【背景と目的】アテローム血栓性脳主幹動脈閉塞(AT-LVO)に対する急性期脳血管内血行再建術(ENER)時のrt-PA静注療法(IV rt-PA)併用や24時間以内の抗血栓薬追加投与の影響は明確でない.当院でENERを施行したAT-LVOに対するIV rt-PAと24時間以内抗血栓療法の影響を検討した.【方法】発症4.5時間以内に受診しENERを施行したAT-LVO 60例を,IV rt-PA併用群26例,非併用群34例,に分け後方視的に検討した.【結果】有効再開通率はIV rt-PA非併用群で有意に高いが90日後転帰良好例に差はみられなかった.24時間以内抗血栓薬投与の有無でも頭蓋内出血合併率や90日後転帰良好例に差はみられなかった.【結論】ENERを施行したAT-LVOにおいて,IV rt-PAとその24時間以内の抗血栓薬療法は出血性合併症率や90日後転帰に影響を与えなかった.
【背景と目的】脳梗塞急性期再灌流療法は,発症から治療開始までが短いほど良好な予後が得られるが,その実施率と治療開始時間までの短縮がまだ十分とはいえない.院内体制整備が終了した後に脳卒中ホットライン(stroke hotline: S-Hot)を導入し,治療介入率の向上と治療開始までの時間短縮に対する効果を検証した.【方法】2021年6月から2022年12月までに再灌流療法を施行した患者をS-Hot群と非S-Hot群に分類し,後方視的に検討した.【結果】S-Hotの運用による再灌流療法は,それ以外よりも約2倍の実施率であった.救急隊の現場到着~来院の時間,来院~t-PA静注療法の時間,来院~機械的血栓回収療法開始の時間は短かったが,有意差があったのは現場到着~来院の時間のみであった.【結論】S-Hotの導入で発症~治療開始の時間短縮に有効であったが,院内の体制整備も不可欠である.
【背景および目的】中大脳動脈M2閉塞に対する脳血栓回収療法(MT)の有効性や安全性は確立されていない.M2急性閉塞におけるMTの治療成績を検討し,有効性と安全性を明らかにすることを目的とした.【方法】2014年3月から2022年1月の間に当院でM1あるいはM2閉塞と診断し,MTを行った症例を抽出した(M1:93例,M2:68例).M2閉塞におけるMTの有効性や安全性を検討した.【結果】M1群でTICI≥2bの再開通率が高く(90.3% vs 73.5%),治療3カ月後の転帰良好(mRS: 0–2)の割合は,両群共に有効再開通が得られた場合に高かった.M2群で頭蓋内出血率が高く(14% vs 38.2%),特にpass回数が多い症例や,1回でもstent retriever単体で手技を行った症例でSAHの発症率が高かった.【結論】M2においてもMTは有効だが,頭蓋内出血率が高く,治療における対策が求められる.
遠隔の腫瘍からの流出静脈が,硬膜動静脈瘻(DAVF)に流入している稀な症例を経験したので報告する.症例は77歳,女性.急速に増悪する両側結膜充血,複視を主訴に入院となった.脳血管撮影で,主に左外頚動脈系からshuntを有し,両側後頭蓋窩系および両側上眼静脈へ流出する左海綿静脈洞部のDAVFと診断した.またMRIで左蝶形骨部に髄膜腫を疑う腫瘍を認めるも,こちらは経過観察とした.DAVFに対し経静脈塞栓術を行ったが,術後15日目に左眼症状の増悪を来した.脳血管撮影で,shuntの残存に加え,前述の腫瘍からの流出静脈が拡張した左上眼静脈への流入を認めた.残存するshuntおよび腫瘍への栄養血管に対する塞栓を行い,症状は改善した.本症例の初回治療後の再発は,不十分な塞栓が主な原因と考えたが,再発という経過を通し,腫瘍からの流出静脈の影響を推測し,同様の解剖学的特徴を有する症例への治療上の注意を考察した.
89歳男性,突然の左上下肢麻痺を発症し,約40分で当院へ救急搬送された.来院時,JCS 2, 右共同偏視,左上下肢の重度麻痺を認め,NIHSS 21点であった.CTで右M1にhyperdense MCA signを認めたが,早期脳虚血性変化は認めなかった.心電図ではST上昇を認め,急性心筋梗塞に伴う心原性脳塞栓症と診断した.rt-PA静注療法は見送り,急性心筋梗塞に対する経皮的冠動脈形成術を行い,続いて脳血管撮影を行った.右中大脳動脈M1近位部閉塞を確認,血栓回収療法を行い,完全再開通が得られた.穿刺から再開通までは73分であった.治療後は左上下肢挙上可能となり,mRS 3で転院した.両疾患を合併した場合,治療の順序は症例ごとに検討が必要であるが,本症例は急性心筋梗塞の重症度が高いと判断し,優先して治療した.単純CTのみで診断しrt-PA静注療法を見送ったことで,治療時間短縮につながった.
症例は63歳女性.頭痛やめまいを発症し,その5日後に痙攣発作のため当院に搬送された.頭部CT検査で右側頭葉皮質下出血を認め,造影CT検査で右横静脈洞に脳静脈血栓症を認めた.血液検査では高度の小球性貧血を呈し,小腸ダブルバルーン内視鏡検査により消化管間質腫瘍(gastrointestinal stromal tumor: GIST)からの消化管出血が原因であると診断した.さらに全身の皮膚には軟性の小腫瘤が多発しており,皮膚科にて神経線維腫症1型(neurofibromatosis type1: NF-1)と診断された.NF-1は皮膚障害や腫瘍性疾患,脳血管障害などの多臓器症状を呈する常染色体顕性遺伝性疾患であり,GISTはNF-1にしばしば合併する.貧血は脳静脈血栓症のリスクであり,NF-1に血栓症が合併した場合には,消化管出血の精査が重要である.
54歳,女性.COVID-19発症9日後に突然,喚語困難と右手の脱力が現れた.頭部MRIで左中大脳動脈領域に急性期脳梗塞巣,MRAで左中大脳動脈M1–M2移行部の描出が不良だった.rt-PA療法を施行.投与開始直後に喚語困難と右片麻痺は改善し,1時間後の頭部MRAでは左中大脳動脈は再開通していた.経頭蓋超音波検査では右左シャント陽性,下肢静脈エコー検査では左ヒラメ静脈に器質化した等輝度血栓があり,隔離解除後に施行した経食道心エコー検査ではGrade IIIの卵円孔開存,心房中隔瘤を認めた.奇異性脳塞栓症と診断,アピキサバン内服を開始し,卵円孔閉鎖術を施行した.現在まで再発なく,良好な転帰である.COVID-19に奇異性脳塞栓症を発症した報告は少なく,発症機序と治療について考察し,報告する.
81歳女性.意識障害を主訴に当院に搬送された.両側の眼瞼下垂と眼球運動障害を認め,complete ophthalmoplegia(CO)を呈していた.頭部MRI検査により,中脳傍正中から両側視床の脳梗塞を認め,それらに起因した動眼神経核障害とpseudo abducens palsy(PAP)と診断した.抗凝固薬を導入し,リハビリを開始したが,非閉塞性腸管虚血症と誤嚥性肺炎を発症し,第21病日に永眠された.中脳梗塞におけるCOは稀であり,外転神経障害を伴わずに外転障害を呈するPAPという病態を呈する.これは,輻輳を抑制するニューロンの障害に起因する病態である.また,過去の報告症例からは,生命予後も不良である可能性が高いため,このような特徴的な所見を認めた場合は,早期に病態を理解し,患者家族への適切なインフォームドコンセントが必要である.