脳虚血時に発現する脳アシドーシスは神経細胞障害を増強させる重要な因子と考えられる.今回, ネコ局所脳虚血モデルを用い, アルカリ化剤 (THAM, NaHCO
3) を投与し, 生理的食塩水を投与したコントロール群を対照に, 皮質血流量, 脳表pH, 脳水分量, 脳組織乳酸値に対する効果を比較検討した.その結果, 虚血部皮質血流量は, 3群とも閉塞後直ちに減少し, その後6時間の間3群間で有意な変化を示さなかった.虚血辺縁部にあたるmarginalgyrusの脳表pHは対照群では有意に低下したが, THAM, NaHCO
3群では閉塞前に比し有意な変化はみられなかった.虚血6時間後のmarginal gyrusの組織中乳酸値は, NaHCO
3群では対照群に比し有意に増加したが, THAM群では有意な減少が認められ, 皮質水分量も有意に抑制された。THAMの作用発現には, 虚血辺縁部の乳酸アシドーシスの改善が関与していることが推定され, NaHCO
3の投与ではかえって細胞障害を増悪させる可能性が示唆された.
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