高分子論文集
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53 巻, 12 号
選択された号の論文の16件中1~16を表示しています
  • 神谷 義紀, 内藤 泰俊, 溝口 敬信, 寺田 克彦
    1996 年 53 巻 12 号 p. 765-773
    発行日: 1996/12/25
    公開日: 2010/07/27
    ジャーナル フリー
    高分子固体の気体収着およびそれに伴う膨脹挙動に見られる等温ガラス転移について, これまでに発表してきた理論的および実験的研究にその後得られた知見を加えて総括的に検討した結果をまとめた. ガラス状高分子の気体収着モデル (二元収着モデル) への低分子可塑化効果の導入とそのモデルの実験的検証を行い, 収着等温線の形状と等温ガラス転移の関係を明らかにした. また, ガラス状高分子の膨脹現象を拡張した二元収着モデルに基づいて理論的に考察し, 収着膨脹実験で確認された等温ガラス転移と比較検討した. その結果, ガラス状高分子中の気体分子は二つの収着モード (HenryまたはFlory-Huggins溶解とLamgmuir収着) から成りそれらは異なる可塑化能を持っと考えることによって, 高分子/気体系の収着および膨脹挙動に見られる等温ガラス転移が矛盾なく説明できることを明らかにした.
  • ガラス転移, 緩和現象と混合アルカリ効果
    巾崎 潤子, 岡田 勲, 樋渡 保秋
    1996 年 53 巻 12 号 p. 774-787
    発行日: 1996/12/25
    公開日: 2010/03/15
    ジャーナル フリー
    アルカリケイ酸塩 (主としてLi2SiO3系) について, 分子動力学シミュレーション (MD) を行い, ガラス転移点近傍での構造とダイナミックスの変化について研究を行った. 転移点近傍での酸素のパッキングの飽和に対応して, 近距離 (配位多面体) 構造の幾何学的飽和が観測された. このような転移点以下の温度での構造変化に伴い, 通常の拡散から, ジャンプ運動への移行が観測された. また, 中間散乱関数に見られる緩和挙動に着目し, ガラス転移点近傍でのα緩和における, stretched-exponential (拡張指数) 型の関数型が, ジャンプの待ち時間分布に関係することを明らかにした. α緩和の波数ベクトル依存性などには, 空間のフラクタル性の役割も大きい. LiKSiO3系における「混合アルカリ効果」の機構についても検討し, カリウムイオンとリチウムイオンのジャンプ経路が空間的に独立で, 混合系では相互に分断しあっていることを明らかにした. また, この経路中でのジャンプの特性について検討し, 連動ジャンプの「混合アルカリ効果」における重要性を指摘した.
  • 猿山 靖夫
    1996 年 53 巻 12 号 p. 788-794
    発行日: 1996/12/25
    公開日: 2010/03/15
    ジャーナル フリー
    近年発展してきた変調法熱測定によるガラス転移点近傍での熱測定について, 変調法の特徴・実験装置の構造, データ解釈の方法などの基礎的な面に留意しながら報告する. 著者らの研究室では変調法熱測定装置として, 交流法カロリメトリー (acカロリメトリー) 装置および光加熱による動的示差走査熱量計 (ダイナミックDSC) を製作した. 本文では, アタクチックポリプロピレン, 低分子量ポリスチレンのacカロリメトリーおよびポリスチレンの光加熱ダイナミックDSCの測定結果を示す. これらの結果は, 変調法熱測定が高分子の動的熱容量測定に利用しうること, 熱履歴の研究に有力な方法となりうることを示している.
  • 畠山 立子, 中村 邦雄, 畠山 兵衛
    1996 年 53 巻 12 号 p. 795-802
    発行日: 1996/12/25
    公開日: 2010/03/15
    ジャーナル フリー
    多糖電解質-水系の相図をDSCによる測定結果を用いて作成し, 系中の束縛水とガラス転移の関連性について検討した. 多糖電解質としては, セルロースサルフェートナトリウム塩 (NaCS), カルボキシメチルセルロースナトリウム塩 (NaCMC), キサンタンガム (Xan), アルギン酸ナトリウム塩 (NaAlg), およびヒヤルロン酸ナトリウム塩 (NaHA) を用いた. 上記の多糖電解質-水系は水分率 {Wc= (水の重量/絶乾試料の重量), (g/g) } 0から3.0の領域でガラス転移が観測される. 測定結果から以下の結論を得た. すなわち, (1) 水分子が多糖の親水基およびカウンターイオンに不凍水として束縛されると, ガラス転移温度 (Tg) はWcに従って180から350Kの温度範囲で変化する. (2) 不凍水の絶対量は多糖の化学構造に依存するが, 最大の不凍水が束縛されたときTgは最小値をとる. (3) その最小値はほぼ180+5Kである. (4) NaHAはその特異な化学構造のため, 急冷試料は過剰な凍結可能な束縛水を含み, Tgは低い温度に観測される.
