本論文は, 非集計行動モデルによるOD交通量の推定方法を検討したものである.
非集計交通行動モデルは, 基礎となる論理の明確さ, 高い説明力, 従来の集計モデルと比して少ないサンプル数でモデル構築できるという効率性等の利点から注目されているが, 適用例のほとんどは交通機関選択の予測であった. トリップの目的地選択問題 (OD交通量の推定問題) では, 目的地をゾーンとして把える必要があり, 個人の意識する目的地とゾーンの差異, ゾーニングの確定方法や選択代替肢数 (目的地数) の多さ等, 非集計モデル構築に対する多くの難しさを含んでいる.
本論文は大別して3つの部分から構成されている.
第1は実際の目的地をゾーンとして集計化することに対する選択モデルの理論展開を行った2. であり, その基礎となっているのは Nested Logit Model の考え方である.
第2は, 非集計目的地選択モデル構築のためのサンプリングと推定問題に関する3. である. 3.1では, 莫大な要素数の代替肢全集合からサンプリングにより小数の目的地代替肢を抽出してパラメーター推定を行う方法を, McFadden (1978) が住宅地選択問題に際して展開したものを基礎に検討している. 3.2ではモデル構築に用いるトリップデータのサンプリング問題を, Choice-based Sampling, Enriched Sampling の理論に基づいて検討している.
第3は, フランスとブラジルで適用した事例を示した4. である. パリに関しては, 595ゾーンに対して, 906サンプルを用いた私用トリップの目的地・交通手段同時選択モデルと1020サンプルを用いた買物トリップの同種モデル構築結果を示している. ブラジルのマセイオ市の例は, ゾーン数35に対し1016サンプルを用いた通勤トリップの目的地, 交通手段さらに昼食時に一時帰宅するか否かの同時選択モデルである.
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