頚動脈plaqueに関する近年の研究においては,いかにして“vulnerable plaque”を検出できるかに焦点が当てられてきた.一方,動脈硬化病変の自然歴においては,plaque rupture後のhealing processは極めて重要な病態であると考えられているが,頚動脈におけるその認知度は低い.Healing processとはplaque崩壊後の一定期間内に引き起こされる病態であり,初発脳梗塞後に十分なhealing processが得られた場合はplaque安定化へと導かれ,再発の危険性は低くなるが,逆に不完全なhealing processがなされれば不安定化へさらに傾き,再発を来す2つのphenotypeの存在が推測される.今までの研究に加えてhealing processという病態は,動脈硬化病変の自然歴を解明する上で,極めて重要な課題であると考えられる.
【目的】欧州ガイドラインに基づき,中等度以上の低Na血症(血清Na濃度≤130 mEq/l)と診断した急性期脳梗塞と脳出血の臨床的特徴を明らかにする.【方法】急性期脳梗塞および脳出血で入院中に,中枢性低Na血症を合併した症例の臨床情報を後ろ向きに解析した.【結果】対象患者538例(脳梗塞408例,脳出血130例)のうち,入院後に脳梗塞と脳出血に関連して低Na血症を発症したのは13例(2.4%)で,低Na血症の原因はADH不適合分泌症候群(SIADH)10例,中枢性塩類喪失症候群(CSWS)3例であった.低Na血症合併群は非合併群に比して,脳出血の割合が有意に多く(p=0.004),入院日数は有意に長期だった(p=0.006).【結論】急性期脳梗塞と脳出血が原因の低Na血症は,脳出血に合併が多く,原因はSIADHが多かった.臨床の現場における低Na血症の診断には,欧州ガイドラインが有用である.
【背景および目的】適切な治療を行っても,重篤な転帰をたどる脳卒中患者がいる.本研究の目的は,入院時の情報から虚血性脳卒中患者の重篤な転帰を予測することである.【方法】5年9カ月間に入院した発症7日以内の脳梗塞,または一過性脳虚血発作連続例の前向き追跡調査データを用い,入院時情報(年齢,性別,発症前mRS, 入院時NIHSS)と90日後の重篤な転帰(mRS 5–6)との関連を調べた.【結果】2,106例(中央値77歳,男性58%)を解析した.重篤な転帰は14%に認め,多変量解析により年齢(オッズ比:10歳ごと1.8, 95%信頼区間:1.5–2.1),発症前mRS(1.3, 1.2–1.5),入院時NIHSS(5点ごと2.2, 2.0–2.4)が独立して,重篤な転帰に関連した.特に,80歳以上かつ入院時NIHSS≥26は84%が重篤な転帰であった.【結論】年齢と入院時NIHSSから90日後の重篤な転帰が予測できた.
【目的】吸引カテーテル(AC)を用いた脳血栓回収療法(AC-MT)の成績と,first pass(FP)手技による違いを明らかにする.【方法】2019年4月から2020年9月までの当施設でのAC-MT連続例を対象とした.対象全体の成績を検討し,FP手技で二群に分け(AC単独手技:SAT群,ステントリトリーバー併用手技:CBT群),成績を比較した.【結果】対象は78例あり,FP後の有効再開通(mTICI 2b–3)は29例(37%),終了時点の有効再開通は73例(94%),転帰良好例(3カ月後mRS 0–2)は34例(44%)であった.35例のSAT群では43例のCBT群と比較し,有効再開通例数に差はなく(94%,93%),再開通時間が短い傾向にあり(33分, 57分),転帰良好例が多かった(57%,33%).【結論】AC-MTにおいてSAT群ではCBT群と比較し,再開通時間が短く,転帰良好例が多かった.
症例は28歳,既往に未加療のアトピー性皮膚炎(atopic dermatitis: AD)のある男性.AD増悪時に黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus: S. aureus)菌血症と感染性心内膜炎(infective endocarditis: IE)を発症した.9病日に感染性脳動脈瘤(infectious cerebral aneurysm: ICA)破裂を来し,外減圧を施行した.皮膚科でスキンケアを受けつつ,ICA破裂後41日に開心術を施行,ICAは保存的加療で治癒した.AD患者の皮膚にはS. aureusが常在化しており,皮膚掻破を繰り返すと血中移行し,IEやICAなど皮膚外の感染症を促進する可能性があり,術後感染症にも注意を要する.ADを背景とするICAの最善の治療には,脳神経外科,心臓外科,皮膚科など多診療科の協力が必要である.
