スルフリルクロライドを合成し,其性質を檢したる後,蒸溜精製せるSO
2Cl
2 2c.cを石油ベンヂン100ccにとかし,メリノ羊毛纎維及び毛編物を之にて處理し,其防縮效果,強伸度變化,損傷等について實驗せり。
スルフリルクロライド處理液の有效鹽素は0.3975g/100ccにしてかゝる處理液にて15~25°Cに於て1時間浸漬,水洗,中和,水洗乾燥せる纎維は強力に於て殆んど變化なく,伸度に著しい縮少が見られ,強伸度曲線に於て顯著な變化が認められる。即ち處理による捲縮力の減少が認められ,ヤング率は大體同一なるも,フツクの法則の成立する範圍大となり,無處理羊毛より一定荷重増加に對し,伸びの急に増加する點の荷重大となる。更に荷重の増加により伸びの増加減少し,切斷するに到る。即ち強伸度曲線のS字型上半分が處理纎維は無處理纎維に比し著しく壓縮された形をなす。
比較縮絨試驗の結果は無處理毛メリヤスが約10%面積縮小する縮絨處理に於てスルフリルクロライド2%溶液處理メリヤスは殆んど變化なく多少伸びる傾向さへ認められる。
スルフリルクロライド2%液處理による防縮處理によつて羊毛の重量損失は5%以内にして鹽素又は次亞鹽素酸による防縮處理に比し著しく少ない。處理羊毛の稀アルカリ溶解度は無處理羊毛と大差なく,アルカリ可溶性蛋白質の増加は認められない。
顯微鏡檢査によるも鹽素又は次亞鹽素酸鹽による防縮處理の如き鱗片の崩壞は認められない。
尚本研究後福井高工教授大金光氏が内地留學として著者等の研究室に於てスルフリルクロライド處理の含有水分率による影響を詳細に研究され其報告は纎維工業學會誌第9卷7號に發表されたが,強伸度共比濕43%以上に急な山が出來て置り,著者等の選んだ處理前の比濕39.5%~40%は丁度よい所を選んだ事が判つた。
終りにケラチンの物理化學的研究に就いて補助を得たる文部省科學研究費の一部を以つて本研究を行ひたるを記し,謝意を表す。
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