ストップドフロー法および温度ジャンプ法で, β一ナフレタンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩(βNSF)に対する四種類のモデルアゾ分散染料の結合速度を検討した結果,結合速度はβNSFの縮合度(
N)およびβNSFの高分子電解質としての分子鎖の挙動によって変化する事が分かった。
ストップドフロー法による観測では,
N>6のβNSFでは結合速度は装置の不感時間(約, 1ms)以内で終了する速い過程と,それに引き続く遅い過程の二段階で進む。一方,
N<5のβNSFでは結合の全過程は,速い過程のみで完結する。
N>6のβNSFの遅い過程は擬一次反応速度に従った。この時,見かけの結合速度定数は
kapp=0.016-0.23
s-1であった。測定された
kappの値は染料およびβNSFの濃度には依存しなかった。
ストップドフロー法の不感時間内で完結する速い結合速度を温度ジャンプ法で検討した。
N>5のβNSFでは, Dye-βNSFの結合平衡の緩和は極めて速い緩和過定(τ
1=ca. 15-25μs)とそれに続く遅い緩和過程(τ
2=ca, 60-70μs)とが起こる。これに対して,
N<4のβNSFでは最初の極めて速い過程のみで緩和は完結する。
N=40(
N>9)のβNSFとの結合平衡ではτ
1とτ
2は染料およびβNSFの濃度,試料溶液のpH,染料のpKaには依存しないようであった。
βNSFは
N>5から高分子電解質的な分子鎖として振舞うことなどから,得られた結果は,染料分子を受け入れる為のβNSFの分子鎖のコンホメーション変化が結合反応の律速段階に関与していることを示唆していると考えられる。
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