畳まれた長傘による歩行時のヒヤリハット事例が日本の行政機関からしばしば報告されているが,長傘の危険な持ち方に関する対策検討が少ない.代表的な危険な持ち方に,長傘を地面に対して水平に持つ横持ちが取り上げられる.その問題に対し,長傘の先端が地面に向かうように持つという持ち方の啓発活動が主な対策である.しかし,横持ち以外の持ち方の危険性や,危険な持ち方に至る人々の心理の探究が少ない.本稿では,2種類の長傘の持ち方調査と,調査結果に基づく3種類のプロトタイプを提案し,その使用感をヒアリングした.持ち方調査から長傘の先端をつけない持ち方を,あるいは周囲への迷惑がないと判断すると本人にとって楽な持ち方を優先する傾向が確認された.この知見に基づいて製作された各プロトタイプのヒアリングから,楽な持ち方に適したものが好まれる傾向があった.
本研究は,明治時代における社会通念としての美術の形成過程を明らかにするために,計量テキスト分析を用い,新聞にみられる「美術」に関連した社会的出来事が,明治期の歴史的かつ社会的文脈でいかに当時の人びとに共有されたかについてそのプロセスを検証した。その結果,官製用語として誕生した「美術」に対する社会的認識の形成については,第一段階の明治10 年代までは実態,つまりものに重点を置き,第二段階の明治20~30年代においては価値観ないし価値体系を中心に,また第三段階の明治30 年代以降は概念,いわばジャンルを理解するといったプロセスで定着してきた。それは,エリート層を中心とする上流社会の人びとが概念からジャンルに,さらに価値観ないし価値体系という順序で「美術」を受け入れたのに対して,一般民衆はほぼ相反するプロセスに基づき美術を理解してきたといえる。また,明治政府が「美術」という概念を導入し,既存の絵画が「日本画」に統合されたことによって,日常生活における絵画の機能性・意味性は漸次に低下し,鑑賞対象となっていった。
近年,デザイン非従事者がデザインのプロセスに参加するような考え方や活動が注目されてきているが,多くの人々がデザイン行為に対する自己効力感に課題を抱えていると考える。本研究の目的は,デザイン非従事者に,共創という状況の中でDual Focus の考え方を援用したリフレクションを行わせることが,デザイン行為に対する自己効力感にどのような影響を与えるのかを明らかにすることである。デザインを専門的に学んでいない大学生に対して,デザイン行為を伴うグループワークを実施させた後,Dual Focus を用いてリフレクションをした群(他者視点を介入させる群)と,用いずにリフレクションをした群(他者視点を介入させない群)の2つに分け,それぞれの効果を分析した。その結果,グループワーク実施後にDualFocus を援用したリフクションを行った群は,自己に対してより詳細に振り返る傾向が確認され,さらにデザイン行為に対する自己効力感の一部分が有意に向上していることが分かった。
本研究は,創造的なアイデア開発のための,概念結合活用(CC),アナロジ活用(A),およびそれらの関係を検討した。大学生170人を対象にアイデア開発実験を行ったところ,CC を例示により促した群(CCg),A を例示により促した群(Ag)および促進なし群(Cg)の比較において,Cg よりもCCg の方に,CC をした者が有意により多く,Cg よりもAg に,A をした者が有意により多かった。Cg よりもCCg あるいはAg の方が,有意により遠い概念を用いた。ここで例示には開発対象分野から遠い概念をヒントとして含んだ。CC ダミー,開発対象ーヒント間距離などを独立変数,アイデア創造性を従属変数とした重回帰分析において,開発対象ーヒント間距離の標準回帰係数のみが有意となった。これらから,CC あるいはA を例示により促せば,より確実にそれらを用い,例示が開発対象から遠い概念をヒントとして用いる例であれば,そのような概念が用いられること,開発対象からより遠い概念を用いれば,より高いアイデア創造性に結びつくことが示された。
本研究では、赤色系内装材 テクスチャにおける奥行き感評価に影響を及ぼす物理特性を明らかにするため,分光反射率の測定実験を実施した.実験では,計測角度の差異を考慮し,正反射光に対して各測定角15°,45°,110°のハイライト,セミシェード,シェードの3角度で測定した. また,その測定データと過去の研究で得た奥行き感評価との対応関係を分析した.
その結果,ハイライトにおける分光反射率の最大値と最小値の差分やセミシェードとシェードにおける分光反射率の各最大値の差分が,奥行き感評価に関与することが示された.このことから,複数の計測角度による評価が赤色系内装材テクスチャの奥行き感評価に影響する可能性が示唆された.以上により,今後の赤色系内装材テクスチャ開発における評価の一助となりうる知見を述べた.
本研究は植物の動きを模倣した人工物が室内雰囲気に影響を及ぼすかを検証するため,麦穂,タンポポ,スイレンといった3つの植物の形態とその動きを模倣する3つの人工物を制作し,自作照明器具の動きの有る場合,無い場合,市販照明器具の場合の3つの場合において空間印象がどのように変化するのかを比較検討した。男女60 名の実験参加者は3群にランダムに振り分けられ,それぞれ空間を観察した後に印象評価に関する質問紙へ記入した。分散分析行った結果,人工物が動きによって室内雰囲気評価や印象評価にポジティブな影響を及ぼすことが示された。研究の実験結果として,自然物を模した動きをする人工物の動作を設定することによって,制作した照明器具の動きが室内雰囲気を創出することができる可能性が見いだされた。