本報では, 実態調査に基づいて中国都市集合住宅の居住者における衛生間の使用状況と問題点を明らかにした.と同時に, 今後の中国都市集合住宅における入浴空間のあり方を考察するために, 住様式の視点から入浴空間の検討を行った.その結果をまとめると以下のとおりである (図 10).
(1) 中国では, 公私分離の住み方の歴史が浅いため, 日本人に比べて, 中国人のプライバシー意識は相対的に弱い.そのために, タイプ1の住宅の主寝室に付属する衛生間の使われ方は, 夫婦専用という本来の用途だけではなく, 時間的にも空間的にも画一的ではないことが確認された.
また, 浸かる式の入浴方法を採用する居住者が少なく, 中国の都市部では水不足問題が存在しているため, 浴槽は, 入浴以外に「貯水」や「収納」等の用途に転用され, 本来の「浸かること」に利用されることが比較的少ないことが明らかになった.
さらに, タイプ1とタイプ3の21世帯においては, 入居する前後に衛生間に浴槽を取り付けていた.
以上より, 湯に浸かることを望む世帯が浴槽を設置することから考えると, 浴槽の必要性については, 居住者の要望に基づき, 平面計画上もしくは施工時, 柔軟に対応する必要があると考える.
(2) 本研究の調査対象住宅の衛生間には, 入浴時の脱衣空間が設置されていない.また, 欧米のように, 入浴できる衛生間が臥室に付属していない, そのため, 5 割強の世帯が, 「衛生間の中」や「臥室」などを脱衣空間に転用し, 4.5 割の世帯が, 衛生間に脱衣空間を要求している.このことから, 現在の衛生間の平面計画における脱衣空間への対応が不充分であると考えられ, (1) 臥室における入浴 (シャワー式) 機能を包含した衛生間の導入, (2) 前述の3点1室衛生間における脱衣空間の採り入れ等の解決策が求められる.
(3) (1) 洗濯機を湿気の少ない場所に置くが, 洗濯時に移動させていること, (2) 入浴時, 洗濯機が濡れないように, ビニールのカバーを被せること等のような面倒が生じていることから, 現在の衛生間の平面計画における洗濯機置場への配慮が不充分であることが指摘できる.
また, 手洗い洗濯の空間として台所の流しを使用していることから, 洗濯と炊事等を使い分けない従来の生活慣習が, なお一部の世帯に残っていることが明らかになった.
(4) 現在の住宅に入居してから, 多くの世帯では, 「公共浴池」の利用回数を減らし, もしくは「公共浴池」の利用を止めたことから, 「住宅内衛生間」の空間上および設備上等における改善により, 今後都市居住者は, 公共浴池ではなく, 衛生間を主な入浴空間として積極的に利用していくことが確認された.
(5) 調査対象世帯の 6.5割は, 現在の衛生間に比較的満足しているが, 不満を感じている世帯も, 少数ながら存在している.また, 住生活水準の向上に伴う都市居住者のプライバシー意識の向上, 洗濯機置場への対応不足, 便器に対する不浄感などにより, 6 割弱の世帯が衛生間における入浴と用便や洗面と用便の領域分離を求めている.今後, 上述の居住者の意識などが反映される, 衛生間の床の状態によりドライ (乾いた床) とウエット (濡れた床) の領域分離を配慮した衛生間の平面計画が必要と考える.
(6) 以上を総合すると, 現在の都市集合住宅における居住者の住要求にふさわしいと考える衛生間の平面計画として, 以下の3型を提案する.
空間的に可能な世帯においては, (1) 浴室・洗面所・便所の 3 空間が各々独立した「浴+洗+便」型衛生間, (2) 「浴・洗・便+洗・便」型「双衛生間」を採り入れる。空間上, 浴・洗・便の 3 空間がそれぞれ独立できない世帯においては, (3) 「浴・洗・便」3点1室型「単衛生間」を導入する.
なお, 以上の3型の入浴空間における脱衣空間や着替え等の収納空間の設置, 3点1室衛生間における同時使用時の仕切りの設置などへの対応が必要とされる.
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