東京大学農学部水利環境工学研究室では,研究室へ配属された直後の4年生に,卒業研究が本格的に始まる前の4~6月に,「小学生への農業用水の環境教育」へ取り組んでもらっている。これまで3年間の活動により,大学生が小学生に行う環境教育は,次世代を担う小学生に対する影響だけでなく,大学生の学問や現場に対する姿勢にも大きな影響を与えることがわかった。また,このような活動は,水利施設管理に関連したさまざまな機関相互の連携を強化するインパクトを持っていることも示された。本活動は,農業農村工学の認知度を上げるといった点に加え,子供や学生に農業-食-人をつなぐ水の役割を啓蒙するという点においても価値のある活動であるといえる。
大学で学ぶ専門技術体系がどのように実社会で役立っているのかを理解し,集中的な実習体験を通して,技術者としての役割を実感することで,キャリア(高度な専門職業)としての職業意識を段階的に涵養することを目的として設けている一連の体験型授業について紹介するとともに,専門の技術者資格を持つ非常勤講師による科目群の効用についても述べる.そして,技術者教育で重要なこのような授業の継続が,昨今の社会情勢から困難な状況になってきている現状を報告し,インターンシップを社会人ゼロ年生を対象とした “入学(就職)前教育” と位置づけることで,卒業後の継続教育の出発点であるという認識を産・官・学で共有し,社会が総がかりで将来の技術者を育てる必要性を述べる.
技術に携わる者は,常に新しい技術を習得する必要にさらされる中,組織として技術を継承するための人材育成が課題となっている。人材育成の手法として講習・研修があり,農業農村工学分野においては,技術者継続教育制度として体系的に構築されている。この制度に即して研修を行って事例として,国,都道府県,独立行政法人等の職員を対象に農村工学研究所が実施している技術研修について紹介するとともに,人材育成にかかる課題について考察した。
大学などの教育機関が日本技術者継続教育機構の認定を受ける際に必修科目として設定しているインターンシップについては,農業農村工学分野では,すでに40年以上にわたって夏期実習生制度として取組みが続けられてきている。そのような中で農村工学研究所が次世代育成ために行っている技術講習とそれを利用したインターンシップ(夏期実習生)の取組みについて紹介するとともに,実社会がインターンシップに提供できる目的とすべき学習・教育目標について考察を行った。