日本農村医学会雑誌
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58 巻, 2 号
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シリーズ 「農村医学を考える」
原著
  • ——各種血液生化学的マーカーおよび臨床症状の変動——
    土田 恵美子, 佐藤 舞子, 倉持 元
    2009 年 58 巻 2 号 p. 54-62
    発行日: 2009/07/30
    公開日: 2009/09/18
    ジャーナル フリー
     我々は平成19年7月16日に新潟県中越沖地震 (マグニチュード6.8) による大規模地震災害を経験した。そこで大規模地震災害が血液透析患者の栄養学的変化を含む血液生化学的マーカーに及ぼす影響と災害による精神的ストレスおよび臨床的合併症の発生を調査するために,経時的に各種血液生化学的マーカーを測定しその変動および合併症の発生状況を検討した。新潟県中越沖地震では一般生活に必要なライフライン (電気,都市ガス,水道) が完全に復旧するまでに1か月を要した。多くの各種血液生化学的マーカーの変動および新たな合併症の発症は,被災後1か月までに集中しており,これはライフラインが完全に復旧するのに要した期間とほぼ一致した。これらの変化も被災3か月後になると回復および減少してくるのが認められた。しかし血清アルブミンのように被災後6か月を経ても回復しないものも存在した。また精神的ストレスの影響は被災3か月後より現れてくることも認められ,各種血液生化学的マーカーの変動および合併症の発症のピーク (被災1か月後) と精神的ストレスの影響を認める時期 (被災3か月後) には時間差が存在した。これらの点は今後の大規模地震災害後の血液透析患者の身体的および精神的状態に対しての総合医療的ケアを考えていくうえで非常に参考になると考えられた。
  • 川崎 君王, 紅粉 睦男, 真尾 泰生
    2009 年 58 巻 2 号 p. 63-67
    発行日: 2009/07/30
    公開日: 2009/09/18
    ジャーナル フリー
     内分泌専門外来では健康成人の甲状腺異常症の頻度は17%と報告されている。今回2007年4月2日から2008年3月31日までの1年間を通して,人間ドック受診時に得られた血清を用いてFT3,FT4,TSHを測定し,それらの分布をみて,成人における甲状腺機能異常症の出現頻度を明らかにするために調査・研究した。男性1,630人,女性1,053人の合計2,683人を対象にした。血清FT3,FT4値では男性群が女性群に比較して高い値が示され,血清TSH値では男性群に比較して女性群で高い値が示された。血清FT3,FT4の基準値より低い値であった個体数が男性例より女性例で高い出現頻度を認めた。血清TSH高値 (>4.91μU/ml) の個体数は男性例より女性例で出現頻度が高いことが示された。男性より女性で甲状腺ホルモン値が低い傾向を示し,甲状腺機能低下症が出現しやすいことが明らかにされた。甲状腺機能低下症を惹起しやすい慢性甲状腺炎が男性例より女性例で出現頻度が高いことが知られているが,今回得られた結果は慢性甲状腺炎の出現頻度と類似した傾向が考えられた。血清甲状腺ホルモン値と甲状腺自己抗体価は密接な関係があることから,今後更なる関係性を明らかにするために甲状腺自己抗体価の調査・研究と併せて検討していきたい。
  • 筆谷 拓, 伊藤 良剛, 吉川 秋利, 大竹 正一郎
    2009 年 58 巻 2 号 p. 68-72
    発行日: 2009/07/30
    公開日: 2009/09/18
    ジャーナル フリー
    〔目的〕2005年にメタボリックシンドロームの診断基準が公表され,その一つに内臓脂肪蓄積がある。その評価の手段としてウエスト周囲径の測定が用いられているが,CTでは腹腔内脂肪の面積が測定できる。被曝低減のためのCTでの撮影条件を検討した。
    〔方法〕臍レベルの腹部模擬ファントムを作成した。管電流を10から250mAまで,10mA間隔で設定し,ファントムを撮影した。各撮影の模擬脂肪の面積を測定した。各撮影の模擬脂肪のCT値の平均値と標準偏差値を測定した。
    〔結果〕脂肪面積は100mA以上で一定であった。CT値の平均値は100mA以上で一定であった。
    〔結論〕腹部内臓脂肪面積測定は,100mAの管電流で可能である。通常の臨床診断時の250mAと比較すると,60%の被曝低減が可能である。
  • 荻原 毅, 上原 信吾, 佐々木 宏子, 菊池 重忠, 佐藤 アイコ, 高見沢 将, 井出 晴子, 中田 未和子, 畠山 敏雄
    2009 年 58 巻 2 号 p. 73-78
    発行日: 2009/07/30
    公開日: 2009/09/18
    ジャーナル フリー
