本報文では,紡績糸の構造に深く関与している加撚工程におけるフリースの変形様式の変化を定量化し,特性化する方法について述べる。変形様式を研究するために,フリースの両半分を構成する繊維の平均らせん長さの差(平均らせん長差; Helical Path Difference)を出した。二層フリース糸を1mm間隔で切り出した断面を, TVカメラ,イメージ・フレーム・メモリ,マイクロ・コンピュータからなる画像処理システムを用いて解析し,単位長さ当りのHPD (HPD密度;ρ)を求めた。得られたHPD密度は周期的に変化し,紡出方向を変えることで,そゐ平均値が変化した。変化に関与する正味のHPD量として, HPD密度の平均値に対する偏差を,その値が正または負の値を保っている範囲内で総計したところ,得られた値は,紡出張力以外の,より数,紡出方向等の精紡条件に対して変化しなかった。フリースの平均変形様式と様式変化の程度が,それぞれ,紡出方向と紡出張力によって変化することは,フリースの両半分を構成する繊維の間の緊長度の差を示すHPDによって説明できた。二層フリース糸を用い, HPDに基づき,フリース変形様式の変化を特性化する本方法は,加撚工程の研究において有効な方法であり,これにより,紡糸張力と紡出方向が糸構造の発現に及ぼす影響が明らかになった。
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