デザイン学研究
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選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
  • 山本 和史
    2024 年 70 巻 4 号 p. 4_1-4_8
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/19
    ジャーナル フリー

     本研究は、里山における広葉樹(雑木)の利用促進を目的として,生木のロクロ加工を取り上げる。加工材の乾燥変形や割れについて,3D スキャナーとCAD を用いて可視化する研究を行った。14 樹種の生木から検体をロクロ加工で作製し,乾燥過程を経て,変形の立体的なデータを記録した。検体の乾燥による形状変化を計測し,計測図と数値を樹種ごと図表形式にまとめた。これにより比較検証を可能とし,樹種と繊維方向,加工方向による変形特性を解明した。その結果,芯持ち縦目検体は,樹種に限らず正円性が高く有効な加工方法であることを確認し,形状が繊維方向に伸びる特徴があることがわかった。横目検体は全てが楕円形に歪み,形状高が低くなる共通性があった。そして経験的に語られてきた加工方向(内向き・外向き)の違いによる変形を定量化することができた。これらを既知資料と比較検証することにより樹種の変形特性が明らかとなり,未解明であった樹種の収縮級区分を判断することができた。

  • 堀川 将幸, 黄 輔立, 佐藤 浩一郎, 寺内 文雄
    2024 年 70 巻 4 号 p. 4_9-4_18
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/19
    ジャーナル フリー

     本稿では,精神価値の成長,変化にともない長期利用を促すサービスデザインを行うための指針を導出することを目指す。具体的には,まず長期利用されているサービス体験を調査し,短期間,中期間,長期間の3つの利用期間ごとに,発生している価値を抽出した。抽出した価値をクラスター分析し,この結果に基づいた経験価値変化モデルを提案した。提案モデルは,短期間から長期間まで発生する「安心感」「気軽」「高揚感」「向上心」の精神価値と,短期間から中期間に見られる「魅力」の精神価値と,中期間から発生する「自己肯定感」,長期間に至り発生する「愛着」の精神価値が時間変化するモデルとなった。さらに,各事例の価値成長の変遷をクラスター分析することで,長期間に「安心感」「高揚感」「向上心」「愛着」へと精神価値を成長させる主要なパターンを見出した。これらの結果,提案した経験価値変化モデルが,サービスデザインの指針となりえる可能性が示された。

  • 張 紫薇, 前川 正実
    2024 年 70 巻 4 号 p. 4_19-4_28
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/19
    ジャーナル フリー

     デザイン活動における二種類の推論段階のアイデア発想においては,対象の抽象度が異なる。新たな価値創出を目指し,実現手段を幅広く検討してコンセプト構築するためには抽象度の高いアイデア発想が求められる。デザイナーが双方のアイデア発想をする際の違いについて知見を得るため,本研究では連続する二種類のアイデア発想時の脳前頭前野と自律神経の活性状態を調査し,脳賦活に関して次の結論を得た。1.抽象度の高いアイデア発想の方が脳賦活は大きい。2.後のタスクの脳賦活は低減する。3.アイデアを多く出した群は最初の抽象度の高いアイデア発想においてより大きな脳賦活をする。この他,関連性の無い連続する二課題において,アイデアを多く出した群は最初のタスクでより大きな脳賦活をするのに対し,アイデアを出しにくかった群では両タスクの脳賦活に差が無いことがわかった。

  • ―1960年代から80年代の言語記号によるコンセプチュアル・アートに着目して
    長島 聡子
    2024 年 70 巻 4 号 p. 4_29-4_34
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/19
    ジャーナル フリー

     コンセプチュアル・アートの動向が急速に展開した時期である1960 年代,欧米や東アジア諸国において,言語記号に依拠した芸術作品が数多く発表された。作品要素としての「言語」を積極的に用いた芸術家らの一部は,アーティスト・ブックと呼ばれる本形態の芸術作品へと表現を展開した。しかし活版印刷や平版印刷の技術から発展したタイポグラフィ史において,コンセプチュアル・アーティストの仕事は特に注目されてこなかった。「複製技術」による表現では,芸術作品における唯一無二の存在意義が失われるという傾向が,コンセプチュアル・アートとタイポグラフィとの乖離に影響したと考えられる。アーティスト・ブックの源流には,印刷術においてかつて分業されていた製本業,つまりブックデザインの領域までを担うタイポグラファの登場がある。本論説では,まずコンセプチュアル・アートとタイポグラフィという語の定義について整理した上で,60 年代から80 年代に制作されたアーティスト・ブックにおける活字や印字を用いた表現を,タイポグラフィの文脈から考察した。

  • ―全国の基礎自治体職員を対象にした質問紙調査
    五十嵐 悠, 水嶋 輝元, 岩嵜 博論
    2024 年 70 巻 4 号 p. 4_35-4_44
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/19
    ジャーナル フリー