  • 直木 基祐
    1996 年 53 巻 12 号 p. 803-813
    発行日: 1996/12/25
    公開日: 2010/03/15
    ジャーナル フリー
    低分子のオルトターフェニルとトリフェニルクロロメタン, 高分子のポリ塩化ビニル, および水素結合性液体のD-ソルビトールにおける, ガラス転移, ガラス転移近傍の分子運動, ガラス化履歴, ガラス状態, およびガラス中の局所分子運動などについて, それら性質の普遍性を議論している. これらすべての性質において, 高分子が分子内自由度を多数持っているということによる特異性は何もない. 高分子で配置エントロピー理論が成立し自由体積理論が成立しないのは, 高分子の分子内配位エントロピーの大きさによるのではなく, 分子間配置エントロピーあるいは配置エネルギーが諸々の分子間相互作用を数え落としなくカウントできるからで, 低分子においても一般的には自由体積理論は成立しない. 分子間配置エネルギーの分布の概念は水素結合性ガラスおよび圧履歴ガラスを含むすべてのガラスの局所運動の性質をうまく説明する. 局所運動もまた個別の分子の個別の基の運動ではなく, 諸々の分子間相互作用の結果生じる普遍的なものである. 水素結合性液体の分子運動を理解するために, 巨視的活性化量と微視的活性化量を結びつけた試験的な式が検討されている. それは加圧によって水素結合が切れる (弱くなる) 可能性を示唆し, ガラス転移温度の圧力依存性, 活性化体積, 緩和強度の挙動を説明する.
  • 町田 真二郎, 堀江 一之
    1996 年 53 巻 12 号 p. 814-822
    発行日: 1996/12/25
    公開日: 2010/03/15
    ジャーナル フリー
    水素化ポルフィリンなどの色素を分散した高分子ガラス媒質中でホールバーニングを行った. ゼロフォノンホールと擬フォノンサイドホールのエネルギー差より, 媒質の低エネルギー励起モードを見積もれることを明らかにした. 温度サイクル実験から, ホール幅の不可逆的な広がりが, 側鎖の回転などの高分子鎖の緩和と良く対応することがわかった. カルボン酸を含む高分子中での光物理的ホール形成機構を重水素効果などから推測した. 波長や温度を変えてホールを多重形成した結果より, レーザー誘起ホールフィリングの原因が色素の非選択的励起にあることを明らかにし, 不均一広がりの大きさに影響を及ぼす因子について考察を行った.
  • 山本 勝宏, 嶋田 繁隆, 辻田 義治, 坂口 真人
    1996 年 53 巻 12 号 p. 823-828
    発行日: 1996/12/25
    公開日: 2010/03/15
    ジャーナル フリー
    高分子固体表面部位の分子運動を評価するために, 電子スピン共鳴 (ESR) の応用を考えた. 固体ポリメチルメタクリレート (PMMA) の分子運動特性を観測するために, メタノール中でスピンラベル化を行った. この方法で得られた分子運動転移点T5.0mTは, バルク (内部) の分子運動転移点T5.0mTより低いことが確認され, 表面部位の分子運動を反映していると言える. このT5.0mTとその時の回転緩和時間τESRとWLF式とからPMMAの表面のガラス転移温度を見積もることができ, 表面ガラス転移温度は, バルクのガラス転移温度より約30~40K低いことが確認された. これは, PMMAのセグメント鎖密度が表面とバルクでは, 異なることを示している. さらに, 表面分子運動性が, PMMAの立体規則性に強く依存することが明らかとなった. これは立体規則性が, 表面のガラス転移温度にも強く反映することを示している.
