蝶ヶ岳付近に発達した更新世の氷河地形と,その下流側の烏川流域に発達する新旧5つの堆積段丘群の分布を明らかにした.さらに,これら諸段丘を覆うテフラの層序関係,諸段丘と氷河地形の連続性などを検討し,氷期の地形発達史を考察した.
立山火山起源とされているテフラDPm (約10万年B. P.) 降下以前に,蝶ヶ岳カールからの氷舌と常念沢からの小氷河とが合流して流下し,本沢モレーンを形成した.この時期に,下流側の谷は,アウトウォッシュである第2段丘礫層で埋積された.その後,氷河は後退し,蝶ヶ岳カール内のマメウチモレーンを形成するが,比較的はやい時期(DPm降下頃,あるいは降下以後)に消滅した.このモレーンの堆積後における谷底の下刻期をはさみ,立山火山起源のEPm (6~5万年B. P.) あるいは未詳火山起源のOPm (5~3.5万年B. P.) の降下前に,再度寒冷化がはじまり,周氷河作用によって岩屑が供結され,以前に形成された地形面を覆うとともに,第3段丘が形成された.
上述のように,当地域に更新世の氷河が発達した時期(蝶ヶ岳氷期)はDPm降下以前と考えられ,ヴュルム氷期の最古期か,リス氷期に対比されるであろう.
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