本稿の目的は, 裁縫教育を技術習得だけでなく, 衣類全般を扱う教育として再編する議論の一つとして山本キクの「衣服科」構想の内実を明らかにすることである. そのために, 1920年代から1930年代にかけての山本キクの「衣服科」構想の内実を描いた上で, 黒川喜太郎や酒井のぶ子が展開した類似の論と比較し, その構想の特徴を明らかにしようと試みた. 以上の検討から明らかになったことを3点あげる. 1点目は, 山本キクの「衣服科」構想は, 婦人に求められる能力の変化・裁縫教育の授業時間数の減少等を受けて1920年代にはすでに構想され始めており, 衣服の目的として軽視されていた装飾としての側面に着目していたことである. 2点目は, 山本キクの「衣服科」構想は, ただ既製服を活用する方法・衣類を管理する技能の育成だけでなく, 「服装文化」という言葉に表れているように, 女児・女生徒たちによる身にまとうものへの気配りの習得も目指したことである. 3点目は, 「衣服科」「衣類科」構想には論者間に一定程度の相違点が見られ, 特に技術伝授に関してどの程度維持するかという観点において差が見られたことである.
本研究の目的は, 高齢者のヘルスリテラシー (HL) の特徴を捉え, HLと生活習慣の関連について明らかにすることである.
1都3県65歳以上の高齢者200名を対象として, 2021年9月に横断的なWeb調査を実施した. 調査内容は, 基本属性, Communicative and Critical Health Literacy, 主観的健康感, 日常生活の心掛け, 生活習慣などである.
ヘルスリテラシーの高低により2群に分けて分析を行った. CCHL得点は, すべての項目において高HL群の方が有意に高かった (p<0.001). 高HL群は, 主観的健康感 (p=0.008), 生活の満足感 (p=0.002), 休養の心掛け (p=0.009), 栄養バランス (p<0.001), 散歩やスポーツ (p<0.001) 等の日常生活の心掛け, 食品摂取の多様性得点 (p<0.001), ソーシャルサポート (p<0.001) が有意に高く, 健康に関する情報収集の方法が能動的であった.
HLが低い高齢者は情報の入手段階からの配慮が必要であり, これらのことを踏まえた事業や教育, 教室の実施が必要である可能性が示された.
中国では, 子育て実践に影響を与える民衆意識型子ども観は変革途上にある. 本研究は, 無記名式自記式質問紙調査を通して, 中国大学生の子ども観を, 日本大学生と比較することによって明らかにする. 子ども観を探るために, 【肯定的意識】【共感的応答性】の尺度を使用する. また, これらに影響する要因として幼児の発達的知識に着目した. 有効分析対象は, 中国浙江省の公立大学と日本東京都の国立大学の大学生501名であった (中国N=316, 日本N=185名).
その結果, 中国大学生は日本大学生よりも【肯定的意識】【共感的応答性】が有意に低く, 幼児の発達的知識の正答率も低かった. 中国大学生については, 【肯定的意識】【共感的応答性】はきょうだいの有無や幼児との接触経験によって得点の有意差が見られた. そのほか, 中国大学生では幼児の発達的知識における「こころの発達」や「大人の役割」を理解する者は, それらを理解しない者よりも, 【共感的応答性】が有意に高かった.
調査結果から, 次世代育成を担う中国大学生は, 社会の中の子どもたちの存在と育ちに関心と理解が不足しているという実態が示されている. そのような実態は, 子ども観の課題として問い直す必要性を, 中国の社会的状況の変化から考察した.
本研究では, 岩牡蠣を地域ブランド食品としてPRするための基礎資料を得ることを目的に, 牡蠣生産地の若年者における牡蠣類とその特徴の認知度や, 一般的な牡蠣類とその特徴の認知度について, 質問紙調査により明らかにした. 調査はわが国における主要な牡蠣類の生産地である長崎県, 兵庫県, 宮城県および広島県において, 将来的な岩牡蠣の購買層になり得る学生 (若年者) を対象に実施した. 岩牡蠣の認知度は, 若年回答者の約4割で, その食経験がある者の割合は2割未満であり, 岩牡蠣を知らない, あるいは食べたことがない者が多いことが明らかとなった. また, 真牡蠣と比べると岩牡蠣の旬は正しく認識されておらず, その生産地もほとんど認知されていなかった. 一般に牡蠣類の栄養素等はミネラル, 牡蠣料理はフライと焼きのイメージが強いことが示された. これらの情報は, 岩牡蠣を地域ブランド食品としてPRするための方法を提案する上で, 有用な基礎資料になり得ると考える.