     当院脳ドックでは検査項目のひとつである頸動脈超音波検査のときに,同時に甲状腺の超音波スクリーニングを実施してきた。今回我々は,この甲状腺超音波スクリーニングの有用性について検討した。対象は1992年12月から2007年3月までの当院脳ドック受診者で複数回受診者を除く,実質受診者4,338名である。腫瘤性病変では100例の要精検者のうち79例が精検を受診し (精検受診率79%),このなかから17例 (発見率0.39%) の乳頭癌が発見された。このうち当院で治療 (切除術) が行なわれた13例につき検討すると,平均腫瘤径11mmと小さなものが多く,病期分類のn分類でもn0が8例,n1が5例と早期のものが多かった。び慢性疾患では101例の要精検者のうち45例 (精検受診率44.6%) が精検を受診し,バセドー病5例,慢性甲状腺炎15例 (0.35%) が発見された。バセドー病の5例は全例に機能亢進を認め,慢性甲状腺炎15例のうち9例には機能低下を認めた。また,甲状腺外の腫瘤として副甲状腺腺腫1例,中咽頭癌の転移性リンパ節1例,悪性リンパ腫1例が発見された。甲状腺超音波スクリーニングは癌の早期発見だけでなく,甲状腺機能異常のスクリーニングとしても有用な検査と考えられた。
報告
  • 堀川 俊二, 只佐 宣子, 清上 三枝子, 田畑 貴康, 櫻井 真紀, 渡辺 千加子, 落合 ひとみ, 沖田 富美
    2009 年 58 巻 2 号 p. 79-84
    発行日: 2009/07/30
    公開日: 2009/09/18
    ジャーナル フリー
     高齢者糖尿病患者は増加の一途を辿っている。高齢者糖尿病患者を在宅で管理するためには訪問介護サービスは重要であり,また利用者も多い。そこで我々は糖尿病に関する研修会の参加者に対して高齢者糖尿病患者の訪問介護サービスの現状調査のためのアンケート調査を行ない,85名から回答を得た。その結果87%が糖尿病患者の介護を経験しており,低血糖や高血糖の急性合併症を経験したとの回答もあった。また多くの訪問介護者が服薬介助を経験しており,高齢者糖尿病治療に重要な役割を担っていることが確認できた。
     一方,足の状態の観察不足,低血糖に対する対処方法の知識不足,服薬コンプライアンスについては訪問時間等の介護の都合で十分に遵守できないなどの問題点も抽出された。今後,高齢者糖尿病治療に関わる職種は地域の介護職員への研修と連携づくりが必要であると考える。
症例報告
  • 平山 貴博, 藤田 哲夫, 徳山 佳子, 風間 暁男, 福原 昇, 高野 靖悟
    2009 年 58 巻 2 号 p. 85-89
    発行日: 2009/07/30
    公開日: 2009/09/18
    ジャーナル フリー
    〔症例〕患者は67歳女性で,主訴は左臀部痛であった。精査で尿道から膀胱前壁を主体とした腫瘍と左腸骨動脈リンパ節腫脹,左恥骨周囲腫瘤性病変,左臀部軟部組織浸潤を認めた。平成20年2月,経尿道的腫瘍切除術を施行し,病理組織学的に扁平上皮癌と診断された。臨床病期分類は尿道癌stage D4であった。放射線治療および緩和療法で疼痛管理に努め,一時は外来通院が可能となったが,その後徐々に全身状態が低下し死亡した。
    〔考察〕女子尿道腫瘍は,非常に稀な疾患であり一般に予後不良とされる。多様な組織型を呈するが,予後予測因子としては病期が重要である。また尿道腫瘍は,その希少性から症例の集積が困難であり,観察期間が比較的短期になりやすいことや,その多彩な生物学的活性のため,現時点で有効な治療法の確立には至っていない。これは臨床的に重要な問題であると考えられ,今後多施設共同研究等を用いた治療法の検討が望まれる。
看護研究報告
  • 三ツ木 愛美, 角山 智美, 深谷 悠子, 小林 美幸, 大野 美津江
    2009 年 58 巻 2 号 p. 90-93
    発行日: 2009/07/30
    公開日: 2009/09/18
    ジャーナル フリー
     現在,育児環境が変化し父親の役割が重要視されている。NICUにおいても父親の愛着形成に向けて育児練習やカンガルーケアへの参加などを積極的に行なっている。しかし,NICUでは面会時間が限られているため,仕事をもつ父親は母親に比べ育児練習への参加が少ないのが現状である。今回,入院時から退院時までの父親の対児感情の変化を花沢の感情得点を用いて点数化することによって,入院中の児へのかかわりやケアへの参加の内容が,父性発達にどのような影響があるのかを明らかにすることを目的とした。その結果,全例で接近項目得点は増加しており,特に抱っこを行なうことで父親になったと実感した例が最も多く,父親実感を得る上で重要であったと考えられた。また,退院に近づくにつれて「こわい」「むずかしい」といった回避得点が増加した例もみられた。これは退院後の生活に不安を抱いた低出生体重児の父親にとって当然の感情であると思われる。
     今後は個々の父親に合ったケアを取り入れ父親と児が心地よいと感じる環境を整えることが必要であると考えられた。
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