標準貫入試験をともなう100本以上の試錐をもとにしたわれわれの研究により,濃尾平野海岸地帯の冲積層の下には3段の侵蝕面のあることがわかつた.(1)現海面下0~10mにある上位面は,濃尾平野の南東部にみられる.この面は冲積世中期以後に形成された海蝕棚と思われる.(2)地表面下20~30mにある中位面は,海面が現在のそれより約40m低位にあつた洪積世後期に,河川侵蝕により形成されたものと思われる.(3)下底面は同平野の西部にみられ,現海面下40~55mにある.この面は,最終氷期の最低位海面時における,冲積世前木曽川穿入谷の谷底である.
濃尾平野における上記の埋没地形は,京浜地方および浜松地方におけるそれと一致し,またH. N. Fiskが研究したミシシツピー下流部冲積谷とも非常によく似ている.
これらの地域における地形の類似性は,それらの地形が洪積世後期ないしはその後における海面の変動に制約されていることを暗示している.これらの地形の存在は,洪積世後期における海面が次のような過程で変化したことを示したことを示している.(1) 洪積世の高位海面期後,海面は現海面下30~40mの深さまで低下した(A期).(2) つぎに洪積世後期の最低水準まで,海面はふたたび低下した(B期).
埋没支谷の上流部まで回春がおよばなかつたことからみて,穿入谷の存続期間は比較的短期間に限られていたことは明らかである。A期はB期より短かかつたと思われる.
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