【目的】小児気道異物は迅速な治療を要する緊急疾患だが,その臨床像は多彩であり診断や治療に難渋する場合も多い.小児気道異物の診断・治療介入の遅延を防止することを目的として,当科で経験したこれまでの症例から文献的考察を交えて報告する.
【方法】2003年1月から2023年5月までに当科で気道異物と診断した19例を対象とし,年齢や異物の種類,目撃の有無,診断までの期間,摘出方法などについて診療録より収集し,後方視的に分析を行った.特に,発症から診断までの期間が2日以内であるものを早期診断例,3日以上のものを診断遅延例と定義し,比較検討を行った.
【結果】男児が63%,3歳未満が84%であった.診断遅延例は6例(31%)あり,早期診断例と比べて保護者による目撃情報の申告が有意に少なかった,また,摘出後の入院期間が長く,全例が診断前に呼吸器感染症と診断されていた.異物の種類はナッツ・豆類が47%と最多であった.胸部単純X線検査で異物を指摘できたのは非食物の3例のみであった.CT検査は13例で施行されていたが,そのうち1例は初期の読影で診断に至らなかった.診断遅延6例中4例(66.7%)で保護者への詳細な問診,もしくは,目撃情報の申告に対する積極的な精査に問題があった.
【結論】小児気道異物は特異的な症状を呈することが少なく,画像検査でも診断に至らない場合がある.乳幼児の呼吸器症状では気道異物を鑑別に挙げて問診を行い,遷延する咳嗽や喘鳴,繰り返す肺炎など,治療抵抗性の場合には積極的にCT検査や気管支鏡検査を行うことで診断の遅延を防ぐことができると考えられる.
【目的】臍帯ヘルニアは,染色体異常や心奇形をはじめとした合併奇形が多いことが知られている.消化管の先天異常については臍腸瘻やメッケル憩室などの合併に関する症例報告が散見されるものの,まとまった症例集積研究はこれまで行われていない.そこで我々は,臍腸瘻を合併した臍帯ヘルニアの症例を集積し,その臨床像の特徴,治療方針について検討した.
【方法】対象は1981年から2021年までの間に大阪母子医療センター及び大阪大学医学部附属病院で診療を行った臍帯ヘルニアのうち,臍腸瘻を合併した症例とした.対象症例についての周産期情報と,出生後から退院までの臨床経過について,診療録にもとづいて後方視的に検討した.
【結果】対象症例は15例であった.男児9例,女児6例で,在胎週数は中央値36週1日(範囲:32週0日~41週0日),出生体重は中央値2,300 g(範囲:1,356~3,714 g)であった.病型は14例(93.3%)が臍帯内ヘルニアで脱出臓器は腸管のみであり,1例が臍帯ヘルニアで腸管,肝が脱出していた.染色体異常の合併は8例(53.3%)に認められており,すべて13トリソミーであった.心奇形は7例(46.7%)に合併しており,そのうち6例は13トリソミーの児であった.腹壁修復術を施行した15例のうち,9例が生存退院した.死亡した6例のうち5例は13トリソミーの症例であり,いずれも心奇形を伴っていた.
【結論】臍腸瘻を合併した臍帯ヘルニア症例は,染色体異常と合併心奇形が予後に大きく影響すると考えられた.臍腸瘻を伴う臍帯ヘルニアの手術適応は,治療の目標を明確にした上で判断すべきであると考えられた.
【目的】小児悪性疾患の治療において,当科で留置している体外型カフ付き中心静脈カテーテル(tCVC)の留置術の詳細と合併症との関連について検討した.
【方法】当院で20歳未満の悪性疾患患者に対し,留置および抜去を行ったtCVC 87件(57症例)を対象とした.患者背景,合併症の有無,手術手技の詳細,留置期間について後方視的に検討した.
