【目的】急性期病院とかかりつけ医で行っている,循環型脳卒中予防連携の長期的な連携継 続状況と連携継続に関与する因子を検討した.【方法】当院で脳卒中連携登録から5 年以上経過した 346 例中,定期受診予定月を3 カ月超えず受診を継続した患者を連携継続群と定義し,連携継続群と 非継続群に分類し検討した.【結果】連携継続群は38%で,連携継続群は非継続群より若年で高血圧 と脂質異常症の合併率が高く,頸動脈病変と悪性腫瘍の合併が少なく,mRS 2 点以下で自宅退院が 多く病院主治医が脳卒中専門医の率が有意に高かった.ロジスティック回帰分析では若年,高血圧 と脂質異常症の合併,mRS 2 点以下のみが独立した連携継続因子だった(オッズ比:2.09,2.23, 2.33,2.81).【考察】循環型脳卒中連携は5 年以上経過しても約4 割の患者が継続し,若年,高血圧 と脂質異常症の合併,mRS 2 点以下は連携継続率を高めることが示唆された.
症例は86 歳の女性.突然の意識障害,右片麻痺で発症し当院へ救急搬送された.来院時, 重度の右片麻痺と失語症を認めた.呼吸,循環動態は安定していたが,心電図ではII,III,aVF, V4 で軽度のST 低下を認めた.MRI では左中大脳動脈(MCA)領域に急性期梗塞巣を認め,MRA で は左MCA 閉塞を認めた.発症1 時間20 分後にtissue plasminogen activator 静注療法を開始し,続け て血栓回収療法を施行し左MCA は再開通した.直後に冠動脈撮影を施行したところ,回旋枝の閉 塞を認めたため経皮的冠動脈形成術を追加しこれも再開通した.術直後より右片麻痺,言語障害は 改善傾向を示し第23 病日に回復期病院へ転院となった.【結語】稀な病態であるが治療方法や治療優 先順位など症例ごとに検討する必要がある.
部分血栓化巨大脳底動脈瘤は,自然経過での予後は極めて不良である.今回自然経過で完 全血栓化し,良好に経過した本疾患の1 例を経験した.症例は既往のない22 歳女性,中脳梗塞で発 症,上部脳底動脈部分血栓化大型動脈瘤と診断された.動脈瘤は21 mm,椎骨動脈撮影で右後大脳 動脈,右上小脳動脈の描出はなく,左後大脳動脈,左上小脳動脈は動脈瘤より分枝していた.発症4 カ月で動脈瘤の血栓化が急速に進行,左上小脳動脈起始部の描出が消失,瘤の造影部分も縮小し た.発症8 カ月で動脈瘤は31 mm に巨大化,造影部分の増大と左後大脳動脈起始部の膨隆を認め た.加療目的で入院とし脳血管撮影を行ったところ,動脈瘤と上部脳底動脈の描出は消失してい た.患者は無症状で経過,完全血栓化した動脈瘤は縮小,発症2 年を経過して再発を認めていな い.本例では左上小脳動脈,左後大脳動脈起始部の段階的血流低下が完全自然血栓化に寄与したと 推察された.
頭蓋内動脈の狭窄性病変(intracranial arterial stenosis: ICAS)は,虚血性脳血管障害の重要な病 因のひとつであり,日本人をはじめとするアジア人では,欧米人に比べてその頻度が高いと言われ ている.また,症候性ICAS を有する患者での年間脳卒中再発率は15%以上にも達すると報告さ れ,ICAS に起因する虚血性脳血管障害の再発予防は,臨床上,極めて重要な課題のひとつであっ た.症候性ICAS(70~99%狭窄)例を積極的内科治療群と積極的内科治療群+ 血管内治療群に無作為 化してその安全性および有効性を比較検討したStenting and Aggressive Medical Management for Preventing Recurrent Stroke in Intracranial Stenosis (SAMMPRIS)試験では,積極的内科治療群の脳卒中再発率が 予想されたよりも低く,内科治療の内容に重要な示唆を与えた.近年の臨床試験において,症候性 ICAS 例における脳卒中再発率が低下している理由として,高血圧,糖尿病や脂質異常症などのリス ク管理の標準化および厳格化や抗血小板薬の2 剤併用療法などが挙げられる.
脳出血急性期の血圧上昇は,転帰不良の強力な予測因子である.発症6 時間以内の急性期脳出血に対する積極降圧療法(目標収縮期血圧<140 mmHg)の有効性を検討したThe Intensive Blood Pressure Reduction in Acute Cerebral Haemorrhage Tria(l INTERACT)2試験により,急性期の積極降圧療法が機能的転帰を改善することが示され,国内外のガイドラインの記載が相次いで改訂された.しかし,最近発表されたAntihypertensive Treatment of Acute Cerebral Hemorrhage(ATACH)-II 試験では,発症4.5 時間以内の患者を対象に,より厳格な降圧療法の効果を検討したが,転帰改善効果は証明されなかった.したがって,脳出血急性期における降圧目標の下限や最適な降圧方法に関してはいまだ明らかになっていない.脳卒中再発防止における降圧療法の有用性は証明されており,複数のガイドラインで130/80 mmHg 未満のコントロールを推奨している.しかし,これを直接支持する無作為化比較試験のエビデンスは乏しく,現在,国際共同試験Triple Therapy Prevention of Recurrent Intracerebral Disease EveNts Tria(l TRIDENT)が進行中である.
