日本家政学会誌
Online ISSN : 1882-0352
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70 巻, 8 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
報文
  • 冬木 春子, 佐野 千夏
    2019 年 70 巻 8 号 p. 512-521
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/24
    ジャーナル フリー

     本研究では「多重役割仮説」を参照した仮説「母親は親役割に加えて仕事役割を担うことで時間が消耗され, 子どもに向けられるそれらが不足し, 子どもの健康な生活習慣形成に悪影響が及ぶ」を検証した. 小学校入学前の子どもをもつ269名の親を対象に質問紙を用いて, 次の主な知見が明らかにされた. 第一に, 母親が有職の場合, 子どもは就寝時間が遅く, 夜間の平均睡眠時間では10時間を満たしていなかったが, 母親が無職の場合は就寝時間が早く, 平均睡眠時間も10時間を超えていた. 第二に, 母親の午後6 時以降の帰宅時間の遅さは, 子どもの就寝時刻の遅れやの睡眠時間の短さにつながるとした仮説は支持されたが, 母親の帰宅時間の遅さは子どもの栄養あるいは献立バランス面における食習慣に影響を及ぼしておらず, 仮説は支持されなかった. 第三に, 父親の帰宅時間の遅さは子どもの睡眠習慣や栄養や献立バランス面での食習慣には影響を及ぼしていないが, 帰宅時間が早いと家族との共食が可能であった. 幼児の生活習慣が母親の就労によって規定される影響力を鑑みると, 子どもの生活習慣の形成には, 社会におけるジェンダーイクイティや雇用環境の改善, さらには親に対する教育的支援が必要である.

Paper
  • 中島 聡史, 松本 拓矩, 秋山 亜希子, 増田 麻衣, 﨑谷 宣孝, 渡邉 裕一, 上田 佳宏
    2019 年 70 巻 8 号 p. 522-534
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/24
    ジャーナル フリー

     本研究では高脂質含有エマルションゲル (脂質含有量~85%) と食品用多糖類との関連性, 高脂質含有エマルションゲルの物理的特性とゲル内部構造について調査した.

     安定な高脂質含有エマルションゲル (油脂含有量~85%) を作製するには適切なゲル化剤 (キサンタンガムとローカストビーンガム混合物) を適切な濃度範囲で使用する必要がある. エマルションゲルの物理的特性と脂質含有量の関連性はエマルション粒子と連続層間での相互作用およびエマルション粒子が密に配置されたゲル内部構造が関与することが示唆される. 本研究は水溶性多糖類ゲルネットワーク中に高容量脂質を固定化する重要な意味を持ち, 本研究は様々な産業分野で応用可能である.

ノート
  • 高橋 志乃, 山野 葉子, 前田 佳予子
    2019 年 70 巻 8 号 p. 535-542
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/24
    ジャーナル フリー

     わが国の高齢化率は, 年々増加しており, 地域在住高齢者が自立した日々の生活を支えるための, より効果的なサポートには, 高齢者の栄養状態ならびに身体機能と併せて, 高齢者の意欲や取り囲む環境の違いについても検討することが重要であると考えられる. 本研究は, 兵庫県N市85人ならびに京都府KT市34人の80歳以上の自立した地域在住高齢者をN市とKT市の2 群に分類し, 栄養状態, 身体機能, 口腔機能, 質問紙調査から, 現状を把握し, より効果的なサポートのための基礎資料を得ることを目的として検討を行なった. 女性では, N市と比較してKT市で骨密度が有意に高く, 男性では, N市と比較してKT市において, 握力が高値を示した. N 市においては, 低栄養になるリスクを抱えている人が多くいる可能性が示された. 生活環境だけでなく, 世帯構成の違いが影響を与えていることが示唆されるため, 高齢者を支援するサービスおよびネットワーク構築のためには, 高齢者を取り巻く環境の現状やニーズを把握し, 効果的なサポートを提供することが, 今後, さらに重要になると考えられた.

  • ―近代日本における支援活動の発達―
    森 理恵
    2019 年 70 巻 8 号 p. 543-554
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/24
    ジャーナル フリー

     本論文は, 日露戦争からアジア太平洋戦争期 (1904~1945) までの「慰問袋」募集・送付活動について, 数量の推移や仕組みの発達を明らかにすることを目的とし, 慰問袋の募集と送付に関する新聞記事, 新聞広告, 業界紙, 団体機関誌, 軍事後援団体の報告書等を収集し, 分析した.

     慰問袋の数量の推移については, 日露戦争や日中戦争だけでなく, 東北九州災害や青島攻略, 関東大震災でも多数の慰問袋を送る活動がおこなわれており, 単線的に増加したわけではないことを明らかにした.

     慰問袋の変遷は, 日露戦争時を発生期, 東北九州災害・第一次世界大戦から関東大震災までを発達・完成期, 「満洲事変」から日中戦争・太平洋戦争前期までを拡大・定着期, 太平洋戦争後期を衰退期とみなすことができた. 東北九州災害から関東大震災までの時期 (1914-1923) が, 慰問袋募集・送付活動の仕組みの成立にとっては重要な時期であることがわかった.

     慰問袋募集・送付活動の仕組みは, 慰問袋の送り手は女性男性子ども大人を問わず個人であり, 取扱機関は婦人会・青年団など地域の団体や, 学校, 百貨店, 製薬・製菓などの会社, 新聞社であり, 手続き方法は上記の取扱機関に手製または購入した慰問袋を持ち込む, 店頭で購入と同時に送付を申し込む, 新聞社などに代金を寄付する, のいずれかであることが明らかになった.

シリーズ くらしの最前線 124
シリーズ 研究の動向 36
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