デザイン学研究
Online ISSN : 2186-5221
Print ISSN : 0910-8173
ISSN-L : 0910-8173
49 巻, 1 号
選択された号の論文の14件中1~14を表示しています
  • 渡辺 誠, 金 哲浩, 杉山 和雄
    原稿種別: 本文
    2002 年 49 巻 1 号 p. 1-8
    発行日: 2002/05/31
    公開日: 2017/07/19
    ジャーナル フリー
    本研究は日本の家電メーカーのインハウスデザイン部門を対象に,そのコア・コンピタンスを明らかにしたものである。本研究が日本企業に対象を限定した理由は,(1)企業内に100人近いデザイナーが存在する,(2)多くの企業が輸出に依存している,(3)ほぼ1年ごとに新商品開発を行っている,からである。本研究では,デザイン部門の部門長にインタビューを行う形式で資料を収集した。まず最初に,コア・コンピタンスの要件は業務・組織・資源の3つに分類できた。さらに,本研究ではこの3つの構造化を行った。その結果,コア・コンピタンスとしての以下の6つの指標を明らかにできた。業務「事業部型-部門型」「プロジェクト型-ステップ型」組織「センター型-事業部型」「効率型-開発型」資源「専門家型-汎用型」「個人依存-組織依存」そして本研究では,これらは,今後のインハウス・デザインマネージメントの一つの指標になりうると確信できた。
  • 針貝 綾
    原稿種別: 本文
    2002 年 49 巻 1 号 p. 9-18
    発行日: 2002/05/31
    公開日: 2017/07/19
    ジャーナル フリー
    1901年ダルムシュタット芸術家コロニーで開催された第1回展における重要な成果のひとつ-ペーター・ベーレンス設計による自邸のインテリアとそのデザインについて,本研究は論じる。ベーレンス邸は,各部屋のインテリア・デザインにおいてはモチーフの表現に重きが置かれている点が特徴的である。特に,玄関部分と音楽室に共通するデザイン・モチーフは,ベーレンス自身が演出した祝典劇「しるし」に由来している。クライマックスで預言者が生活のシンボルとして捧げ持つダイヤモンドというモチーフは,いま一つのモチーフであるクリスタルと対になるモチーフとしてベーレンス邸のインテリア・デザインの核となっている。テキストのクライマックスからモチーフを抽出するという発想は絵画的なものであるが、モチーフにシンボルを選択することで、ベーレンス邸は結果として曲線的なデザインが主流であったユーゲントシュティルを脱却して,他と一線を回すような幾何学的なデザインに辿り着いている。
  • 崔 祉淑, 森田 昌嗣
    原稿種別: 本文
    2002 年 49 巻 1 号 p. 19-28
    発行日: 2002/05/31
    公開日: 2017/07/19
    ジャーナル フリー
    本稿では,地下空間における歩行者のためのサインシステム構築の方法に関する研究の第一報として,福岡市天神地区地下街のサインをケーススタディに,以下の調査分析を行った。1)地下街のサインの種類を区分し,区間別種類の基数の比較。2)サインを設置場所別,種類別,機能別,情報内容別で区分し,その基数の比較。3)高さによるサインの種類を区分し,設置場所別の比較。4)設置場所別サインのパターン化。その結果,現在天神地下街の歩行者のサインは,一定な規則で設置されている一定型と設置場所によって密度の差が大きい密集型の分布特性に分けることができた。また,設置場所におけるサインの分布差異による情報の不均衡,サインの種類の不足による情報入手のしにくさ,などに起因する情報と情報間の連続性の不足が主な問題となり,地下街のサインの配置における空間活用に対する課題と情報の連続性が分断されているという2つの課題が明らかになった。この課題解決には,歩行者が移動する際の情報の把握を容易にする方法として,地下空間と歩行者との間における双方向コミュニケーションをうながすためのあらたな配置の必要性を示唆することができた。
  • 萩原 祐志
    原稿種別: 本文
    2002 年 49 巻 1 号 p. 29-36
    発行日: 2002/05/31
    公開日: 2017/07/19
    ジャーナル フリー