脳血管再開通療法に必要な画像情報はtreatment related acute imaging target(TRAIT)と総称され,大血管閉塞,虚血コア,ミスマッチ,側副血行の4 項目を指す.頭部単純CT では,hyperdense artery signs から内頸動脈や中大脳動脈近位部閉塞のスクリーニング,Alberta Stroke Program Early CT Score(ASPECTS)で早期虚血変化の範囲判定を行い,迅速な治療開始に繋げる.CT 血管造影(CT angiography: CTA),CT 灌流画像を加えれば,より確実なTRAIT 評価が可能となるが,灌流解析プログラムの導入,multiphase CTA や4D-CTA の活用などの工夫が求められる.
近年,脳卒中急性期治療,予防学の進歩により,脳卒中の再発率,死亡率は年々減少してきているが,依然として脳卒中が要介護の最大の要因となっており,脳卒中生存者の長期的QOL の向上が望まれている.脳卒中生存者のQOL に関わる因子としては,脳卒中による失語や麻痺等のdisability に加え,認知障害,抑うつ,感染症などが挙げられる.それに加えて,脳卒中後てんかんはQOL に影響する重要な合併症であり,脳卒中生存者の5~10%前後に認められると報告されている.本報告では,2015 年に当院の行った脳卒中診療施設(189 施設)におけるアンケート調査を通し,脳卒中後てんかんについての概説および診断,治療に関する現状やエビデンス,今後の課題について述べる.
アルツハイマー病(Alzheimer’s disease: AD)はアミロイドβ蛋白(Aβ)とリン酸化タウ(ptau)が脳内に蓄積し,認知機能低下を来す進行性の神経変性疾患である.AD患者や高齢者では,髄膜および大脳皮質の小型から中型の動脈壁に Aβが脳血管に蓄積する脳アミロイドアンギオパチー(cerebral amyloid angiopathy: CAA)が頻繁にみられる.CAAはADの認知症を増悪させる因子として知られていたが,脳画像技術の進歩に伴い,多様な病態が明らかになりつつある.一方,CAA関連炎症[CAA-related inflammation(RI)]は近年注目されている病態であり,診断や治療についても進歩がみられるものの,これらの原因については不明な点が多い.CAAの病態解明が進み,ADと CAA関連疾患の治療法の開発が今後さらに重要になると思われる.
脳出血は,全脳卒中の約20%を占め生命予後,機能予後の改善が課題である.高血圧性脳出血ではケースシリーズやin the International Surgical Trial in Intracerebral Haemorrhage(STICH),STICH II 試験などの結果を踏まえ,日米のガイドラインで,被殻出血に対する定位手術や増悪傾向,脳幹圧迫のある小脳出血などへの手術が推奨されているが,全体的には外科手術の有効性のエビデンスは乏しい.一方,外科治療のもう一つの役割として,出血源の確認や処置の側面がある.Cryptic arteriovenous malfromation(AVM)や腫瘍性出血の可能性を常に念頭におくことや,出血源の処置が重要である.また,高血圧性以外のAVM やもやもや病などによる脳出血では術後の機能予後が比較的よいことも指摘され,より積極的に手術を考えるべきであろう.最近では,神経内視鏡による低侵襲手術が脳室内出血に著効する場合があることなどの報告があり,今後のエビデンス蓄積が待たれる.
超急性期脳梗塞の治療は経静脈 rt-PA投与療法と血管内治療デバイスを用いた再灌流療法が治療の主軸となった.どのような画像背景が再灌流療法後における患者の転帰予後の改善をもたらすことができのか,様々な研究が進んでいる.実臨床に役立つペナンブラの評価画像は転帰予測の指標の一つでもあり, MRI(magnetic resonance imaging)の DWI(diffusion-weighted image:拡散強調画像)と造影灌流画像の Tmax(time-to-maximum:最大濃度到達時間)の比較[DWI/PWI(perfusion image:灌流画像)mismatch]や, CT(computed tomography)造影灌流画像の局所的脳血流量[CBF(cerebral blood flow:脳血流量)<30%;対側比]と Tmaxの比率(CBF/PWI mismatch)を検討することにより,最適なミスマッチ比から治療予後を予測判定することが可能と言われている.また再灌流療法の予後不良因子とされている DWI/CBFの発症時における閾値の検討も研究が進んでおり(malignant profile),様々な意見がある中,最新の知見を交えて考察する.