天然セルロース,セルロースI (Cell. I)がマーセル化反応でセルロースII (Cell. II)へ転移する際,分子鎖配列は変らないと考えた方が以下の実験事実から妥当である。(1) (1〓0)面の選択面配向構造を有するバクテリアセルロースを18%NaOH,室温でマーセル化しCell. IIへ転移させても,この面配向を維持している。(2)バクテリアセルロース球晶のマーセル化においても消光パターン及び干渉色の組合せに変化が見られず,分子鎖の配向が変らない。(3) Cell. IIからでも酢化反応条件次第でCellulose triacetate I (CTA I)を生じる。(4) CTA IからCTA IIへの転移が繊維形態を保持したまま過熱水蒸気処理で可能である。(5)ボールミルで粉砕した天然セルロース非晶化物は水処理でCell. IIを再結晶化する。(6)ラミーから得たCell. IIIは約20NH
2SO
4,室温の加水分解で繊維形態を保持したままCell. IIへ転移する。(1)において,もし分子鎖の逆転が起るならば,選択的面配向構造を維持し得ない。(2)において,もしback foldが生じるならば消光パターンや干渉色のコンビネーションに変化を生じる。(3)については, Sarko及びChanzyらがX線結晶構造解析を行い, CTA Iは平行鎖, CTA IIは逆平行鎖を結論している。もしも,これが正しいならば,逆平行鎖を有するCell. IIからCTA Iは決して生じないことになる。(4), (5)および(6)においては,繊維形態を保持したままで分子鎖の逆転はあり得ないし, Chanzyが観察した様なShish-kebab構造は見られなかった。さらに,ラミー加水分解物のヒドラジン反応によりラミーが逆平行鎖構造を有するという直接的証拠も得た。
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