  • 樋口 章二, 勝間 勝彦, 城田 靖彦
    1996 年 53 巻 12 号 p. 829-833
    発行日: 1996/12/25
    公開日: 2010/03/15
    ジャーナル フリー
    新しいアモルファス分子材料の創製を目指して, 新規なπ電子系分子1, 3, 5-トリ (N-カルバゾリル) ベンゼン (TCB) を設計・合成し, そのガラス形成ならびにガラスからの緩和過程を検討した. その結果, TCBは, 溶融サンプルを冷却することにより, 容易にガラスを形成することを見いだした. CPKモデルから, TCBは, 三つのカルバゾール環が中心ベンゼン環の平面から著しくねじれた非平面構造を有していることが示唆され, このことがガラス形成を容易にしていると考えられる. TCBガラスは, カルバゾール環を含まない類似化合物1, 3, 5-トリス (4-メチルフェニルフェニルアミノ) ベンゼンのガラスと比較して, 格段に高いガラス転移温度 (122℃) を有することが明らかとなった. この結果から, 剛直な置換基の導入が, ガラス転移温度向上のための分子設計指針となることが示された. また, TCBは, ガラスを形成するのみならず, 2種類の結晶形態をとるポリモルフィズムを示すことを見いだした.
  • 田中 一宏, 伊藤 正道, 喜多 英敏, 岡本 健一, 伊藤 泰男
    1996 年 53 巻 12 号 p. 834-841
    発行日: 1996/12/25
    公開日: 2010/07/27
    ジャーナル フリー
    CO2とCH4の拡散係数とオルソーポジトロニウムの寿命τ3と強度I3とを5種類のポリマーについてガラス転移温度TgからTg-150Kの温度で測定した. Tg-90K以上の温度で, τ3とlog (D/T) の間にかなり良い相関関係があった. ガラス状態での自由体積のサイズ分布が指数関数的であると仮定して, 自由体積孔の平均サイズ〈vh〉をτ3から評価した. ガラス状および以前に調べたゴム状ポリマーについて, log (D/T) と1/〈vh〉との間に良い相関関係があった. このことは, 拡散に対する自由体積モデルがゴム状態でと同様にTgからあまり低くない温度のガラス状態に適用できることを示す. ガラス状態でも, 比較的サイズの小さな自由体積孔の生成と消滅が高分子鎖や側鎖の局所運動により容易に起こり, ペネトラントの拡散ジャンプがゴム状態でと同様に起こっていると考えられる.
  • 山口 典孝, 秋山 三郎, 床尾 万喜雄
    1996 年 53 巻 12 号 p. 842-845
    発行日: 1996/12/25
    公開日: 2010/03/15
    ジャーナル フリー
    本研究では, 結晶性/結晶性ポリマーブレンドである, ポリ (エチレン-co-ビニルアルコール) (EVOH) /ナイロン6 (PA6) 二成分系の相溶性の測定を, 示差走査熱量計 (DSC) と動的粘弾性測定 (DMA) により行った. 融点以上から室温まで徐冷した試料のDSC測定から得られたガラス転移温度 (Tg) は, 融点以上の熱処理時間により変化し, 15分間以上熱処理を行えば, Tgがシャープに観察できることを見いだした. この手法により得られたTgは, 相溶ポリマーブレンドにおいて, 一般的にみられる組成依存性を示すGordon-Taylorの式に適合し, 各成分の結晶存在下において, 本系のアモルファス相は, 相溶であることを明らかにした. 試料を融点以上で熱処理し急冷した試料のDMA測定から得られるガラス転移温度に由来する動力学損失正接tanδ-温度曲線のピークの形状は, シャープで単一な形状で, そのピーク温度 (TDmax) の組成依存性もGordon-Taylorの式に適合し, 本系が融点以上においても相溶することを見いだした.
  • 武野 宏之, 小泉 智, 長谷川 博一, 橋本 竹治
    1996 年 53 巻 12 号 p. 846-851
    発行日: 1996/12/25
    公開日: 2010/03/15
    ジャーナル フリー
    ガラス転移温度 (Tg) に大きな差をもっ成分ポリマーから成る二成分ポリマーブレンド (重水素化ポリスチレン/ポリビニルメチルエーテル混合系) において, 一相状態にあるブレンドのTg近傍で濃度揺らぎの異常な挙動が小角中性子散乱法により観測された. すなわち, Tg近傍において長波長の濃度揺らぎが抑制され, 小角側の散乱強度が小さくなる挙動が観測された. さらに, このTg近傍ではFlory-Huggins相互作用パラメータχがq依存性を持ち, その相互作用距離は数ナノメートルにも及ぶ. この異常な濃度揺らぎの挙動からこの種のポリマーブレンドにミクロ相分離の可能性が存在することを指摘する.
