農業農村工学会誌
Online ISSN : 1884-7196
Print ISSN : 1882-2770
89 巻, 11 号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
  • 神井 弘之, 橋本 禅, 加藤 亮, 吉川 夏樹, 大澤 剛士, 杉原 創, 東樹 宏和
    2021 年 89 巻 11 号 p. 827-832,a1
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/03/17
    ジャーナル フリー

    みどりの食料システム戦略では,生産力向上と持続性の両立が目的として掲げられている。今後,環境・社会面の変化に適応するため,この両立への要請は高まるものと想定される。農業生態系をめぐる複雑な状況下で,両立のための効果的な解決策をデザインするには,生産活動と環境の相互の関係性と全体像を把握し,問題をリフレーミングすることが求められる。本報では,生態系サービス概念を用いて,農業生態系と周辺生態系に生じている問題の構造を把握し,解決策のデザインにつなげるための分析枠組みを提案する。さらに,この分析枠組みを,最近の政策検討事例に当てはめて,その有効性を検証し,そこから得られる政策的含意について考察する。

  • 橋本 禅
    2021 年 89 巻 11 号 p. 833-837,a1
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/03/17
    ジャーナル フリー

    本報では,生物多様性・生態系サービス分野の動向から農業農村整備政策のグリーン化の今後の方向を試みた。2021年3月に出された土地改良長期計画は,土地改良政策の方針を示すものだが,「政策のグリーン化」という意味では現在の計画に記載された施策方針は気候変動や生物多様性などの環境課題に対する貢献が曖昧である。農業農村整備政策のグリーン化を推進するためには,現行の政策や施策体系が地球環境課題の解決や改善にどのように貢献するか,それらがどのような課題・限界を抱えているかを批判的に検討する必要がある。本報ではそのような検討の視点として社会生態系の概念を紹介し,その有用性を示した。

  • 上田 達己
    2021 年 89 巻 11 号 p. 839-842,a1
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/03/17
    ジャーナル フリー

    近年,持続可能な経済活動のあり方をめぐる試行錯誤が社会全体に広がりつつあることを背景に,農林水産省は「みどりの食料システム戦略」を策定した。他方で,英国で公表されたDasgupta Reviewは,人類の生存基盤である自然資本と経済活動の望ましい関係性を幅広く展望した。そこで本報は,第一に,同Reviewの議論とロジックモデルに基づき,みどりの食料システム戦略で提示されている取組みを定性的に概観する。第二に,筆者らの既往研究を題材として,灌漑農業の脱炭素化方策に焦点を絞って具体的に考察し,カーボンニュートラル農業の達成のためには,エネルギー需要側(営農技術)の革新が求められることを示す。

  • 加藤 亮, 乃田 啓吾, 木村 匡臣, 大倉 芙美, 堀切 友紀子, 小山 知昭
    2021 年 89 巻 11 号 p. 843-846,a1
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/03/17
    ジャーナル フリー

    水田農業を主とする東南アジアでの農村整備事業にグリーンインフラを実装するための適応的管理手法を展開することについて検討する。これまで水田農業の持つ多面的機能について議論され実証されてきたが,多面的機能は,グレーインフラにより自然から改変された水田という装置を使ってコメ生産を実施していることにより生じ,新たに農業地域に付加的に親自然的な環境を作るもしくは保全するグリーンインフラと異なる。本報では,生態系サービスに基づく水環境対策案とその内容に関した社会や個人の価値共創の可能性について検討し,グリーンインフラが定着する条件についてラオス国首都ビエンチャン市での事例を考察する。

  • 宇野 健一, 進藤 惣治
    2021 年 89 巻 11 号 p. 847-850,a1
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/03/17
    ジャーナル フリー

