農業水利施設の管理は,農村の都市化・混住化や多面的機能発揮の期待から多様な主体の参加が求められている中で,農地・水・環境保全向上対策として,農業者だけでなく,地域住民,老人会,NPOなどで構成する「活動組織」により行われている。中国四国農政局は,2010年度に,活動組織の役員などとの意見交換および地域リーダー像の実態に関するアンケート調査を実施した。本報は,これらの結果などに基づき,新たな地域リーダー像を明らかにするとともに,その先進的な事例を紹介し,地域住民などの理解度合いに即した意思決定手法の開発など,多様な主体が参加した農業水利施設の管理における実施上の課題として3点を提案している。
未整備の水利施設は管理が行き届かないケースが見られる一方,生物が豊富な場所としても知られ,環境教育の場としても重要である。本報では,こうした水路を都市住民とともに利用し管理も実施している茨城県つくばみらい市寺畑地区の事例を紹介する。同地区では,葛飾区郷土と天文の博物館と協働し,地区内にある「古瀬」をフィールドとして「田んぼの学校」をはじめとするさまざまな都市農村交流を行ってきた。こうした活動を通じ,現在では都市住民が地区の管理活動に参加するに至っている。本報では,こうした協働の要因として,「田んぼの学校」による交流の下地づくり,NPO法人化による事務局機能の強化,サポーター制度による都市住民の参加体制づくりなどがあることを示した。
低平地の水田においては,圃場整備にあわせて水田のパイプライン化と用水の反覆利用を行う揚水機場が整備されることが多い。さらなる国際競争に備えた水稲作の強化という観点からは,水やエネルギーの使用量を縮減するため,揚水機場の運転管理を効率化することが今後の用水管理の一つの柱となると考えられ,本報では,揚水機場の運転管理の変化をその管理記録から分析することで,実態と効率化について考察した。さらに,平成23年3月に発生した東日本大震災後,電力使用量を抑制する社会的要請が大きかったため,灌漑用の揚水機においても運転時間短縮などの努力が払われた。それらの運用管理を整理分析し,今後の効率化への示唆を得た。
今後の農業水利施設の維持管理のあり方について議論するために利用の促進による管理の創出を考える立場から,これまでの“管理先行の思想”から“意欲内発の思想”を提案した。そして,この考え方に沿って“自由に工夫できる空間的な余地”を持たせた水路づくりを行った。その結果,この空間を介して農業水利施設における地元農家の多様な利用・関わりを見いだした。
大崎地域国営農業水利事業(国営4事業地区の総称)では,一級河川江合川および鳴瀬川流域に展開する水田約2万haを受益地として,広域的な農業水利の再編を行ってきた。国・県営事業では用水系統を抜本的に再編し,老朽化した大小166カ所の取水施設を76カ所の取水施設に統廃合した。取水施設などの計画,設計に当たっては,既存施設の有効利用を基本にストックマネジメント的な手法により機能診断を実施し,総合的な評価のもとで新設(全面改修),部分改修を決定し,コスト縮減に努めた。本報では,これら取水施設の整備について,ゴム堰の技術的な工夫や課題対応,ならびに既設魚道の改修事例などについて紹介する。
本報では,エチオピア高原および大地溝帯での調査結果をもとに,農村部での土地利用状況を紹介し,IPCC第4次評価報告書における地球温暖化の影響について考察した。そして,地球温暖化で予想される被害をもとに,農業農村開発に必要な地球温暖化への備えについて検討した。その結果,地球温暖化で予測される被害として,IPCCが予測する直接的な被害とそれが引き起こす副次的な被害のあることが推測できた。また,地球温暖化への備えとして,水不足への適応,草地・林地の管理,土壌侵食の防止,融資制度の整備,セーフティネットの整備などが有望なことが示唆された。