農業農村工学会誌
Online ISSN : 1884-7196
Print ISSN : 1882-2770
86 巻, 11 号
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  • 木村 匡臣, 渡部 哲史, 西原 是良, 中村 晋一郎, 乃田 啓吾, 田中 智大, 辻岡 義康
    2018 年 86 巻 11 号 p. 981-984,a1
    発行日: 2018年
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル フリー

    少子高齢化や地域の過疎化,耕作放棄地の増大やため池管理の粗放化などのさまざまな要因が複雑に関連しあう課題の解決策を検討し,中山間地域の持続的な在り方を考える上では,農業農村工学が核となりつつも,その他の自然科学・社会科学分野を絡めた学際的な研究アプローチが不可欠である。著者らは,農業農村工学,水文・水資源学,河川工学,農業経済学などの分野の若手研究者により研究グループを立ち上げ,中山間地域における治水対策の在り方や水文学的観点から見た課題について検討を進めてきた。本報は,著者らがこれまでに実施してきた研究取組みについて紹介し,中山間地域の持続的な利水・治水対策の検討に向けた一助となることを期待するものである。

  • 廣瀬 裕一, 竹村 武士, 尾島 一史, 楠本 良延
    2018 年 86 巻 11 号 p. 985-988,a1
    発行日: 2018年
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル フリー

    2018年に世界農業遺産に認定された「にし阿波の傾斜地農耕システム」を構成する2市2町では,農業者と農地面積が最近40年で大きく減少した。にし阿波の傾斜地農耕システムを保全する意義は,地すべり地帯である当地域で生活を継続する上で必要な減災機能や,生産物を高付加価値化できる生物多様性保全機能を継続的に発揮することである。これを保全するためには,住民や営農者などに伝統的な農法で営農しようという態度を醸成することが有効と考えられる。このような態度の醸成や,伝統的な農法での営農の実行を促すためには,環境心理学的なモデルを用いてそれらの影響要因を明らかにすることが必要である。

  • 内川 義行
    2018 年 86 巻 11 号 p. 989-992,a1
    発行日: 2018年
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル フリー

    欧州山岳条件不利地の農業的土地利用は多くが放牧地である。一方,わが国の中山間地域は主に耕種農業で対照的である。限られた担い手での農林地維持が困難な中,家畜利用による空間利用・管理を根本的に見直すべきであろう。本報では山地酪農を取り上げる。地形改変を伴わないシバ地放牧を基本とし,里山・森林内の草資源も活用する。耕作放棄地・管理不足林地の利用,家畜生産の拡充,輸入飼料の抑制,家畜生産者の労力軽減など,多様な観点から期待しうる。しかし新規実施の用地確保には多くの障壁がある。そこで本報では,①山地酪農の概況,②自治体主導で導入を図る長野県根羽村の事例から,その用地確保および新規就農者導入の現況を示した。さらに③今後の課題,特に土地利用計画の面から考察を行った。

  • 竹田 佳央, 小林 久
    2018 年 86 巻 11 号 p. 993-996,a1
    発行日: 2018年
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル フリー

    地域に賦存する木質バイオマスを利用し,実際に稼働している熱需要施設を対象に,現地調査に基づくキャッシュフロー推計によって地域経済への波及効果を分析した。結果として化石燃料の木質バイオマスへの転換は,地域経済に少なくない波及効果を及ぼすこと,産業連関表を利用しない事業費積上げ方式の手法を取ることによって,施設導入や運営に際し,より多く地域内に支払うような工夫が必要になることを明らかにした。中山間地域における木質バイオマスなどの地域資源を利用し,地域経済活性化を目指す方策では,資源流通の検討や,経営マインドを持つ地域内事業体を増やすような取組みが重要であることが考えられる。

  • 柿野 亘, 落合 博之, 平野 賢志, 益子 祐二, 眞家 永光, 髙松 利恵子, 森 淳, 丹治 肇
    2018 年 86 巻 11 号 p. 997-1000,a2
    発行日: 2018年
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル フリー

