被服材料と水分子の相互作用を解明するために,天然ポリペプチド繊維(羊毛,絹)と合成ポリアミド繊維(ナイロン4, 4-6, 6, 6-6, 6-10, 6-12, 11, 12,ケブラー29, HM-50)を用いて,等温収着曲線を求め, B. E. T.の多分子層吸着モデルのパラメーターおよび水分収着過程の熱力学的パラメーターを求め,解析を行った。さらに広幅プロトンNMRスペクトルを求めて解析を行い,次のような結論をえた。
1)等温収着曲線の温度依存性から,一定温度30°Cにおける相対湿度の関数として,羊毛とナイロン6繊維について,吸湿の微分収着熱と過剰エネルギー(エントロピー項)を求めた結果,その値は相対湿度の低い状態で最も大きく,換言すれば収着された水は乾燥状態において極めて高い規則性をもって吸着されており,水分収着に対してB. E. T.の多分子層吸着モデルの適用の妥当性が確認できた。
(2)ポリペプチドおよびポリアミド繊維の等温収着曲線をB. E. T.の有限多分子層収着理論によって解析した結果,実験曲線に最も近接する層数
nmaxの値はほとんどの実験試料について6であることが見い出された。羊毛と芳香族系ポリアミドであるケプラー29を除いて,非晶化度で規準化された単分子層吸着水(Langmuir吸着)のモル濃度[
Vm/(1-
Xx)]は,絹および一連の脂肪属系ナイロンに対して,主鎖の[CONH]基のモル濃度の増加とともに,最初,徐々に,ついで急激に増加する曲線で与えられることが明らかになった。
(3)広幅プロトンNMRスペクトルの狭線幅成分
ΔHnは特定水分率で転移を示す。この転移は,収着されている水の性質が,層数1>
n≥
nmaxまでのかなり強く結合された水から
n>
nmaxの弱く結合されている水(一般に自由水と呼ばれている程度でないにしても)への転移に対感している。この結果は, (1)の熱力学的解析と全く矛盾しない。
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