異所性膵による腸重積は比較的まれである.今回われわれは異所性膵による腸重積の乳児例を報告する.症例は4か月の男児,意識障害を主訴に当院小児集中治療室へ搬送された.来院翌日に施行した浣腸にて血便を認めたため,当科に紹介となった.超音波検査により腸重積と診断されたが,患者の状態と超音波検査の所見より非観血的整復が困難であり病的先進部位を有することが予想されたため,直ちに緊急手術を行う方針とした.壊死していた重積回腸を切除し,術後経過は良好であった.先進部の病理診断は回腸異所性膵であった.この比較的まれな疾患の疫学及び臨床像の特徴につき文献的考察を加え報告する.
臍帯囊胞は尿膜管開存症や染色体異常との関連を認める先天異常である.胎児超音波およびMRI検査にて巨大臍帯囊胞を認め,出生後に尿膜管開存と診断された1例を経験したため報告する.症例は胎生29週頃より臍帯囊胞を認め,囊胞は徐々に増大し臍帯の浮腫状変化を認めた.在胎36週に胎児MRIを撮影し,膀胱頂部が臍部に連続している所見を認め,在胎38週3日に予定帝王切開にて出生した.臍帯は胎児側約30 cmが浮腫状に変化しており,臍帯根部から約5 mmの部位に60×40×40 mmの黄色透明な囊胞を認めた.日齢5に膀胱造影を行い尿膜管開存症と診断し,日齢7に尿膜管切除術を施行した.術後経過は良好で日齢13に退院した.胎児期に臍帯囊胞を認めた場合は尿膜管開存症の合併を疑い,出生後にスムーズな診断及び治療を施行するためにも産婦人科,新生児科,小児外科が連携可能な施設での管理が望ましいと考えられた.
症例は生来健康な5歳女児.上腹部痛と嘔気を主訴に近医受診したが,翌日に腹部所見の増悪,意識障害を認め,ショック状態で当院PICUに救急搬送となった.画像検査で多量のfree air及び腹水貯留を認め,消化管穿孔の診断で緊急手術を施行した.開腹所見では胃体上部大弯側後壁に3 cm大の破裂部を認め,一期的に縫合閉鎖,腹腔内洗浄ドレナージを行った.術後はPICUで全身管理を行い,術後24日目に自宅退院となった.本症例では病歴や術中所見,術後の病理組織検査・上部消化管内視鏡検査の所見から明らかな原因は同定できず,特発性胃破裂と診断した.乳児期以降の小児の特発性胃破裂は極めて稀であり,報告例もわずかである.特に既往のない幼児に発症し,数時間程度で急速な症状の増悪をきたしている症例が多く,救命には早急な診断および適切な治療が重要と考えられた.
木村病(軟部好酸球性肉芽腫症)は,東アジア地域で若年男性の頭頸部に好発する比較的稀な疾患で,血液中の好酸球や血清IgE値の上昇を伴い,多くは無症状である.今回我々は,発症部位として稀な左上腕遠位部の皮下腫瘤として発症した木村病の1例を経験したため,当院での過去の木村病症例と文献的考察を加え報告する.症例は11歳,男児.1年前より自覚する左上腕腫瘤を主訴に当科を紹介受診された.左上腕遠位部外側の皮下に,約3 × 3 cm大の無痛性で軟らかい腫瘤と末梢血好酸球増多,血清IgE値の上昇を認めた.超音波検査では血流豊富な低エコー腫瘤を呈し,造影CT検査では早期,遅延相とも同等の造影効果を有する腫瘤及び多発性リンパ節腫大を認めた.切除した腫瘤の病理組織学的検査ではリンパ組織の増生と,拡大したリンパ濾胞間に多数の好酸球浸潤を認め木村病と診断された.術後15か月現在,腫瘤の再増大なく経過観察中である.
Müller管遺残症候群(persistent müllerian duct syndrome: PMDS)を合併した横断性精巣転位(transverse testicular ectopi: TTE)の1例を経験したため報告する.症例は1歳男児,左非精巣触知で受診し,触診にて右陰囊内に精巣を2つ認め,左陰囊内が空虚なためTTEが疑われ,腹腔鏡補助下に診断しえた,PMDSを伴うTTEの症例を経験した.TTEは比較的稀な疾患であり,停留精巣・非触知精巣の場合TTEを念頭に置いて診察しないと転位精巣を萎縮・消失精巣と見誤る可能性がある.また,TTEの30%にPMDSを認めるとされており,術前からPMDSの存在を考慮して手術に望むことが重要である.精巣腫瘍のリスクは定位側・転位側でともに高いとされ,それを考慮すると左右精索は可及的高位まで分離し,精巣の固定には陰囊中隔経路はできるだけ避けるべきだと思われる.
症例は日齢0の女児.在胎12週4日に胎児超音波検査でひょうたん型臍帯囊胞を指摘されたが,在胎24週2日には臍帯囊胞は消失していた.在胎32週5日に母体の切迫早産のため緊急帝王切開で出生した.臍帯基部尾側が裂け,膀胱粘膜が外反して露出していた.膀胱臍瘻の診断で緊急手術を施行した.膀胱切離ラインの決定の際に,術中膀胱容量測定を用いることで過度な膀胱壁の切除を回避した.病理検査では摘出標本内に明らかな尿膜管組織は含まれなかった.術後25日目の排尿時膀胱尿道造影で,膀胱尿管逆流や下部尿路狭窄のないことを確認し,術後36日目に退院した.近年の出生前診断の進歩に伴い,胎児期から臍帯囊胞を指摘され,出生後に尿膜管遺残,膀胱臍瘻と診断される症例報告が散見される.胎児期に指摘された臍帯囊胞が消失した場合,膀胱臍瘻の可能性があり,出生直後の手術介入の際には術後の泌尿器合併症を回避するための術式の工夫が必要である.