デザイン学研究
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44 巻, 3 号
選択された号の論文の10件中1~10を表示しています
  • 石川 重遠
    原稿種別: 本文
    1997 年 44 巻 3 号 p. 1-8
    発行日: 1997/09/30
    公開日: 2017/07/25
    ジャーナル フリー
    19世紀初頭のロンドンで誕生した書体「ファット・フェイス」の形態の成立について次のように考察し、まとめた。(1)端物印刷媒体の興隆により、ディスプレイ・タイプとしてファット・フェイス・ジョビング・レターの使用が活発化した。これらの活字書体がより大きく、より太く、目立つ書体として形成されたものがファット・フェイスの基本となった。(2)18世紀には書籍用活字鋳造界のモダンな活字書体の継続的開発が活発に行われた。それらの書体の形態構成要素がファット・フェイス・ジョビング・レターに取り入れられたことは、さらに、ファット・フェイスヘと発展するための重要な形成要素となった。(3)ファット・フェイスは、当初、トランジショナル・ローマン系とモダン・ローマン系の書体があったが、モダン・ローマンの形態を強く受け継いだファット・フェイスがその典型として確立された。
  • 五十嵐 浩也
    原稿種別: 本文
    1997 年 44 巻 3 号 p. 9-18
    発行日: 1997/09/30
    公開日: 2017/07/25
    ジャーナル フリー
    工業デザインの対象は, 技術・社会の変化に伴って道具から機械へ, さらに機械から情報機器へとその範囲を拡張してきた。この拡張は, 本論文に於いて, 単体からシステムヘの展開と考えている。しかし, 現在の工業デザインの手法は, 必ずしも対象の拡張に歩調を合わせてきたとは言えない。工業デザインの手法は基本として動かない構造体に対応して形成されてきたものであり, 動きや情報を的確にとらえられるものではない。また, 情報を取り扱うシステムの進展に伴ってその内部にサイバースペースと命名される仮想的な世界が顕在化し, 実体のある世界との関係が曖昧になってきている。本考察は, この様な情報によって形成されつつある状況の中で, 工業デザインが担う新たな役割・意味を情報とシステムの性質を考察する事によって模索し, 方法を探索している。かつ今後の機器・システムの姿, 方向性を探るとともに, 工業デザインの在り方についても言及する。
  • 益岡 了, 材野 博司
    原稿種別: 本文
    1997 年 44 巻 3 号 p. 19-28
    発行日: 1997/09/30
    公開日: 2017/07/25
    ジャーナル フリー
    空間を動的に捉えるシークエンスの研究において、空間の移動に伴う視覚的な変化や歩行者の空間認識といった観点からの継起的な空間の構成について検討することが必要である。本研究では、人間の視覚情報処理系の働きに着目し、実際の空間における歩行者の行動とその空間の映像を比較し、両者の関係を解明することを目的としている。本報告では既往の研究成果の上に立って、明暗に関する情報と輪郭に関する情報をもとに、撮影した映像の空間情報と歩行者の視覚的な行動、歩行に要した時間、前頭部の電位について比較を行った。その結果、一様な空間が連続する場合、歩行中の視覚行動量は歩行開始直後では明暗の変化の割合に、後半では明暗の絶対値に関係していることが明らかになった。また歩行時間は輪郭の変化と、前頭部の電位は明暗の変化といった特定の映像中の空間情報とも関係することが明らかになった。
  • 内藤 郁夫, 安武 正剛, 飯岡 正麻
    原稿種別: 本文
    1997 年 44 巻 3 号 p. 29-34
    発行日: 1997/09/30
    公開日: 2017/07/25
    ジャーナル フリー
    16色の色票に透明クリヤラッカーで塗装し、鏡面光沢度一定の塗装サンプルを作成した(Gs=91.2±0.5)。そのハイライト方向における表色値を標準色票との比較より測定した。塗装(光沢面)により色票の明度が低下し、彩度が上昇した。しかし、塗装によるメトリック色相角の変化は観測できない。非塗装色票を加え、色彩と光沢感の関係を検討した。非塗装面の光沢感は明度の増加に比例して増加する。一方、塗装面では逆に、明度の減少に従い増加した。光沢感の一対比較法パラメーターを無光沢面と光沢面との明度差に対してプロットすると、良い直線関係が成立した。これより、色彩感を認識した後光沢を認識したと推論した。
  • 堀田 明裕
    原稿種別: 本文
    1997 年 44 巻 3 号 p. 35-42
    発行日: 1997/09/30
    公開日: 2017/07/25
    ジャーナル フリー
    高齢社会に突入した我が国では、デザインの新しい視点としてユニヴァーサルデザインが模索され始めている。ユニヴァーサルデザインは、従来の建築空間を中心にしたバリアフリーデザインなどの概念も含み、能力や年齢にかかわりなく多くの人々によって使い得る環境や製品をデザインするという概念である。この概念は我が国の高齢社会における社会環境開発の目標として今後重要になると考えられるが、現時点では具体的な方法論が確立されているわけではない。本論では、まず、ユニヴァーサルデザインの発生の経緯と現状について整理した。次に、人間特性と環境との関係で生じる不適合をなくす概念として、筆者のユニヴァーサルデザインの考え方を示した。次に、環境との不適合を解消するために、すべての身体的ハンディキャップに配慮すべき環境デザインの要因を整理した。これらの結果をもとに、デザインフレキシビリティの考え方によって、共用という視点でユニヴァーサルデザインの方向を位置づけた。
  • 石村 真一, 田中 みなみ
    原稿種別: 本文
    1997 年 44 巻 3 号 p. 43-50
    発行日: 1997/09/30
