大薯および自然薯のレオロジー的性質を一層明らかにするため, 生の粘弾性, テスクチャー (これらから調製した饅頭の皮も含む), 線切り, 短冊切りの破断特性, 前報以外の切片組織の顕鏡およびすりおろしについては粘度と温度, 活性化エネルギー, 同組織の顕鏡観察を行い, ナガイモ種と比較検討し次の結果を得た.
1) 両大薯の粘度は大薯早掘, 両自然薯より低く, 自然薯自生は種中最高であった.両種はナガイモ種同様粘度の温度依存性を示したが活性化エネルギーは一般に低かった.
2) 生の両大薯の
EH, η
Nは同早掘, 両自然薯より低い.
EH, η
Nの高低には組織の硬軟, 粘度, 澱粉, 粗タンパク質含量の高低が関連した.両種のηとη
Nの相関係数
r=0.967で相関性は高かった.ナガイモ種の
EHは両種より高いがη
Nは一般に低すぎ両種とは多少傾向を異にした.なお3種の力学的模型は2個のフォークト体を含む6要素型であった.
3種の饅頭の皮調製直後の
EH, η
Nは生の数値より約102位低く, その高低順位も逆転した.また保存後における3種の
EH, η
Nは概して調製直後より僅かに高くなった.
3) ヤマノイモ生の硬さはながいも, つくねいもで3.6(×10
5Pa) 以上で最軟, 両大薯は中位, 自然薯自生は18.6(×10
5Pa) で最硬, これは調製直後饅頭の皮硬さの14.3倍である.古代人が生のままかじったとされるのは自然薯自生で現在と硬さも多少異なると思われるがかなりの硬さであった.また付着性は両大薯, ながいも, つくねいも, 自然薯栽培は約1(Pa・m) 前後で予想外に低かった。同自生は最低で0.4(Pa・m) 夢同饅頭の皮付着性の1/50であった.
4) ヤマノイモ生の線切りおよび短冊切りの破断特性はながいもは約5.9, 6.9(×10
5Pa) で両者とも最低, 自然薯自生は約28,245 (×10
5Pa) で両者ともに最高, 大薯著者, 自然薯栽培, つくねいもは両者とも中位であった.生の硬さと線切り破断特性の相関係数
r=0.933, 短冊切りは0.845で生食法の切り方としてはいずれも適切と言えよう.また破断特性の低いヤマノイモ程付着性の低さと関連し, 歯切れのよい爽快さが著明になるものと考えられる.
5) 大薯早掘切片顕微鏡組織は大薯より澱粉粒群団は明瞭, 組織も大薯程軟かでない. 自然薯栽培のそれも円形の澱粉も見られ, 硬さは同自生の1/2で多少異なるが, すりおろし組織は両種とも前報に酷似し, 早期収穫, 生育環境の差異に拘らず顕鏡差は見られなかった.
ながいも切片の顕微鏡組織は複粒をなし, 生の硬さは種中最低, つくねいもは澱粉は重なり合って観察しにくく, 一見して組織の緻密度が知られる.またすりおろし組織のながいもは細胞膜がゆるみ澱粉粒も明瞭, 同つくねいもは澱粉粒は単独ではながいもよりやや長形であるように両者は同種でありながら切片, すりおろしにおいて澱粉の形状, 組織の緻密度に多少の差が見られた.なお各顕鏡組織すりおろしは生食すりおろし結果を一層明瞭にした.
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