【背景】本邦における脳卒中急性期リハビリテーション(以下,リハ)の現状については,確固たるデータが存在しない.【方法】2022年2月7日から同年4月21日までに一次脳卒中センター959施設を対象として,“脳卒中急性期リハの現状”を問うwebアンケート調査を行った.【結果】639施設(回答率:66.6%)から有効回答が得られた.リハ科専門医,脳卒中リハ看護認定看護師が配置されている施設はそれぞれ41%, 45%にすぎなかった.初回介入時のリハ訓練量は2単位(40分間)/日である施設が多かった.休診/休院日においてリハ訓練が行われていない施設は全体の37%であった.61%の施設では,COVID-19の流行が脳卒中急性期リハに影響を与えていた.【結論】本邦では脳卒中急性期リハの提供が十分ではない可能性があり,今後は急性期リハの均てん化と標準化を図ることが課題である.
【背景および目的】直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)内服中に発症する脳梗塞では,低用量選択や服薬アドヒアランス不良が指摘されている.一方,推奨用量かつ服薬アドヒアランス良好(適正強度)例は十分に検討されていないため,本研究ではその原因を明らかにすることを目的に行った.【方法】2014年4月から2020年3月に入院した発症7日以内の脳梗塞連続2,186例から,非弁膜症性心房細動(NVAF)を有し,適正強度のDOAC内服中に発症した64例(適正強度群)を抽出した.抗凝固薬未治療のNVAF患者397例(抗凝固薬なし群)を対照にNVAF以外の塞栓源性疾患を比較した.【結果】適正強度群は,抗凝固薬なし群に比して,NVAF以外の塞栓源性疾患の合併が有意に多かった(40.6% vs 18.6%,p=0.0002).【結論】適正強度のDOAC内服下で発症する脳梗塞では,NVAF以外の塞栓源が発症に関与する場合がある.
【背景と目的】急性期脳梗塞に対するrt-PA早期投与は,患者転帰の改善に関連し重要である.本研究では,トリアージナース導入が急性期脳梗塞診療に及ぼす効果を明らかにする.【方法】2016年1月から2022年1月までに救急外来へ時間外独歩来院し,急性期脳梗塞と診断された患者を対象とし,トリアージナース導入前後で比較検討する.【結果】時間外独歩来院した急性期脳梗塞患者79症例を比較検討した結果,トリアージナース導入後群は,導入前群と比較して脳卒中プロトコール適応件数(12症例vs 2症例,P<0.05)が有意に増加し,DNT(73.0 min vs 115.5 min, P<0.05)は有意に短縮していた.【結論】トリアージナースの導入は,rt-PA投与適応となる患者を早期に脳卒中チームへつなげ,DNTを有意に短縮する効果があり,治療開始遅延を減らすための重要な要素となる.
症例は13歳女性.5歳時に右半身の運動感覚障害を突然発症し,脳梗塞と診断された.若年性脳梗塞の原因を検索されたが,心疾患や血栓素因などは認めず,アスピリン内服で再発予防された.アスピリンは3年後に中止,その後は再燃なく経過していた.12歳時,再び突然発症の右上下肢麻痺を生じ,頭部MRIで左基底核に脳梗塞病変を認めた.各種原因を再検索されたが,心疾患,血栓素因,血管異常などは認めず,当科紹介となった.患者は左額から頭頂部にかけて皮膚陥凹と菲薄化,同部位の脂肪組織萎縮を認め,剣創状強皮症の所見だった.剣創状強皮症は一側の頭部に生じる限局性強皮症で,時に頭蓋内病変を伴う.本症例は剣創状強皮症の頭蓋内病変として脳梗塞様症状を呈したと考えられた.本症例は神経症状が皮膚症状に先行したため,診断に難渋した点が特徴的だった.
68歳女性.右聴力低下とめまいを主訴に前医を受診し,頭部MRIで右前下小脳動脈(anterior inferior cerebellar artery: AICA)領域に新規梗塞を認めた.アテローム血栓性脳梗塞として抗血小板療法を開始したが,1カ月後のMR angiography(MRA)で椎骨動脈合流部近傍に高信号域を認めた.DSAではAICAは描出されず,basi-parallel anatomical scanning(BPAS)でも椎骨動脈合流部近傍の高信号部位と脳底動脈との連続性は明らかでなかった.そこでくも膜下腔の詳細な評価目的にthin sliceでのheavily T2強調画像を撮像し,右AICAと高信号部位が連続していることを証明できたため,AICA血栓化動脈瘤によるAICA閉塞が脳梗塞の原因と診断した.AICAの血栓性動脈瘤の評価に,thin sliceでのheavily T2強調画像が有用な可能性がある.
