文化的な価値と規範を共有するコミュニティにおける伝統的住居の特質には, 当該の地域における人びとのいわば生活言語が反映している。本研究は, このような視点に立ち, フィリピンの伝統的住居の内部空間構成が地域の歴史と対応してどのように変化してきたかを, 現地調査に基づきながら考察したものである。調査地域は, 山岳部のイフガオ, 平坦部のイロイロである。この異なる二つの地域を対象に, 住居の構えと囲い, 空間の配置, 空間の機能, 空間における動線などに着目して, 観察・解析・考察を行なった。その結果, 次の5点が明らかになった。(1)住居の構えと囲いには, 山岳部型と平坦部型がみられる。(2)居住空間の配置では, 山岳部, 平坦部ともにリニヤー型が多い。(3)空間の機能と使い方の点では, 山岳部と平坦部とには固有の特質がある。(4)家族構成, 社会的地域などに対応し, 居住空間における動線が異なっている。(5)また, 山岳部と平坦部における伝統的住居の内部空間構成の変遷モードとしては, 典型的, 実用的, 類似的, 正規的の四つの規範が抽出される。
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