    社会的な情報インフラの整備を背景に,デザインに関する情報をユーザへ積極的に提供することが始まっている。さらに,ユーザの直接的なニーズや意見を参考にしたデザインの試みも始まっている。こうした状況を踏まえ,ここでは,大学生の机周辺における製品のデザインに関する統一感ということをテーマにして,ユーザが形や色に関する可能性を探るデザイン支援システムの構築を行った。まず,大学生を対象としたインタビューの結果を分析し,要求イメージ空間を作成した。次に,要求イメージ空間における位置と形・色の関係をルールとするファジィシステムを構築した。このシステムを用いて,要求イメージ空間の任意の位置におけるデザイン案を獲得するシミュレーションを実施した。その結果,パソコンが各家庭に普及した今,このようなシステムを用いることにより,形と色に関して,ユーザも参加できるデザイン開発の可能性を示した。
  • 斎藤 共永
    原稿種別: 本文
    2002 年 49 巻 1 号 p. 37-46
    発行日: 2002/05/31
    公開日: 2017/07/19
    ジャーナル フリー
    本稿は、デジタル機器に求められる製品コンセプトのイノベーションは、どのようなデザインプロセスによって達成されるのかを具体的な開発事例をとおして、探ったものである。製品デザイン開発の担当者などへの取材から以下のような諸点が抽出できた。(1)非モノ特性に焦点をあてたデザイン目標の設定。(2)技術シーズ主導型や市場ニーズ主導型ではない、開発者のビジョン主導のデザインプロセス。(3)プロトタイピングによるデザイン目標の形成プロセス。(4)トップダウンとボトムアップによる双方向的なコンセプト形成過程。(5)開発関係者どうしの組織を超えた知のインタラクション。これらはいずれも公式的な組織構造に依存しているものではなく、関係者どうしの非公式的な相互作用のありかたによるものであり、創発的なデザインプロセスである。デジタルがキーになる機器デザインにおいて、イノベィティブなデザインを実現するためのプロセスとして創発性が重要なキーとなることが明らかになった。
  • 斎藤 共永, 石田 貞良
    原稿種別: 本文
    2002 年 49 巻 1 号 p. 47-54
    発行日: 2002/05/31
    公開日: 2017/07/19
    ジャーナル フリー
    本研究は、デジタルカメラの製品コンセプトの成り立ちを、各社の事業領域との関連性において、明らかにするものである。主要4社の製品について調べた結果、デジタルカメラを性格づける要因として、カメラとしての基本機能・撮る機能・創る機能・繋ぐ機能、の4つに分類できた。これら各機能群に対する各社の比重の置き方について調べた結果、4社の製品開発の方向性の違いが分かった。その違いと、各社の事業ドメインのとの関連性を調べた結果、以下のことが分かった。1.フジフィルムはカメラのネットワークサービス機能を強化している。2.キャノンは光学技術の蓄積にたって、フィルムカメラの代替としてのデジタルカメラをめざしている。3.ソニーはAVやソフトとのシナジー効果をねらったエンタテインメント機器としてのカメラをめざしている。4.オリンパスは光学機器としてのカメラに徹している。これらをとおして、デジタル機器の製品のコンセプトが多様な方向へ変化する様相が明らかになった。
  • 斎藤 共永
    原稿種別: 本文
    2002 年 49 巻 1 号 p. 55-62
    発行日: 2002/05/31
    公開日: 2017/07/19
    ジャーナル フリー
    本稿では、多様な可能性を秘めたデジタル機器のデザインにおいて、イノベィティブなデザイン生成のための方法としてのプロトタイピングについて検討する。プロトタイピングのもつ意味は、次の諸点にまとめられた。1)プロトタイピングの文化はイノベーションの質を決定づける。2)デジタルの価値創造においては、非線形的なプロトタイピングの役割が大きい。3)それは、デジタルの価値が、主に非モノ特性からなることによる。4)プロトタイプからスペックを導くプロトタイピング主導型のプロセスが必要である。5)プロトタイプは、開発過程における共通言語となる。これらを検証するために、企業のデザイン組織において、プロトタイピングがどのように行われているか調査を行った。その結果、技術や社会の変化を考慮に入れて、製品のあるべき姿を描くというプロトタイピングが、企業の開発プロセスや、組織構造などの中に組み込まれており、プロトタイピングが、これからのデザインプロセスとして、有効であるとの認識が定着しつつあることが分かった。
  • 坪郷 英彦
    原稿種別: 本文
    2002 年 49 巻 1 号 p. 63-72
    発行日: 2002/05/31