上矢状静脈洞部の硬膜動静脈瘻(SSS-dAVF)は稀な疾患だが,さらに頭頂部の急性硬膜外血腫(VEDH)を続発した非常に稀なSSS-dAVF症例に対し,血管内治療を施行した1例を報告する.症例は28歳男性.頭痛契機にVEDHを指摘された.外傷歴はなく,脳血管撮影を含めた精査を行い,中硬膜動脈が流入血管となるSSS-dAVFと診断した.VEDHに対しては急性期保存加療を行ったが,シャント病変による再出血の可能性を懸念し,亜急性期に経動脈的流入血管塞栓術を実施した.治療によりシャント血流は消失し,術後神経症状の悪化なく良好な経過をたどった.VEDHを続発したSSS-dAVFは,渉猟し得た限りで報告がなく,非常に稀な病態と思われた.外傷歴のないVEDHの病態評価には脳血管撮影が特に有用であり,VEDHを伴ったSSS-dAVFに対しての血管内治療は,安全かつ有効な治療法となり得た.
症例は86歳女性.左中大脳動脈(M1)閉塞を伴う脳梗塞に対して,アルテプラーゼ(rt-PA)静注を行い,左中大脳動脈(M1)は再開通した.5日後に右片側舞踏運動が現れた.同日撮影した頭部MRI DWIでは左中大脳動脈後方領域の脳梗塞巣に変化なく,左尾状核から被殻と外側の皮質に新規脳梗塞はなかった.123IMP-SPECTでは左中大脳動脈領域,左基底核は右と比較して脳血流は軽度低下していた.中大脳動脈の血行再建後に不随意運動を呈した症例は,本例を含めて7例の報告がある.本例の片側舞踏運動を生じた機序は,基底核での代謝の亢進により,大脳皮質–大脳基底核ループに影響を与えたと考えた.rt-PA静注による脳動脈再開通後に片側舞踏運動を来した報告は数少なく,貴重な症例と考えた.
症例は86歳女性,右上下肢麻痺と複視を主訴に来院し,MRIで脳底動脈先端部に25.1 mm大の血栓化動脈瘤を認めた.椎骨動脈は右優位であり,右椎骨動脈でのバルーン閉塞試験(balloon occlusion test: BOT)で虚血耐性を確認した後に,右椎骨動脈閉塞術を施行した.術後,右上下肢麻痺および複視は次第に軽快し,MRIで瘤内の血流信号の消失と周辺浮腫の改善を認めた.脳底動脈先端部巨大血栓化動脈瘤に対し,血行動態の慎重な検討を行うことで,血管内治療によるflow alterationは有用な治療法となり得る.
脳アミロイドアンギオパチー(CAA)は,55歳未満の発症は稀であり,その一部の症例において幼少期の脳外科手術との関連が報告されている.症例は,1歳時に頭部外傷手術に際して屍体硬膜を用いた硬膜再建を施行された37歳の男性.意識障害と運動性失語を認め,頭部CTで左側頭頭頂葉皮質下出血と診断された.脳血管撮影では,出血源となり得る有意所見は認めず,開頭血腫除去術を施行された.後日,創部感染から波及した左大脳実質の脳膿瘍に対して排膿術および骨弁除去術を施行され,その際に提出した脳表の病理組織診にて,血管壁へのアミロイドβ(Aβ)の沈着を認め,CAAの診断となった.CAAの遺伝的素因はなく,幼少期の屍体硬膜を用いた脳外科処置がAβの沈着とCAAの発症に関係していると考えられた.
症例は37歳男性.父に深部静脈血栓症の既往あり.数分間の全身痙攣があったが自然に軽快し,自宅で様子をみていた.翌日前頭部痛が出現後,強直間代性痙攣を繰り返し当院に搬送された.痙攣のコントロールが不良であり,全身麻酔を導入した.頭部CTで上矢状静脈洞血栓を認めたため,ヘパリン持続静注を開始後,ワルファリン内服を開始した.ワルファリン開始後Dダイマーが急激に上昇し,肺塞栓症を発症した.ヘパリン3000単位を急速静注し,ワルファリンを漸増したところ血栓は消退し,後遺症なく退院した.プロテインC活性が38%と低値であり,遺伝子検査ではエクソン7 c.631C>T, p.Arg211Trp変異を認めた.プロテインC欠乏症では,ワルファリン導入初期に血栓症が増悪することがある.脳静脈洞血栓症にワルファリンを導入する初期には,頻回なDダイマー測定が考慮される.
症例はくも膜下出血の56歳女性.搬送時のCT血管造影で,右MCAの動脈解離が疑われ,DSAでMCAのM1部に血豆状動脈瘤を伴う動脈壁不整を認め,解離性動脈瘤破裂と診断した.深鎮静,降圧管理による保存的加療を行ったのち,第18病日にステント併用コイル塞栓術を行った.母血管,分枝の血流は維持され,術後4週間後のDSAでは,動脈瘤の完全閉塞と解離病変の治癒を示し,3カ月後には歩行可能となった.1年後のDSAでも再発を認めなかった.MCA M1部の解離性動脈瘤破裂は,レンズ核線条体動脈を含む分枝を解離部位に含むため母血管閉塞を選択できず,これらを温存した開頭手術の治療成功の報告は少ない.近年のステント併用の脳血管内治療の進歩で,母血管や分枝を温存した治療選択を行うことが可能となっており,個々の症例の特性に応じて至適治療時期は異なるが,ステント併用コイル塞栓術は一つの有力な選択肢になると考えられる.