    近年,耕作放棄地面積の変化率については横ばいであるものの,再生利用が困難と見込まれる荒廃農地面積は,年々増加している。これは沢地の水田(沢田)の耕作放棄に伴い,遷移が進行していることを意味している。周辺がほとんど管理放棄された水域では,災害によって岸辺が侵食されても,災害復旧のための税金が投入される確率は低くなりつつある。地域での人口減少や農業構造変化に伴う集落機能低下が懸念される中で,農地集積後や集積不可な場所での自然資源管理のあり方は,緊急課題である。そこで,本報では,地域住民が主体となった自主的施工モデルを展望して実施した試験護岸施工を踏まえ,地域住民による自主的な施工の現実性および同様の小規模な工事の地域における活用案を提案したので併せて報告する。

  • 小川 真如
    2018 年 86 巻 11 号 p. 1001-1004,a2
    発行日: 2018年
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル フリー

    本研究は,中山間地域等直接支払制度と田の関係性の整理と,低米価の影響の検討を踏まえて現行施策の課題を明らかにした。工学的条件不利性に着目した生産費格差の補塡を手法とする中山間地域等直接支払制度は,米価下落に対抗し得ないほか,生物学的・化学的条件不利性を補塡できない。このため,中山間地域の湿田のように二重苦を抱える地域は,米価下落による営農の困難さが増幅する。米需給調整や湿田活用には飼料用水稲が期待されるものの,全国一律の政策枠組みのもとで不作付け解消に十分に貢献していない。さらなる低米価時代を見据えるならば,たとえば,中山間地域に対象を絞った飼料用水稲振興政策が検討されるべきと指摘した。

  • 島本 由麻, 鈴木 哲也
    2018 年 86 巻 11 号 p. 1007-1010,a2
    発行日: 2018年
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル フリー

    本報では,新潟県で稼働しているもみ殻ガス化コジェネレーションシステムを事例として,地域資源「もみ殻」を循環利用した材料設計を考察した結果を報告する。検討の結果,もみ殻およびもみ殻灰を活用することで,エネルギーを創出できるとともに環境負荷を低減できることが示唆された。より適切な環境親和型材料を志向する場合,資源循環を留意することにより効果的な材料設計が可能になると推察される。

  • 吉永 育生, 山岡 賢, 嶺田 拓也, 小出水 規行, 渡部 恵司
    2018 年 86 巻 11 号 p. 1011-1014,a2
    発行日: 2018年
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル フリー

    土地改良区における維持管理にかかる問題を把握し,農業水利施設の役割を説明する機会である生きもの調査の実態と,それによる維持管理にかかる効果を調べるため,土地改良区を対象として聞取り調査を実施した。生きもの調査を実施している土地改良区では,維持管理作業への参加率向上にかかる効果は感じられていないものの,農業や農業水利施設に対する理解の促進と地域内外のコミュニケーションの面がメリットとして評価されている。

  • 小池 聡
    2018 年 86 巻 11 号 p. 1015-1018,a2
    発行日: 2018年
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル フリー

    近年,都市圏農業や田園居住に対する政策的関心が高まっている。農業の多面的機能を維持し環境文化として都市と共有していくには,農村集落の活性化が必要である。しかし,大都市郊外における集落活性化の研究は,中山間地域と比べあまり活発ではない。本報は,農地の市民耕作を推進力にした郊外農村集落の活性化の可能性を事例的に示すものである。しかし,それには市民農の組織化という課題がある。事例集落は都市化の中で農村環境文化が継続している点で特徴的である。それを活かそうとする理念の共有が,共同耕作の実績とともに市民農の側に求められる。ここでは,組織化を促す枠組みとして,農的営みの生活空間を保全する土地利用計画の必要性を指摘した。

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