     複雑化する行政課題の解決に向け,デザインアプローチの適用が有用とされる。実際に国内でも適用の動きが見られ始め,住民に最も身近な行政主体である基礎自治体では,その有用性が特に期待される。今後適用を進める上で,現状における職員のデザインに対する認識や実践を把握する必要がある。そこで本研究は,基礎自治体職員におけるデザインの認識や実践の現状を把握,また政策課題の複雑化に対する認識とデザインの関係性についての2 点を明らかにすることを目的とした。定量的に把握を行うため,全国の基礎自治体職員を対象に質問紙調査を実施した。その結果,政策課題が複雑化していると思う職員は,思わない職員に比べ,デザイン思考に対する認知度に差は見られなかった。一方で,個々のデザイン手法に着目すると,「バックキャスティング」,「インタビュー/ヒアリング調査」に対する活用頻度が高く,これらの手法に加え「ペルソナ」,「プロトタイピング」,「リビングラボ」,「ナッジ」の手法に対する職員の期待値が相対的に高いことも分かった。

  • ―『記者ハンドブック』を分析対象として
    応 夢, 田中 瑛, 尾方 義人
    2024 年 70 巻 4 号 p. 4_45-4_54
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/19
    ジャーナル フリー

     本研究では、『記者ハンドブック』における差別語の変遷を探求し、視覚化分析を行った。差別語の歴史的な変遷を追跡することにより、時代の変化とともに、特にジェンダー平等の意識が進歩し、差別語の言い換えに反映されていることが明らかになった。この変化は社会の公正性や平等性の進展を示しているだけでなく、メディア表現の構造が大きく変わり、ジェンダー問題に対する社会の関心が高まったことも反映している。
     さらに、本研究は視覚化分析が差別語と社会的背景の相互作用を理解する上で重要な役割を果たすことが示唆される。視覚化分析を通じて、社会的・文化的な実践が差別語にどのような影響を及ぼすかをより直感的かつ深く理解することが可能となり、この視覚化の手法は今後のデザインの実践に広く活用され、社会における議論を喚起するものだと考えられる。

  • ―日本の美意識を表現する工業デザイン造形研究(2)
    杉本 美貴, 宇山 明穂
    2024 年 70 巻 4 号 p. 4_55-4_64
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/19
    ジャーナル フリー

     本研究は,現代の工業製品のデザインにおいて「琳派」の美意識を表現するためのデザイン手法を導出することを目的に研究を行なった。そのために,既往研究にて琳派の作品は工芸と関係が深いと指摘されていることに着目した。はじめに,琳派を代表する56点の作品の227 件の作品解説を5つの表現特徴に分類し,それぞれの表現特徴に関する記述をデザイン手法ごとに整理した。次に,それらのデザイン手法と工芸との関係性について考察した。
     その結果,〈単純〉のデザイン手法が【面表現を簡略化】,【記号化】,【極端化】,【省略】,〈破調〉のデザイン手法が【構図を創意】,【再構成】,【暗示】,【定番を脱却】,〈相対性〉のデザイン手法が【対比】,【同調】,【絵と文字を融合】,〈加工開発〉のデザイン手法が【異種混合】,【新素材を利用】,【新工法を利用】,〈立体感覚〉のデザイン手法が【表裏を利用】,【構成を利用】,【手順を利用】であることを導出し,現代の工業製品の事例としてスマートフォンのUI の試作により,導出したデザイン手法の有用性が示唆された。

  • 河西 大介, 山本 早里
    2024 年 70 巻 4 号 p. 4_65-4_74
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/19
    ジャーナル フリー

     本研究は,介護老人保健施設の屋外施設において認知症の入所者を対象に散歩が与える影響とデザイン要素の関係を明らかにすることを目的とした。そのため,事例調査として特定の介護老人保健施設における認知症の入所者を対象に週1回実施されている散歩について1 年を通して屋外施設の現地調査,散歩の実施方法と観察調査及び散歩を担当している介護スタッフを対象にインタビュー調査を実施した。その結果,認知症の入所者ににっこりとした表情や微笑みなどの笑顔及び入所者と介護スタッフの会話などに影響を与えるデザイン要素は,四季をわかりやすく実感できる植栽の植樹,植栽を眺めることができる休憩場所の設置,道幅の確保と路面の段差の解消が確認された。加えて,そのデザイン要素を活かすための散歩の実施要領として屋外施設の掃除と危険因子の排除及び入所者の人間関係を踏まえた散歩グループの設定,入所者の体調と屋外施設の見頃の植栽などを踏まえた散歩コースの設定,屋外施設外の環境も活用したコミュニケーションの実施が確認された。

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