農業農村工学会誌
Online ISSN : 1884-7196
Print ISSN : 1882-2770
78 巻, 7 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
 
  • 佐藤 武信, 三沢 眞一, 吉川 夏樹
    2010 年 78 巻 7 号 p. 559-562,a1
    発行日: 2010年
    公開日: 2019/01/08
    ジャーナル フリー

    圃場整備は,農地の生産性を飛躍的に向上させた一方で,水田-排水路間の落差の形成により生態環境に負の影響を与え,水田で繁殖するドジョウの移動を阻害している。本報では,筆者らが開発したドジョウの移動を可能にする波付き管水田魚道の遡上性能および普及性を評価するとともに,普及に向けた今後の課題を検討した。その結果,波付き管水田魚道は,小さい通水量で高い遡上性能を発揮することが分かり,営農への影響が小さい水田魚道であることが示された。また,材料費も安価であり,施工性も良いため,高い普及性を備えている。今後の普及に向けて,適切な設置条件の解明や通水量調整装置の開発など現地の実状に対応した検討が必要である。

  • 小路 敦
    2010 年 78 巻 7 号 p. 563-566,a1
    発行日: 2010年
    公開日: 2019/01/08
    ジャーナル フリー

    かつて国土の1割以上の面積を占めていたとされる日本の半自然草原(水田畦畔等の半自然植生をも含み,野草地,半自然草地などとも呼ぶ)は,高度経済成長期以降,消滅の危機に瀕している。その結果,キキョウやフジバカマなど,農村で身近に見られた多くの植物が絶滅危惧種に指定されるようになった。現在でも比較的まとまった面積で半自然草原が残存する九州・阿蘇地域でも,近年半自然草原の維持が困難となってきており,保全と再生に向けたさまざまな取組みが行われているが,このような取組みを効率的に推進するためには,地形や土壌などの立地条件に応じた適切な草原の管理法を明らかにする必要がある。本報では,阿蘇地域の半自然草原において実施された試験・調査から見えてきた,草原性植物の多様性維持・保全に向けた新たな課題について報告する。

  • 皆川 明子, 西田 一也, 千賀 裕太郎
    2010 年 78 巻 7 号 p. 567-570,a1
    発行日: 2010年
    公開日: 2019/01/08
    ジャーナル フリー

    農村地域では大部分の水田が近代的圃場整備を終えつつあるのに対し,東京都多摩地域に現存する水田地帯は用排兼用の未整備水田が多い。また,全国的に水稲作期が早期化した中で,多摩地域の田植え時期は現在も6月の梅雨期と重なっており,ドジョウやフナなど水田を繁殖場として利用する魚類にとって好適な環境を維持している。また,崖線,湧水も水田地帯と一体的に存在することから,湧水や樹林帯に生息する生物も含めた多様な生物が生息している。相続や宅地化によって水田は大きく減少しているものの,都市住民の農地保全意向は年々高まっており,消費者と近いからこそ生き物のにぎわいある水田を活かした農業の展開に可能性があると考える。

  • 満尾 世志人, 角田 裕志, 千賀 裕太郎
    2010 年 78 巻 7 号 p. 571-574,a1
    発行日: 2010年
    公開日: 2019/01/08
    ジャーナル フリー

    近年,ため池を生物の生息場として保全する動きがみられつつあるものの,保全策に関する知見の蓄積および議論は十分に進んでいない。特に,灌漑利用の失われたため池では,それまで遷移を抑制していた維持管理作業も失われており,水生植物の繁茂や陸地化の進行が生息する生物に影響を与えることが予測される。そこで本報では,水生植物の生育状況が魚類の生息に与える影響について分析を行い,そこからため池保全の現状と課題について考察を行った。調査の結果,水生植物の過度な拡大は魚類の生息に負の影響を与えると考えられた。また,灌漑利用を失ったため池において水生植物帯の極端な拡大が認められ,維持管理の消失が急速な生物多様性低下につながる可能性が示唆された。

  • 今井 忠延, 岡村 仁
    2010 年 78 巻 7 号 p. 575-578,a2
    発行日: 2010年
    公開日: 2019/01/08
    ジャーナル フリー

    平成18年から平成19年において,千葉県の農業土木職員を中心に実施された田んぼの生きもの調査の結果をもとに,水路の断面構造や堆積物の有無などが魚類に及ぼす影響について,ノンパラメトリック検定等による分析を行った。その結果,土水路と2面護岸の魚種数には有意差がなく,また3面護岸と比較すると,土水路と2面護岸の魚種数が有意に大きかった。一方,本調査では堆積物の有無および水深の深浅による魚種数への影響は明らかではなかった。土水路は他の断面構造よりも希少種数が多く,魚類に良好な生息環境を形成していると考えられるとともに,2面護岸では土水路と同程度の魚種数が保全される可能性があることが示唆された。

  • 成岡 道男, 大矢 徹治, 奥田 幸夫, 大西 純也
    2010 年 78 巻 7 号 p. 579-583,a2
    発行日: 2010年
    公開日: 2019/01/08
    ジャーナル フリー

    本報では,JIRCASがウズベキスタンの農地塩害を軽減するために提案するコンセプトを紹介し,アンケート調査の分析結果をもとに支援の方針および対策について考察した。その結果,フェルメル支援の方針として,所得向上策では綿花と小麦の増産や裏作・作付体系などの見直しが重要なこと,意識改革を行うためには現状認識と改善状況の確認が不可欠なこと,適正な農地管理には研究機関や先進的なフェルメルが研究・実施している技術を普及させる方法の検討が重要なこと等が導き出せた。また,その支援方針から具体的な活動を提案することができた。

  • 吉永 育生, 濱田 浩正, 濵田 康治, 藤原 洋一
    2010 年 78 巻 7 号 p. 585-588,a2
    発行日: 2010年
    公開日: 2019/01/08
    ジャーナル フリー

    ラオス中部の農村地域を対象として,水質環境と水利用にかかる現地観測を実施し,村内の井戸,近傍の湧水,水田と河川水を調査した。すべての地点でCl濃度は低く,利水上は問題とはならない。隣接するタイ国東北部では,岩塩由来のClが水源開発時の支障となっていることとは対照的であった。しかし,湧水の一部は,重金属類の濃度が高く,飲料に適さなかった。栄養塩類濃度は,村内の井戸では濃度が高く,家畜排水の混入が懸念されたが,水田や河川の濃度はきわめて低かった。また,乾期の水不足解消のため,生活用の井戸を新たに掘削し,水量,水質ともに良好であることを確認した。

  • 石黒 宗秀, トラン ティ ツ ハ, グエン ホ ラム
    2010 年 78 巻 7 号 p. 589-592,a2
    発行日: 2010年
    公開日: 2019/01/08
    ジャーナル フリー

    近年のベトナムの水田農業の変遷と現状についてまとめた。現在,米生産量は世界第5位,輸出量は世界第2位であり,世界の水田農業を考える上で重要な国の1つである。ベトナム戦争終了後から今日までの稲作付面積,生産量,単収,輸出量の変遷を示すとともに,その変化をもたらした農民組織の変遷についても述べた。また,灌漑システムの整備や,農薬,化学肥料,機械化による近代化の進行する状況を示し,現状を分析した。ベトナム政府の米政策,農村振興政策を紹介し,今後の展望を示した。

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