  • 森上 賢治, 朽木 栄治, 河村 哲也, 藤田 祐二, 土岐 重之
    1996 年 53 巻 12 号 p. 852-859
    発行日: 1996/12/25
    公開日: 2010/03/15
    ジャーナル フリー
    計算機シミュレーションの一つである分子動力学法を用いて, 非晶状態のポリエチレン, ポリプロピレン, ポリイソブチレンのガラス転移温度前後の体積弾性率の計算を行った. ガラス転移温度以下で高分子の非晶が急激に固くなるという現象を再現し, また, 体積弾性率の計算値そのものも実験などの今までの結果とほぼ一致した.
  • 中村 邦雄, 畠山 立子, 畠山 兵衛
    1996 年 53 巻 12 号 p. 860-865
    発行日: 1996/12/25
    公開日: 2010/03/15
    ジャーナル フリー
    分子量 (Mw) および置換度 (DS) の異なるカルボキシメチルセルロース (CMC) のガラス転移 (Tg) 近傍の熱容量 (Cp) 測定から, 乾燥状態のCMCの場合, TgMwの影響は余り強く受けないが, DSの増加とともに約120℃から135℃まで増加することが分かった. またCpDSの増加とともに増加し, Mwの増加とともに減少した. CMC-不凍水系の場合, Tgは水分率 (Wc) の増加とともに急激に減少し, 乾燥状態のTg約135℃からWc約0.4で-60~-85℃に減少した. またTg以下のガラス状態のCMC-不凍水系のCpWc=0.32g/gで最小となり, 規則構造形成により乾燥状態のCMCのCpより小さくなった. さらにDSの大きいCMCほど乾燥状態のCMCのCpを超えるに要するWcは大きくなり, DSの増加とともに不凍水量 (Wnf) が増加することに対応した. 以上の結果からCMC分子は不凍水の共存により, 乾燥状態より安定した構造に変化することが分かった.
  • 木村 悟隆, 相澤 啓佐, 西尾 嘉之, 鈴木 秀松
    1996 年 53 巻 12 号 p. 866-868
    発行日: 1996/12/25
    公開日: 2010/03/15
    ジャーナル フリー
    示差走査熱量測定 (DSC) より, 高分子のガラス転移温度を正確に決定する方法はRichardson法として知られているが, この方法が実際に適用された例は限られている. このノートでは, 個々のDSC装置に合わせてプログラムを自作することなく, 市販のソフトウェアーを用いてパソコン上で, Richardson法を適用するに必要な, 一連のデータ処理を実行する方法の一例を述べる.
  • 井上 和人, 今井 淑夫
    1996 年 53 巻 12 号 p. 869-873
    発行日: 1996/12/25
    公開日: 2010/03/15
    ジャーナル フリー
    ビベンジル, trans-スチルベン, およびトランの3,4′-および4,4′-ジアミノ誘導体とイソフタル酸クロリドならびにテレフタル酸クロリドとから低温溶液重縮合法により合成した12種の芳香族ポリアミドの示差走査熱量測定 (DSC) を行い分子構造とガラス転移温度 (Tg), 結晶化温度 (Tc), ならびに融点 (Tm) などとの関係を調べた. 3,4′-系のジアミンからのポリイソフタルアミドは非晶質であり, 明瞭なガラス転移温度を203~272℃に示した. 3,4′-ビベンジル構造をジアミン成分に含むポリテレフタルアミドは, TgTcの両者が存在し, 前者は203℃, 後者は235℃であった. 一方, 高結晶性の4,4′-系のポリテレフタルアミドは, TgおよびTcのいずれも示さず500℃以上の温度で融解した. トラン構造を含むすべてのポリアミドは300℃付近からDSC曲線に幅広い大きな発熱ピークを示し, N, N-ジメチルアセトアミドなどの溶媒に不溶化した.
  • 吉田 博久
    1996 年 53 巻 12 号 p. 874-876
    発行日: 1996/12/25
    公開日: 2010/03/15
    ジャーナル フリー
    汎用高分子 (ポリスチレン (PS), ポリメタクリル酸メチル (PMMA)) とエンジニアリングプラスチックポリスルフォン (PSF), ポリエーテルイミド (PEI), ポリエーテルスルフォン (PES)) のエンタルピー緩和過程をKWW型の伸張指数関数で解析し, エンタルピー緩和時間を求めた. 緩和時間はτ (PS) ~τ (PMMA) >τ (PES) >τ (PEI) >τ (PSF) の順になり, アレニウス型の温度依存性を示した. Tgにおけるdlog/d (Tg/T) で定義されるフラジリティは汎用高分子では約100, エンジニアリングプラスチックでは約55であった. これは, ガラス状態では汎用非晶性高分子はエンジニアリングプラスチックよりも脆性であることを示し, 力学的特性と良い一致を示した.
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