非イオン染料のナイロン6フィルムからの水中への脱着速度と無限浴からポリエチレンテレフタラートフィルムの染色速度を測定した。得られた染色速度データに対してNewman式を用いた曲線のあてはめを行ない,フイルム中の染料の拡散係数(D
f)並びに境界層パラメータ(L)を求めた。同じ染料-フィルム系についてフィルム巻層法でD
fを求めた。両法で求めたD
fの値は多くの場合は一致したが,ナイロン6フィルムに高い親和力を持つ染料が撹拌が不十分な染浴中で脱着される時は,脱着速度データから得られたD
fの値はフィルム巻層法からのそれよりかなり小さな値となった。
一般に,濃度分布曲線から得られるD
fの値は染色速度データからのそれらよりも信頼性が高い。この点を考慮して,測定された染色速度(脱着速度)データに対して, Newman式にフィルム巻層法で得られたD
fを入れて曲線あてめを行なって, Lの値を求め,これより各フィルム染色系の拡散の境界層の厚さ(δ
D)を見積もった。得られた値は試料の浴中の撹拌速度(上下方向30mmの往復運動)が0, 30, 80及び146strokes/minの時, δ
D=20-80, 5.9-18.5, 14-15及び0.2-0.7×10
-3cm程度であった。これらの値を同じ染料でナイロン6,ポリエステル紡績糸を染色した時に見積もられているδ
Dの値と比較した。繊維の集合体である糸や布の染色では撹拌が十分であっても,拡散の境界層中を染料が透過する速度が染色速度に影響を与えるが,フィルム染色系では基質の近傍の染液流速が14.6cm/sec程度まで増加すると,境界層中の拡散抵抗は染色速度に殆ど影響を与えないことが分かった。
この報告で見積もられたδ
Dの値は,酸性染料によるメトキシメチルナイロン66フィルムの染色速度の解析や流体力学に基づくLevichの式で計算した結果とほぼ一致した。
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