    公開日: 2017/07/25
    ジャーナル フリー
    本論は我が国の桶・樽文化の実体を追究する第4報であり、中世の絵画資料を通して樽の伝来期と初期形態を明らかにすることを目的とするものである。中世の文献資料、絵画資料を通して樽の出現期を考察した結果、早ければ15世紀初頭には樽が出現していることが確認された。中国大陸では北宋代に樽が成立していることから、桶に比較してかなり遅く伝来したということになる。我が国における樽の初期形態は多様で、16世紀初頭の絵画資料には現在使用される4斗樽に似たタイプ、柳樽、やや偏平な樽の3種類が認められた。こうした樽は近世の樽文化の基礎をなし、経済や生活文化の発達に大きな役割を果たした。
  • 庄子 晃子
    原稿種別: 本文
    1997 年 44 巻 3 号 p. 51-58
    発行日: 1997/09/30
    公開日: 2017/07/25
    ジャーナル フリー
    1933年11月11日から商工省工芸指導所で顧問を務めたブルーノ・タウト(Bruno Taut、1880-1938)は、翌年3月6日の離任に際し、3月5日付で"Bericht uber meine bisherige Arbeit fur Kogeishidosho-Sendai(仙台の工芸指導所のための私のこれまでの仕事に関する報告)"を提出した。この中でタウトは、工芸指導所で果たした仕事を、1.大規模なプログラムの提案、2.個別的なプログラムの提案、3.優良品の選択、4.教育的な仕事、5.実際的な仕事、に五分類している。1.は1933年11月14日付の工芸指導所への提案"PROGRAMM(プログラム)"を指し、2.は研究試作についての個別的具体的諸提案を示す。3.は見本のための国内外の優良工芸品の選択を、4.は所員への教育を意味する。5.はタウトのデザインになるドアハンドルとタウトの指導による木製仕事椅子、金属製卓上照明具などの"Mustermodell(規範原型)"の試作研究実践の報告である。この文書は、工芸指導所でのタウトの仕事の全貌を彼自身が記録したものとして、さらには昭和初期の工芸指導所のデザイン研究の実情を示すものとして重要である。
  • 庄子 晃子
    原稿種別: 本文
    1997 年 44 巻 3 号 p. 59-68
    発行日: 1997/09/30
    公開日: 2017/07/25
    ジャーナル フリー
    ブルーノ・タウト(Bruno Taut、1880-1938)は、仙台の商工省工芸指導所顧問の職を辞して去る最後の日の1934年3月6日の日記に、「指導所の展覧会について更に一つの案を立てる、新しい方向の特徴をはっきりさせるためである」と記している。幸いにその文書"Vorschlag fur Ausstellungen von Kogeishidosho(工芸指導所の展覧会のための提案)"が今日に残る。その中で、タウトは、展覧会場内を三重の同心円状にレイアウトし、中心部に工芸指導所顧問として自ら収集した日本の伝統的優良工芸品を、その周りにタウト指導の照明具と家具の規範原型のための形態研究やデザインスケッチ等と製作が完了しているテストチェア、さらにはタウト設計でやはり製作が終わっているドア・ハンドルを、そして、部屋の周辺の壁沿いには工芸指導所の従来からの試作品を展示することを提案している。それは、工芸指導所が、タウトの指導を受けて、日本の伝統と西洋の近代の統合を基礎として、新しい日本の産業工芸を成立させるための作業を開始したことを示す展覧会の提案であった。
  • 井口 壽乃
    原稿種別: 本文
    1997 年 44 巻 3 号 p. 69-76
    発行日: 1997/09/30
    公開日: 2017/07/25
    ジャーナル フリー
    本研究はモホイ=ナジの芸術理念を正しく理解するために、その理念が確立された初期活動に焦点をあて背景を探ることを目的としている。著者はこれまでハンガリー時代の活動について調査し、その結果モホイ=ナジが「行動主義」の運動に少なからず影響を受けたことが明らかとなった。本稿では、ハンガリー=ソビエト共和国の崩壊によってベルリンに亡命したモホイ=ナジが、1920年から23年の間の機械技術と芸術を結びつけた「構成」の概念に到達するまでの過程を追い、グループ「MA」との関係を明らかにする。本稿では特に雑誌『MA』に焦点をあてたが、それは、これが国際的なアヴァンギャルド雑誌へと成長し、広範な芸術運動のネットワークの媒介としてヨーロッパ全体の芸術家の交流と発展に重要な役割を果すようになるからである。そしてモホイ=ナジとカシャークは写真映像という国際的に共通の視覚言語による近代グラフィック・デザインのひとつの形を生み出すのである。それは行動主義者たちが目ざした芸術の民主化であった。
  • 近藤 祐一郎, 小倉 久子, 宮崎 清, 田中 みなみ, 青木 弘行
    原稿種別: 本文
    1997 年 44 巻 3 号 p. 77-84
    発行日: 1997/09/30
    公開日: 2017/07/25
    ジャーナル フリー
    稲作農村地域において産出される藁や籾殻を用いた生活雑排水処理システムの開発を目的として、藁と籾殻のろ材としての可能性を排水処理実験により検討した。実験は、藁と籾殻をそれぞれ乾燥状態、繊維状態、炭化状態に加工したものを試料とし、これらに疑似汚濁水を通水することにより実施した。その結果、1)炭化状態に加工した試料が汚濁質処理性能に最も優れ、特に油脂性汚濁質を含む排水について有効で、市販ろ紙袋よりも優れた結果が得られること、2)約675g(約25cm^3)の籾殻燻炭を用いることにより、標準家庭の炊事時に排出される1回分の汚濁質を吸着・分離できること、3)装置形状やろ過構造の変更、他の処理法との併用によりさらに性能向上が期待できることなどを明らかにした。
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