n枚のセルロース膜からなる多層膜中を透過する非イオン染料の流束(
J)を測定し,
nと
Jとの関係から多層膜の両面における拡散境界層の厚さ(δ
D1+δ
D2)を見積った。膜の両面において,溶液の流速が36~85cm/secと推定される時, (δ
D1+δ
D2)は0.8~1.2 (30°C), 2~4×10
-3cm(80°C)であつた。
非イオン染料でナイロン糸を無限浴から染色した時,測定された染色速度曲線を理論式(Hill式)のそれと比較すると,実測曲線には著しい初期染着の遅れがあることが分った。この遅れは染浴の撹伴速度の増加と共に減少したので拡散境界層中の染料の通過抵抗によるものと帰属された。
表面妨害層をもつ繊維への染着速度を表わす理論式(Newman式)を実測の染色速度曲線に当てはめて,境界層による染着の遅れを表わすパラメータ
L,繊維内拡散係数(
Df)を求め,これらより拡散境界層の厚さδ
Dを見積った。撹拌を十分に行った場合,δ
D=2~4×10
-3cmで,拡散境界層による初期染着の遅れは温度の増加と共に減少した。
得られた結果から,繊維集合体の染色では染浴の撹拌循環を十分に行っても親和力および
Dfの大きい染料では拡散境界層による初期染着の遅れは避けられないことが分った。
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