【結果】87件中47件(54.0%)は,合併症なく治療終了に伴いtCVCを抜去し,留置期間(中央値)は219日(110~333)だった.一方,合併症を来した40件のうち,閉塞13件(32.5%),カフ脱出/事故抜去12件(30.0%),CRBSI(catheter related blood stream infection)11件(27.5%),出口部感染/肉芽形成4件(10.0%)で,留置期間(中央値)はそれぞれ,118日,57日,107日,213日であった.tCVC先端が気管分岐部頭側にあった場合,合併症を認める頻度が高く(57.7%),そのうち閉塞が有意に多かった(66%,p=0.001).tCVCの種類,同時手術の有無,アプローチ血管,超音波ガイド下穿刺法とカットダウン法の選択,出口部位置において,合併症の有無または合併症の内容との関連性は見いだせなかった.
【結論】小児悪性疾患患者に留置するtCVCについて,治療中断につながる予定外抜去を避けるため,留置直後に先端位置が気管分岐部から逸脱していた場合は再留置を積極的に検討すべきである.
【目的】少子化により症例数の減少する小児外科分野において,質の高い医療を提供するには,小児外科医療の適切な集約化・均てん化が重要である.沖縄県は有人離島を抱え,小児外科医が少ないとの指摘が以前からある.適切な集約化・均てん化を考えるには,実態把握の必要があると考えた.
【方法】外科を標榜する沖縄県内の総合病院に,16歳未満の一般小児外科手術件数,手術の内訳,時間外労働時間,小児外科医の有無,集約化・均てん化への考えに関するアンケート調査を行った.
【結果】21施設中17施設より回答を得た.11施設で計530~800例/年の小児外科手術を実施,うち80~250例/年は,小児外科の標榜がない8施設が対応していた.小児外科指導医は1施設に1名,小児外科専門医は2施設に3名,専門医はないが小児外科診療に精通した医師は3施設に4名(うち2名は成人外科医)だった.専門医のいない9施設のうち7施設は,成人外科の知識で対応可能な虫垂炎手術,鼠径ヘルニア手術などに対応,2施設は小児外科特有の疾患も扱うが,小児外科医が常勤または専門医の派遣があった.全施設が,小児外科症例・小児外科医師は少数の施設に集約すべきと回答した.離島の2施設は,小児外科医の派遣を希望していた.
【結論】小児外科特有の疾患は,大半が小児外科医により手術されていると想定された.小児外科医療を集約化すべきとの意識は高いが,成人外科の知識で対応可能な疾患は,成人外科施設でも対応しており,緩徐に集約化を進めるべきだと考える.離島の総合病院には,小児外科専門医を派遣し,均てん化を図るべきだと考える.小児外科医の確保は,重要な課題である.
【目的】胃食道逆流現象(GER)と無呼吸発作との関連性は未だ不明である.24時間食道インピーダンスpHモニタリング(以下MII-pH)を用いて,GERと無呼吸の関連性を検討した.
【方法】2017年8月から2021年11月の間に行ったMII-pHのうち,異常なGERがあると判定された患者で,無呼吸・SpO2低下とGERが関連ある患者を無呼吸群(11例)とした.無呼吸群以外の患者のうち無呼吸群と同じ範囲の体重の患者を抽出して対照群(18例)とし,両群を比較した.
【結果】無呼吸群の検査時体重は中央値3,420 g(四分位範囲2,787.0~5,727.5 g)であった.両群の検査時の日齢や修正日齢,出生時体重,在胎週数に有意差はなく背景因子は同等であった.上部消化管造影検査による胃の形態評価も両群同等であった.MII-pHのパラメータは,Reflux indexは無呼吸群6.1%,対照群14.4%で無呼吸群は低い傾向があった.液体逆流回数は無呼吸群(115回)が対照群(95回)より有意に多く,その内訳は酸逆流が両群とも約30回であったのに対して非酸逆流は無呼吸群94回,対照群66回で無呼吸群が多い傾向にあった.液体逆流回数が基準値を超えた症例数は,無呼吸群が10例(90.9%),対照群が11例(61.1%)であった.液体逆流時間率も無呼吸群が有意に高かった.近位逆流の回数やその他のパラメータに有意差はなかった.嘔気・嘔吐は両群ともに同等の回数を認め,無呼吸と関連なかった.
