交通地理学関係の論著は,逐年漸増してきたが,海上交通の数理的・平面的研究は極めて少ない.本稿は瀬戸内海交通の主体をなす,機帆船交通の実態を数量的に分析し,交通圏の設定,交通形態・交通流の性格,さらに工業地帯化との関連性を考察した.研究結果を要約すると,次のようになる.
(1) 内海機帆船交通は,片上-鳴戸線・福山-鞆線,岩国-長浜線の内海縦断線と,中島・大崎下島.大三島・生口島・因島・北木島の南側および直島・小豆島の北側を通る横断線をもつて, 5大交通圏に分割できる. (2) 交通形態は,消費財を主とする圏外交通と,生産財・製品を主とする圏内交通とに大別できる.主体は後者にある. (3) 交通量は,阪神圏内交通が圧倒的に多く,西部圏はこれに次ぐ.安芸・備中圏は圏外交通が優先する.圏外交通は,阪神圏と西部・四国圏問の交通が中心である. (4) 交通流は,北九州・四国地域の原料物資が阪神地域へ流動し,阪神地域で生産加工された半・完製品が,同圏内各地へ分散供給されるという交通方式が主流をなす. (5) 機帆船交通は,工業地帯化の顕著な地域に卓越し,工業地帯化の一翼を担う.また,圏内交通は工業地帯内交通と合致し,工業圏設定の1指標となる.
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