歳の誕生日の贈答品における食べ物の内容を分析した. 読み物として編集された『アンネの日記〈完全版〉』に比べて詳細に書かれており, 両親をはじめ, 親戚, 友人, 知人の総勢26名から39品にのぼるプレゼントが贈られたことがわかった. そのうち, 食品の割合は27.5%で, 非食品には草花類, 書籍類の他に, 日用品ではない装飾品やゲームなどの玩具類が見られた. そして, 食品に占める菓子類の割合は82%と高く, オランダ国内で流通していたチョコレート製品, キャンディー・ドロップ製品, ビスケット製品が贈られていた. この他, 戦時下で不足していたコーヒーに替わる代用コーヒーも贈り物として使われていたことが認められた. 贈り主の多くが, 1930年代にナチスドイツから逃れ, アムステルダムで新たな生活を構築していたユダヤ人コミュニティーの仲間たちで, フランク家とは家族ぐるみで交流のある者たちからのものであった. アンネ13歳の誕生日は, ドイツ軍占領下の制約はあったものの, 子供らしい自由な生活を楽しんでいた時期のアンネの生活をうかがい知ることができる象徴的な日であったことが認められた.

  • 中岡 加奈絵, 野田 聖子, 山田 麻子, 富樫 有里子, 並木 直子, 五関 (曽根) 正江
    2019 年70 巻10 号 p. 672-683
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/11/02
    ジャーナル フリー

     都内の小学校高学年の児童172名を対象とし, 体力・骨量測定ならびに質問紙調査を行い, 体力に関する因子と体力と骨量との関連を調べた. その結果, 男女ともに体力テストの合計点数が高い群において, 学校が休みの日に身体を動かす遊びをしている者の割合が高く, 牛乳・乳製品を高頻度で摂取していることが示された. 男子については, 体力テストの合計点数が高い群において, 運動やスポーツの実施頻度が高く, 肥満傾向児の割合が低いことが示された. 女子については, 体力テストの合計点数が高い群において, 望ましいボディイメージを有している者の割合が高く, 平均運動時間が長いことが示された. また, 男女ともに, 骨量と全身持久力の指標となる「最大酸素摂取量」との間で有意な正の相関が認められた. 今後は, 体力に関する因子の因果関係についても検討を行い, 将来の生活習慣病や日常生活機能 (ADL) 低下の予防に役立つデータを提供していく必要があろう.

シリーズ くらしの最前線 126
シリーズ 研究の動向 37
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