【結論】無呼吸は非酸逆流との関連が示唆された.未熟性や胃の形態とは関連がなく,嘔気や嘔吐とも関連がなかった.
症例は11歳,女児.腹部膨満と腹痛を主訴に近医を受診し,腹部造影CT検査で骨盤内腫瘤と多量腹水を認めたため,当院救急搬送となった.造影MRI検査にて右卵巣腫瘍破裂と診断したが,良悪性は不明であった.術中所見で右卵巣に10 cm大の破裂を伴う腫瘍を認めた.卵巣被膜を温存し,腫瘍のみを切除した.病理検査結果より中分化型Sertoli-Leydig細胞腫と診断し,二期的に右付属器切除術+大網部分切除+staging laparotomyを行った.DICER1遺伝子の病的バリアントは検出されなかった.高リスク腫瘍であり,術後化学療法をお勧めしたが,希望されなかった.術後2年を経過したが再発は認めていない.Sertoli-Leydig細胞腫小児例は非常に稀であり,その臨床経過や治療法は未だ不明な点が多い.治療法をきちんと患児やご家族と相談した上で決定し,厳重に経過を診ていく必要がある.
生来健康な8歳女児.食欲低下と嘔吐を認め,一度症状は改善したが再び多量の血便と顔面蒼白を認め救急要請となった.腹部は平坦軟,圧痛なし.超音波検査で径15 mmの腫瘤を先進部とする小腸重積を認めた.造影CTでは腫瘤を指摘できず,重積腸管の造影効果は保たれていた.同日緊急で単孔式腹腔鏡補助下腸重積症整復術を施行した.終末回腸から110 cm口側の小腸に,腫瘤を先進部とした腸重積を認めた.腫瘤性病変を含めた小腸部分切除術を施行した.病理検査により,内翻した出血性メッケル憩室であることが明らかとなった.メッケル憩室による腸重積では,内翻したメッケル憩室が先進部位であることがしばしば報告される.本症例は腸重積では説明できない多量の血便を呈した点が特徴的で,メッケル憩室の潰瘍底からの出血であったと考える.多量の血便を伴い腫瘤を先進部位とした腸重積では,内翻した出血性メッケル憩室による腸重積を疑うことが重要である.
腎外性腎芽腫は稀な腫瘍で,多くは後腹膜腔に発生し充実性腫瘤の形態を呈する.今回我々は,画像検査上後腹膜囊胞性病変を呈し奇形腫との鑑別が困難であった腎外性腎芽腫の1例を経験したため,文献的考察を含めて報告する.症例は8歳男児.腰痛,腹痛,発熱を主訴に前医受診した.血液検査で炎症所見を認め,腹部造影CT検査では仙骨前面に径3 cm大の内部に造影効果のない囊胞を疑う病変を認め,後腹膜奇形腫が疑われた.腫瘍マーカーの上昇や画像上転移を示唆する所見は認めなかった.抗菌薬加療にて症状が軽快した後,当院にて腫瘍摘出術を行った.腫瘍は被膜に包まれ,一側では周囲組織との癒着が著明であった.病理組織所見では囊胞成分は認めず充実成分のみで,囊胞と考えていた部分は壊死組織であった.病理組織から腎外性腎芽腫と診断した.後腹膜腫瘤性病変の鑑別の一つに腎外性腎芽腫も念頭におく必要があるものと考えられた.
