工業の分布を現わすのに,工場数,工員数,生産高,工場人口等を使つたものでは,その実勢を表現することが出来ない.また同一企業の工場は本来不可分のものであるから,これを別個のものとして計算することも不合理であり,企業の資本による階層性が考慮されたことはなかつた.筆者は大企業について,付加価値を指標として各工場場生産力を計算しその分布をしらべた.その方法は1955年10月1日,資本金10億円以上であつた製造工業を主とする会社112の中106(その工場数663)について,企業の総売上高から材料費を除いたものを,各工場の従業員数で按分比例し,これを1工場の付加価値と定義した.これを年間付加価値に修正し, 20億以上をAA, 10~20億をA, 5~10億をB, 2.5~5億をC, 1~2.5億をD, 1億以を下Eと階級区分し,府県別に整理して表と附図を得,その中繊維工場については表2を得た.これによつて,次の特色を見出した.
A. 業種別. 1)繊維工場は比較的労働生産性低く,中小規模のものが全国に散在するが,そのうちやや大きなものは濃尾平野に集中している.
2)加工度の高い電機機械工場は他の大工場の例に似ず,内陸にもかなり存在する.
3)化学,セメント,製紙などの工場は,原料・電気・燃料などの関係で山間僻地にも散在するが,なお大都市の需要にひかれて,その周辺に存在するものが多い.
B.地域別. 1)東京・大阪の2大メトロポリタン・エリアは,大都市の需要によつて市内に工業が発生し,工業の発展とともに広大な敷地を求めて周辺地域に拡大し,川崎,横浜,尼崎,神戸など港湾をふくむ工業都市がこれをとりかこみ,需要地に牽引されてますます大工場が増加している.
2)名古屋を中心とした愛知,三重,岐阜3県では,濃尾平野にひろがる繊維工場群と,名古屋,四日市,誉母などの重化学工場群とが,重なり合つている.
3)日立,高岡,新居浜,坂出,相生,倉敷,三原,大竹,岩国,光,下松,宇部,関門6市,大牟田,長崎などの如く,1箇乃至数箇の大企業工場の大工場を主な都市要素として,発展している工場都市がある.
4) Cクラス以上の工場が以下の県が合計15あるが,これらは山形,群馬,石川,福井などの中小工場群を有するものと,鹿児島,山梨,青森などのごとく特には中小工場も持たない県とがある.
以上を通観すると,大企業の大工場は全国に分散しているが,比較的に需要地にひかれて大都市の周辺にあるものが多い.
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