73歳男性.無症候性高度右総頸動脈狭窄症に対して,局所麻酔下にフィルタープロテクションにてopen cell stent留置術を施行した.術中合併症はなかったが,術20時間後に意識障害(JCSII-10),左半側空間無視,発熱が出現し,頭部MRIでは右大脳皮質に無症候性のごく小さな散在性梗塞がみられ,脳血流検査では右MCA領域の血流低下が観察された.同日のDSAでは右MCAにびまん性の狭小化がみられ,脳血管攣縮と診断した.エダラボン60 mg, オザグレル80 mg, 抗痙攣薬としてラコサミド100 mgを投与し,血圧低下に留意した血圧管理(収縮期血圧120~140 mmHg)を行った.術後3日で症状は消失し,脳血流検査にて脳血流の回復を確認できた.頸動脈ステント留置術後に症候性脳血管攣縮を合併することはまれである.適切な治療を行うためには,塞栓性脳梗塞や過灌流症候群との鑑別が重要と考えられた.
頚動脈ステント留置術(carotid artery stenting: CAS)の術後に,患側のびまん性脳血管攣縮を認めた2症例を報告する.症例1は症候性高度狭窄であった.症例2は脳循環予備能低下のない中等度狭窄であり,CAS直後のsingle-photon emission computed tomographyにて患側大脳の広範な血流低下を認めた.脳血管攣縮は過灌流症候群とともに血行動態の変化を来す病態であり,その治療方法は異なるため,速やかな鑑別を要する.CAS後の虚血性合併症では,血栓塞栓症だけでなく,本病態を念頭に置くことも重要と考えられる.
症例は,68歳の男性.体動困難を主訴に救急搬送となった.来院時左下肢不全麻痺があり,CTおよびMRIでは右前大脳動脈領域に脳梗塞を認めた.また,大量の黒色便失禁があり,血液検査ではHb 6.2 g/dlの貧血を認めたことから消化管出血を疑い,上部消化管内視鏡を行ったところ,胃潰瘍を認めた.脳梗塞の原因精査を目的に行った頚動脈エコーで左内頚動脈に血栓を認め,CTAでは,頚動脈のみならず腹部大動脈や肺動脈にも多数の血栓を認めた.頚動脈血栓は脳梗塞のリスクが高いと判断し,エコーにて連日フォローを行ったが,頚動脈血栓飛散による新たな脳梗塞を発症した.貧血を背景に,全身血栓症から脳梗塞を発症した症例報告は少なく,その病態について文献的考察を加え報告する.
【目的】短期間に出血を繰り返したもやもや病に合併した穿通枝動脈瘤に対して,塞栓術を施行した1例を報告する.【症例】31歳女性,19歳時にもやもや病と診断され,過去2回脳内出血の既往がある.右片麻痺と意識障害を発症し,CTで左大脳脚から視床にかけて脳内出血を認めた.保存的に加療したが,入院9日目のCTおよびCT angiographyで出血拡大と左後大脳動脈の穿通枝に動脈瘤形成を認めた.入院11日目に意識障害が増悪し,出血拡大も見られたため,全身麻酔下で血管撮影と塞栓術を施行した.血管撮影で左後大脳動脈から分岐した短回旋枝遠位部に動脈瘤を認め,母血管閉塞を行い,動脈瘤の描出は消失した.周術期合併症なく,術12カ月後時点で再出血なく経過している.【結語】もやもや病に関連する動脈瘤は,部位や血管構築が症例ごとに大きく異なるため,血管撮影での詳細な解剖学的検討を行って,安全に治療可能かどうかを判断する必要がある.
77歳女性で感染性心内膜炎の既往がある脳梗塞患者において,血栓回収療法後に頭部CTで閉塞部遠位側の末梢性動脈瘤周囲に高吸収域を認めた.脳梗塞発症時には,敗血症性塞栓が鑑別診断に挙がっており,感染性動脈瘤の破裂を疑いコイル塞栓術を行ったが,最終的に感染性心内膜炎に合併した既存の動脈瘤からの過去の敗血症性塞栓による,動脈瘤と癒着した周囲組織への造影剤漏出と判断した.血栓回収療法後に発生した,末梢性動脈瘤周囲の造影剤漏出には,閉塞部遠位側でのマイクロカテーテルからの造影剤の注入,脳虚血,脳血管内の造影剤停滞,動脈瘤壁の造影剤透過性が関与している可能性がある.造影剤使用により,末梢性動脈瘤周囲が頭部CTで高吸収域に描出される可能性があるため,臨床経過と過去の画像とdual energy CTの所見を基に,動脈瘤塞栓術の必要性について慎重に判断すべきであると考えられる.