我國の工業人口は昭和5年國勢調査に依れば590萬であるが,工業分布の型から, 1)普遍的に分布し,消費者と直接結びついた分散工業と, 2)生産地域が集中して居り,商業の仲介を經て配給される集中工業との,殆ど等しき2群に分ち得られる。前者の大部分及び後者の半數近くは家内工業であつて,工業統計表に採録せられる工場工業人口は當時188萬に過ぎなかつた。分散工業は又明治以前より傳へられた工業であるに反し,集中工業の大半は輸入された新技術による近代的生産工業である。
分散工業の分布は近畿地方に多く,東北,九州地方に少く,職業分化の程度を反映してゐる。
集中工業の中,重工業は過半が6大都市及び福岡縣に集中して居り,その原因として擧ぐべきは,浩費の集中並に資本及技術的優越である。繊維工業は大都市にも多く存するが,その大量なる勞働力の必要の故に,發達し飽和して過剰人口を發生してゐた本州中央部の古い農業地域に擴がつて一帶の繊維工業地域を形成した。
最近の重工業の躍進に伴つて,合理的立地の見地から,特に條件に適した數府縣に於て重工業の大工場が建設され,こゝに大都市工業中心時期より地方大工場工業への動向が認められる。繊維工業に於ても大都市では増加の勢弱く,地方工業地にのみ著しく發展してゐる。
東北地方,山陰,南九州等に於てはまだ工業化が及んで居らず,家内工業のみの領域となつてゐる。
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