    公開日: 2017/07/19
    ジャーナル フリー
    秩父市域(山地)、八王子市域(丘陵地)、所沢市域(台地)を対象とし、竹籠の意匠と地形、生業とのかかわりについて調査分析を行った。結果として次のことが明らかとなった。1.円筒形で底を斜め網代編みとする笊目編みと、円筒形で六つ目編みの2つの技術系統が基本である。2.山地ではこの2つの系統以外に直方体形で底を網代編み、胴を笊目編み、縁を組み縁にする技術系統がある。3.畑作用籠の意匠を基本とし、副業にあわせた多様な意匠の展開がみられる。4.傾斜地と平地での運搬手段の違いが、籠の形態、大きさに関係している。
  • 松岡 由幸, 庄司 賢, 佐藤 陵, 松野 史幸
    原稿種別: 本文
    2002 年 49 巻 1 号 p. 73-82
    発行日: 2002/05/31
    公開日: 2017/07/19
    ジャーナル フリー
    車椅子車載システム搭載車両における乗り心地改善に向けて,筆者らはこれまでの研究で,人体一車椅子系力学モデルを構築し,モデルを用いた解析から後輪部へ追加した振動吸収体の最適特性を導出した.そこで,本研究は,以下のことを目的とした.まず,筆者らの解析結果を反映した車椅子を設計,試作する.さらに,設計した車椅子の乗り心地改善効果を振動面と感性面の双方から検証する。車椅子に装着する振動吸収体として,サスペンションおよび車椅子への取り付けユニットから構成される機構を採用した.この機構が筆者らの解析結果と同等の振動特性を発揮するように設計し,機構が装着された車椅子を試作した.試作した車椅子と一般的に使用されている車椅子を用いて実車走行実験を行い,振動および乗り心地評価を測定した.測定結果から,試作した車椅子を用いることで,人体振動の低減や乗り心地評価の改善が示された.また,着座姿勢の影響を調べ,仙骨姿勢が人体振動の増加および乗り心地の悪化に結びつくことを確認した.
  • 松岡 由幸, 齋藤 宏幸
    原稿種別: 本文
    2002 年 49 巻 1 号 p. 83-92
    発行日: 2002/05/31
    公開日: 2017/07/19
    ジャーナル フリー
    従来の工学設計は,設計者が設定した条件における最適な唯一解を導出する.この設計は,設計対象における条件が明確な設計問題への適用に優れている.しかし,人工物を設計するうえで考慮すべき要素は多様であり,その組み合わせも複雑であるため,解空間から大域的に多様な解を導出することが強く望まれている.本研究においては,多様解を導出するために,発現過程および最適化過程を有する創発的形状生成システムを提案する.過去の研究において筆者らは,発現過程のシステムを提案した.本報においては,まず,創発的形状生成システムの後半の過程である最適化過程における形状生成システムを提案した.つぎに,発現過程および最適化過程の二つの過程から構成される創発的形状生成システムの提案を行い,人工物の形状生成に応用した.最後に,導出された形状の多様性解析を行った結果,高い多様解の導出が示された.これより,本研究において提案した創発的形状生成システムにより,従来の工学設計方法では難しかった多様解の導出が可能となり,本システムの人工物設計への応用可能性を示した.
  • 松岡 由幸, 山下 太一, 北村 武士
    原稿種別: 本文
    2002 年 49 巻 1 号 p. 93-102
    発行日: 2002/05/31
    公開日: 2017/07/19
    ジャーナル フリー
    鉄道車両用シートは公共物であるため,多様場を考慮した設計が望まれている.そこで,過去の研究において,シートスウィング機構が多様場を考慮したうえで力学的観点から最適化されている.しかしながら,近年,シートに着座した際の下肢血流量の減少が生理面に影響を及ぼすことが明らかになっており,問題となっている.そのため,シートスウィング機構の設計は,力学面だけでなく生理面も考慮する必要があるといえる.本研究では,多様場として多様なユーザの体格および着座姿勢を考慮し,シートスウィング機構が皮膚血流量に及ぼす影響を解明した.これにより,クッションアングルの増加に伴い変化する人体-シート間の圧縮力が皮膚血流量に影響を及ぼすことを明らかにした.さらに,多様場において圧縮力と皮膚血流量の関係をより詳しく解析するために,体圧分布測定を行った.その結果,シート先端部において,大腿部の大伏在静脈,膝窩静脈および下腿部の小伏在静脈にかかる圧縮力が皮膚血流量に大きな影響を及ぼすことを示唆した.