    地球規模での気候変動を受け,温室効果ガス(GHG)の排出削減が世界的な課題となっている。筆者らは,ベトナムでの研究から,間断灌漑が水田から排出されるGHGの一つであるメタンの削減に有効であることを確認したほか,反収の増加とポンプ経費の削減も合わせて確認し,これらを政策提言にとりまとめ,ベトナム・アンジャン省政府に提出した。その後,同省における間断灌漑は60%程度まで普及率を伸ばした。さらなる普及に向けては,水管理労務削減のためのICTの活用,用排水路整備・圃場整備などの基盤整備,近隣諸国への波及などを考えていく必要がある。

  • 蒲地 紀幸, 中村 真人, 大土井 克明, 折立 文子, 柴田 浩彦, 大塚 直輝
    2021 年 89 巻 11 号 p. 851-855,a1
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/03/17
    ジャーナル フリー

    2017年度から2021年度にかけて,小規模メタン発酵システム実証事業を実施している。本事業では,農業集落排水施設から発生する汚泥のほか,農村地域で発生する生ごみを活用した小規模メタン発酵を実証しており,政策のグリーン化に資する取組みである。実証内容は,メタン発酵で生成した消化液を液肥として農業利用することにより,小規模分散型である農業集落排水施設の特性を活かした農村地域内での資源循環の取組みである。当実証において,室内試験から栽培試験までの一連の試験において,集排汚泥,生ごみ,作物残渣を原料とする消化液が肥料として利用できることを確認できたので報告する。

  • 折立 文子, 中村 真人, 柴田 浩彦, 蒲地 紀幸, 山岡 賢
    2021 年 89 巻 11 号 p. 857-860,a2
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/03/17
    ジャーナル フリー

    農村地域の有機性資源を活用したメタン発酵システムの構築は,再生可能エネルギー生産と資源循環の同時実現が期待でき,「みどりの食料システム戦略」に資する取組みである。本報では,農村地域の生ごみのメタン発酵基質としての特性を把握するために,集排施設に併設したメタン発酵実証施設から採取した各月の生ごみについて,その性状分析と回分式メタン発酵試験を行った。その結果,これらの固形物濃度,有機物濃度,炭素と窒素の含有率の比,投入有機物量当たりのバイオガス発生量には原料由来と考えられる季節変動がみられ,それぞれ約11~18%,10~17%,14~28,0.67~0.82NL/g-VSであることが示された。

  • 北辻 政文
    2021 年 89 巻 11 号 p. 861-864,a2
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/03/17
    ジャーナル フリー

    東北地方の太平洋岸(三陸)は,世界三大漁場に数えられるほどの豊かな漁業資源を有しているが,近年,海藻がなくなる「磯やけ」が発生し,漁業関係者は浅場生態系の環境変化と漁獲高への影響を危惧している。そこで本研究では,鉄や栄養塩を継続的に供給可能な漁礁ブロックを開発し,漁礁ブロックを設置することにより人工土壌を形成し藻場の再生を行うとともに,豊かな生態系ならびに水産資源増殖に資することを目的としている。すなわち漁業の振興を促進するばかりでなく,生物多様性の保全,ブルーカーボン効果によるCO2の固定,水質の浄化およびレクリエーション等の多面的機能付与を期待するものである。本報ではこれらの取組みを紹介する。

  • 樺元 淳一, 西島 太加志, 白子 智康, 中村 匡聡
    2021 年 89 巻 11 号 p. 867-870,a2
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/03/17
    ジャーナル フリー

    農業農村整備事業における生物モニタリングの効率化を目的に,水中に生息する生物から放出された細胞片に由来するDNAを回収して生物相を調べる「環境DNA分析技術」を用いたモニタリング手法を,農業用用排水路における生態系配慮施設の生物モニタリングに適用した。その結果,環境DNA調査では,同一地点で行われた採捕調査により確認された種の70~100%をカバーしており,採捕調査とほぼ同程度の精度があった。環境DNA調査は,地区全体の魚類相を網羅的に調べる手法として有効であり,生態系配慮施設の効果検証を行うための新しいモニタリング手法として,今後の活用が期待される。

feedback
Top