日本の中心的な養蚕地域における農家の兼業,とくに兼業率・兼業種類について類型分析を行ない,さらにそれぞれの代表地域の事例研究によって,兼業の性格と構造,ならびにそれのもつ意義について比較考察した.これにより,つぎのような事実がほぼ明らかとなった.
まず,山間養蚕村においては,とくに養蚕と兼業への強い指向がみられるが,この場合の兼業は,自律的兼業ともいうべく,現金収入源あるいは過剰労働力燃焼の手段として,早くから経営の一部に組み入れられ,定着したものとなっている.ここでは,兼業化の進展とその深化は普遍化して,階層的特徴:はうすく,また,その分解ないしは離農・離村と必ずしも結びついていない.
これに対し,平地の養蚕地域においては,工業発展の影響によって,通勤兼業化が進み,農業の粗放化や養蚕農家率の低下が著しい.都市化ないし工業化の直接的な影響によるこのような他律的兼業化の進展は,一部の零細通勤兼業農家の離農を促進しつつあるが,他方では,専業農家を中心に,養蚕・園芸・酪農等による集約化,多角経営化も進みつつあって,農家間の分極化ないし分解の傾向が顕著にうかがわれる.
近年,日本の養蚕農家ないしは養蚕地域において,とくに兼業化の進展が著しく,かつての専業(農家)的性格はうすれている.このような養蚕地域における兼業的性格の深化は,日本の養蚕立地重心の平地→山地への漸次的移行に伴う,山聞村の自律的高兼業率地域の養蚕比重の相対的な増大と密接に対応している.そうしてかかる変化は,今後いっそう強まることが予測される.
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