千葉県における伝統的鍛冶技術は、職人の高齢化や後継者不足、社会構造の変化などの要因により消失の危機にあり、その記録および継承が急務である。館山市の房州鎌職人および柏市の型枠解体バール職人への聞き取り調査をもとに、それぞれの製作技術をまとめた。房州鎌:①地金と鋼を鍛接する。②鎌の形状になるように叩いて曲げ、薄く延ばしたのち、型どおりに切断する。③刃元の段差、ミネの勾配およびコバを付け、強度を増す。④水で焼き入れ・焼き戻しをする。型枠解体バール:①四角柱と八角柱の鋼材を鍛接する。頭部に用いる四角柱の方に硬度がより高いものを用いる。②スプリングハンマーを用いて頭を直角に曲げる。③爪を斜めにし、先を割って成形する。④同様にして尾を成形する。尾はおよそ 25 度の角度をつける。⑤焼き入れ・焼き戻しをする。焼き入れでは、工業用の油で半分ほど冷ましたのち、水冷する。両者とも要所の繊細な工程は手作業で、五感を駆使して行うが、鍛接や延ばしなど単純だが力を要する工程には機械を併用することで、高齢でも今日まで続けられている。
本稿は千葉県の鍛冶文化の維持・継承・発展に向けた一連の論文の第二報である。
鍛冶屋の「ふいご以外は自分で作れる」という矜持は、ものの本質を見極め理解する観察眼、作り方を考える段取りの自由と責任、それらを実行できる技術力のすべてを持っていることの表れであり、道具を自分で作ることが生活の基礎であることを示している。さらに、野鍛冶は生活者の求めに応じてさまざまな道具を製作する技術が必要とされる。高梨氏は、鍛冶屋の修行として、親方のそばで仕事を「見て盗む」訓練を積むことで、「見る目」を養った。そして、見様見真似で仕事をする実践の中で技術を身につけていった。これは生活の中に身を置くことで技術のみならず鍛冶屋としてのあり方を身につけていく「文化としてのものづくり」と言えるものである。高梨氏が身につけた鍛冶屋としてのものづくりの能力は、単なる技術的な能力ではなく、生活と仕事が一体となった「生業」の中で身についた生活者の姿であるといえよう。
本稿の⽬的は我が国のインダストリアルデザインの理論的特徴を明らかにすることである。そのために1970 年前後のJIDAの機関誌を参照し、主に「道具」に関する議論に注⽬する。その議論から少なくとも下記の4つの理論的な分節を指摘することができる。(1)⽇本の現状を省察し、インダストリアルデザインの理論に空間的、時間的変化を付与した。(2)上記(1)の実証として、コンポーネント家具やユニット住宅が注⽬され、「複合機能」や「機能の系」といった概念が提起された。(3)上記(2)を深めるため、⽣活者の創造性に⽬を向け、デザイナーとユーザーの共同意識を浮き彫りにした。(4)上記(3)を⼀般化するため、デザイナーのコミュニティ以外に知⾒を求め、⾃然物と⼈⼯物を俯瞰する視野を獲得した。これらにより、従来の普遍的なインダストリアルデザインの理論に我が国の特徴が付与されたと考えられる。
社会的に必要なコミュニケーション能力として情報デザインが重視されている。情報デザインに必要な知識・技能は定義されており、情報デザインの考え方や知識に関する習熟度を評価する仕組みが構築されている。一方、その考え方や知識に基づき表現された制作物に対する一律の評価基準は明確に定められておらず、適切なフィードバックに結びついていないところが課題として挙げられる。本研究では、表現力向上の為の情報構造化課題を設計し、評価要素を抽出、情報教育におけるエキスパートと共に能力評価軸構築の為のルーブリックの設計を行った。更に、設計したルーブリックを授業に取り入れ、改善すべき点や留意すべき点など課題の抽出を行った。その結果、評価者による評価が低い学生は、自己評価と評価者評価の整合性が低く、また一部の評価項目におけるレベルの差を判断できない学生が多数見受けられた。
未来洞察(Foresight)とは、現時点で活用可能な情報・知識をベースに未来を合理的に展望し、中長期ビジョンを参加型アプローチで作成することである。Web of Scienceに収録された論文からネットワーク関係を構築した2,586本の論文を分析し、学術研究の全体俯瞰と変遷を分析した。1990年代に各国の技術政策で活用が拡がった。2000 年代に国連等からレポートが発行され、未来洞察の基礎がつくられた。2010年代以降は、企業のイノベーション創出に向けて、事業計画以外の戦略的オプションの検討や環境問題等の長期的テーマの研究に関心が移っていった。さらに2020年以降は、未来洞察活動にて柔軟な戦略を立て、同時に迅速な意思決定による組織変革を連携して捉えることの重要性を指摘した論文が出てきている。また、デザイン組織でも未来洞察活動が重要な役割を果たしてきている。そこでは複数の事業部門と共に、未来社会の全体像を示しながら戦略的オプションの提案が求められている。今後は、急速な社会変化にも迅速に対応できる流動的な組織づくりの構築と、社内外の関係者と共にプロジェクトを牽引していくファシリテーション能力が求められる。
嚥下訓練に含まれる口・頬の運動と発声とを,口腔顔面運動による後出し顔ジャンケンに取り入れた「顔ジャンケン」プログラムを考案した。タブレット端末や PC を用いて,手軽に,嚥下機能および認知機能の維持向上に働きかけるリハビリテーションプログラムを実行することができる。更に,気分が改善する心理的効果が期待できるプログラムを開発するために,表情の異なる「顔ジャンケン」プログラムを実施した際の心理評価について調査した。POMS 短縮版および TDMS-ST による評価の結果,「顔ジャンケン」プログラムを実施することによって気分が改善する心理的効果を確認した。認知機能の維持向上を目的とする取り組みの実践例で使用されている「チョキ」の表情で舌を出すプログラムでは,「抑うつ-落ち込み」および「覚醒度」の気分に関わる有意な改善が認められず,「チョキ」の表情で口を左右に伸ばし口角を上げて笑った顔になるプログラムが有効であると考えられる結果が得られた。