症例は9か月男児.38週1日,2,906 g,帝王切開で出生し,日齢1に直腸肛門奇形を疑い紹介となった.肛門のdimpleを認めたが閉鎖しており,倒立位撮影で中間位直腸肛門奇形と診断し,左側横行結腸に双孔式人工肛門を造設した.排尿時膀胱尿道造影と人工肛門からの造影で無瘻孔と診断した.生後6か月時のMRI検査で肛門括約筋の発達は良好で,右異所性尿管を認めた.繰り返す尿路感染のため生後9か月時に膀胱尿管新吻合術と後方矢状切開直腸肛門形成術(posterior sagittal anorectoplasty,以下PSARP)を同時に行った.直腸盲端と肛門のdimpleの間に歯状線を有する肛門管様構造を認めたが直腸との連続性はなく,肛門側も閉鎖していた.肛門管様組織を全摘し,直腸盲端を引き下ろして肛門形成を施行した.全摘した構造物は組織学的に肛門管に矛盾しなかった.本症例は肛門管の閉鎖が非典型的であるが,総合的に判断し,肛門管の閉鎖を伴う直腸閉鎖と診断した.術後経過は良好でPSARPは本症例に有用であった.
乳腺膿瘍は小児では稀であり,複数回の排膿処置を要することがある.今回,乳腺膿瘍の排膿後に十全大補湯を使用した症例を経験したので報告する.症例は10歳女児.やせ型で,アトピー性皮膚炎の加療中.発熱,左乳房腫脹を主訴に当院を受診した.発赤と圧痛を伴う左乳房腫脹があり,胸部造影CTで左乳房に膿瘍を認めた.左乳腺膿瘍の診断で入院となり,抗生剤投与を開始した.入院3日目に乳輪縁の2か所で自壊したが,十分な排膿が得られず,入院5日目に切開排膿し,ドレーンを2本留置した.術直後から十全大補湯の内服を開始し,入院6日目には排膿はなく,1本のドレーンは押し出される形で抜去された.入院7日目に残りのドレーンも抜去し,退院となった.十全大補湯は術後8週目まで継続し,再発はなかった.本症例は気血両虚を伴い,十全大補湯の使用は適切であった.十全大補湯により,排膿後からの治癒を促進できたと推測された.
Amyand’s hernia(以下,本症)は虫垂の脱出を伴う鼠径ヘルニアであり,まれである.術前診断は困難で術中に診断されることが多い.今回,鼠径ヘルニア嵌頓の診断で緊急手術を行い腹腔鏡下に本症と診断した症例を報告する.症例は11か月男児.右鼠径部膨隆・不機嫌を認め当院に搬送,徒手整復困難であり右鼠径ヘルニア嵌頓と診断,発症後10時間で緊急手術を行った.腹腔鏡下に観察すると右鼠径管に虫垂を含む回盲部の脱出を認め,圧迫で整復を行った.虫垂に明らかな炎症を認めなかったため,ヘルニア修復術を行い終了した.術後2年でヘルニア再発や虫垂炎の発症は認めていない.本症に対して,腹腔鏡手術が有用である可能性が示唆された.
MPV17関連ミトコンドリアDNA枯渇症候群は変異遺伝子によっては生命予後不良であるが,肝移植後の生存例も認める.一方肝移植前に神経学的障害を有する症例は予後不良であることや,肝細胞癌の合併も報告されており,肝移植の適応に関しては一定の見解が得られていない.摘出肝に肝細胞癌を合併した1例を経験したので報告する.症例は1歳時に肝機能障害の増悪と脳症を呈し,肝生検にてミトコンドリアDNA量の低下と,遺伝子変異NM_002437.5:[c.293C>T];[c376-1G>A]を認めMPV17関連ミトコンドリアDNA枯渇症候群と診断された女児である.14歳時に非代償性肝硬変に対して生体肝移植を施行した.肝移植前血液・画像検査では肝細胞癌を疑う所見を認めなかったが,摘出肝に肝細胞癌を認めた.肝移植後2年経過し神経障害の緩徐な増悪傾向を認めるが,拒絶反応や肝機能障害,肝細胞癌の再発は認めていない.