  • 熊丸 健一, 粂田 起男, 高梨 令, 森 典彦
    原稿種別: 本文
    2002 年 49 巻 1 号 p. 103-110
    発行日: 2002/05/31
    公開日: 2017/07/19
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は、市場情報をもとに新商品を設計する際に、デザイナーはどのように形態の特徴を捉えデザインするのかを調べることと、デザイナーの推論過程をモデル化し、デザイナーの必ずしも確実でない特徴把握に対してより確実な推論システムを探索することである。本研究では自動車を事例として、市場を代表すると仮定したユーザーに67台のサンプル車から選好車・非選好車を選んでもらい市場情報とした。学生からベテランデザイナーまでの6名を被験者として市場情報をもとに新しいクルマのデザインをしてもらった。被験者のアイデアスケッチが市場情報に含まれる形態の特徴をどの程度尊重して捉えているか、またどの程度新しい商品といえるかをラフ集合理論の縮約を用いて明らかにした。縮約によって形態の特徴の全貌を明らかにする本研究のシステムは、縮約の数を選ぶことで新商品がどれほどの確実さでユーザーに選好・非選好されるかをコントロールできる。
  • 吉岡 徹, 市原 茂
    原稿種別: 本文
    2002 年 49 巻 1 号 p. 111-116
    発行日: 2002/05/31
    公開日: 2017/07/19
    ジャーナル フリー
    本研究では,江戸時代から使われはじめたという「粋」という言葉の持つイメージが現代の若い女性にどのように受け継がれているのかを探るとともに,九鬼周造の粋理論が彼らにも適用できるのか否かを検討した。粋についての九鬼の考察は,彼自身の注意深い観察と感性から洞察された深い意味を持つものと考えられるが,彼自身の仮説を客観的に検討するということは,あまり行われてこなかった。そこで今回は,粋な柄の代表とされる縦縞模様のワンピースと浴衣を着たモデルに様々なポーズをとらせ、それを写真にしたものをコンピュータ画面上に提示し,SD法を用いて女子学生に評価させることにより,彼の理論を検討してみた。九鬼周造によれば,「粋」は,価値の優劣を表現すると共に,媚態をも表現しているということであったが,実験の結果は彼の理論を概ね支持するものであった。一方,外来語の中では一番「粋」に近い語であると思われた「シックな」は,「粋」よりは,「渋み」に近い意味としてとらえられていることがわかった。
  • 白石 光昭, 杉山 和雄
    原稿種別: 本文
    2002 年 49 巻 1 号 p. 117-124
    発行日: 2002/05/31
    公開日: 2017/07/19
    ジャーナル フリー
    情報技術の進歩により,ワークスタイルが徐々に変化し,それに応じてオフィス形態も変化し始めている。しかし,業務を遂行していくためにはワーカー同士のコミュニケーションは基本である。本研究では,これまで設計者の経験あるいはユーザーの一方的な要求で設定されてきた,コミュニケーションを行う場所である会議室数の算定に待ち行列理論を応用した算定法を提案しようとするものである。まず応用するための基本事項を整理し,それをもとに実際のオフィスにおいて使用状況(会議開始時間,会議時間,会議への参加人数)を調べ,待ち行列の理論式を応用できることを確認した。次に算定の目安として,「会議室が塞がっている確率」を提案している。また,ワーカーの会議室数への不満を調べ,「会議室が塞がっている確率」との関係を調べた。以上から,現在の会議室の使用状況をもとに「会議室が塞がっている確率」を求めることで,ユーザーに提案するための会議室数の目安を得ることが可能となった。
feedback
Top