ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを延伸すると,横縞構造が約4倍の延伸比以上で,偏光顕微鏡あるいは走査型電子顕微鏡により観察される。この横縞構造は延伸方定にほぼ直角な方向を向いているが,小さなうねりを有しているため,部分的には延伸方向に直角な方向を中心としてゆらぎを有している。
横縞構造の顕微鏡による観察,未延伸フィルムと横縞構造発生フィルムにおける
S-
S曲線および伸張-回復曲線の相違,複屈折度の延伸比に対する変化の挙動などから,横縞構造は“絞りこみ構造”の集合体とそれが部分的に破壊された構造の二層構造と考えることができる。
このような横縞構造をもつPETフィルムは,特殊な光散乱特性を示す。すなわち, PETフィルムに入射する光が,延伸方向と直角の方向に振動面をもつかあるいは直角成分を有しているとき,延伸方向に平行な振動面をもつ偏光散乱パターンが観察される。この偏光散乱は,入射光線に対し前方と後方にそれぞれ4つの長円状のパターンが,散乱角約40°を中心として観察される。しかし,横縞構造全体が延伸方向に対しどちらか一方に傾いて出現した場合には, 4つの長円状のパターンのうち2つのペア散乱が観察されるのみである。以上のような現象は,散乱光が密度の異なる横縞の境界で,選択的反射や透過を繰り返すことにより,延伸方向に平行な方向に振動する散乱光として観察されることになるためと考えられる。
このような現象と類似したものに,たとえばλ/2波長板や旋光があるが,この横縞構造フィルムはこれらと本質的に異なり,フィルムの延伸方向に垂直な成分光に対して,それを平行な成分に変換する機能をもつものである。このような偏光散乱の特殊性から,このフィルムは光アイソレーターや光集積回路の素子としての可能性がある。
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