液晶から作られたKevlar 28およびPoly (3, 8-phenanthridinonediyl terephthalamide)繊維を20wt%NaOH水溶液で100°Cおよび200°Cにて種々な時間分解し,生成物を光学および走査型電子顕微鏡にて観察した。分解以前の繊維はフィブリル化して縦に裂け易いが, NaOH水溶液で分解した繊維は繊維軸に直角に切断されている。その劈開面では,厚さ約0.3μmの薄膜が積み重なった構造がみられる。この薄膜の厚さは,著者らが別の方法で確認したジグザグ形フィブリルの周期の半分に当る。フィブリルのジグザグ屈曲は繊維の引張り強さ,弾性率にはあまり影響しないが,化学的抵抗性に対しては影響を及ぼしていることがわかる。会解の程度を更に高めると,繊維は縦方向にも壁開する。極めて重要なことは,縦の壁開面はラジアルではなく,シリンダー状で,壁開面間の聞隔は0.2-0.3μmである。Kevlar繊維については,従来ラジアル構造が唱えられているが,化学薬品による腐食実験においてはラジアル構造は認められない。湿式紡糸法によって繊維が形成される過程を考えると,凝固液が,円筒状紡糸液の表面から内部に向ってシリンダー状のフロントを作りながら浸透するので,シリンダー状の周期が発生する可能性はあるが,ラジアル構造が出来る可能性は考え難い。いずれにしても,液晶から湿式紡糸法で作られた繊維は,繊維軸に直角の劈開面と,繊維軸に平行でシリンダー状の壁開面とを有していることが明らかとなった。これは繊維の微細構造を形態学的に考察する上で重要な観点であると思われる。
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