日本農村医学会雑誌
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70 巻, 4 号
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原著
  • 木村 裕美, 西尾 美登里, 古賀 佳代子
    2021 年 70 巻 4 号 p. 325-333
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/25
    ジャーナル フリー
     地域で生活する元気高齢者の抑うつの実態を明らかにし,生きがい感などとの関連要因を検討した。対象はA大学で行なわれた市民公開講座の参加高齢者213名に,基本属性,高齢者うつ尺度(Geriatric Depression Scale:以下GDS),高齢者向け生きがい感スケール(K-1式)(以下,生きがい感スケール),高齢者ソーシャルサポート尺度(以下,ソーシャルサポート尺度),基本チェックリスト(以下,フレイル尺度)について自記式質問紙調査を実施した。統計処理は,GDSで4点/5点をカットオフ値とし,4点以下をA群,5点以上をB群として比較した。結果,対象者は回答に欠損が1つ以上あった者を除く185名が有効回答であった。A群80名(男性35名,女性45名),B群は52名(男性14名,女性38名),平均年齢で有意な差が認められた。トータルサポート,生きがい感スケール下位尺度の自己実現と意欲,生活充実感,生きる意味,存在感でA群が有意に高かった。重回帰分析による抑うつに影響をおよぼす因子として,生活充実感(β=-0.36),健康状態(β=0.24),生きる意欲(β=-0.17),年齢(β=0.24),ネガティブサポート(β=0.18),健康習慣(β=0.12)が認められた。決定係数R2乗は0.52,調整済みR2乗は0.49であった。地域高齢者の抑うつ状態は,自己実現や生活充実感,生きる意欲,存在感が関連することが示唆された。
  • 村上 佳栄子
    2021 年 70 巻 4 号 p. 334-343
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/25
    ジャーナル フリー
     本研究は,限界集落で暮らし続ける独居高齢者の生を支えるプロセスをコミュニティとの関連性から明らかにし,それらを通してコミュニティとの相互作用を活かした支援の方向性を検討することを目的とした。限界集落で暮らす独居高齢者5名を対象に半構成的面接を実施した。分析にはGrounded Theory Approachによる分析手法を用いた。分析の結果,《生活への適応力》,【健康への不安と対処】,《生きる上での喜び》,《コミュニティで支えられた生》,《コミュニティの継承の願いと行動化》の5つの現象が見いだされた。対象者の生を支えるプロセスでは,これまで培ってきた前向きな態度を用いて,【健康への不安と対処】に直面しながら自立とのバランスを保ち,この土地で出来るだけ生きる意思へ至ることが明らかになった。対象者は,限界集落で生活を継続するにあたって,健康の保持増進を目的とした予防的保健行動に取り組んでいた。また,対象者は,コミュニティにおける見守りや支えあいといった住民同士の支援ネットワークを自ら形成し,人的資源を最大限に活かしていた。
     これらより対象者が予防的保健行動を生活に取り入れるための援助として,支援者は健康増進活動をコミュニティ全体で展開する必要性が示唆された。従って支援者においては,コミュニティとの相互作用を活かした援助の重要性が求められる。
  • 藤川 君江, 林 真紀, 上里 彰仁
    2021 年 70 巻 4 号 p. 344-353
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/25
    ジャーナル フリー
     本研究は,総務省が指定する過疎地域のうち東北地方,関東地方,四国地方,九州地方,の5町村で暮らす,75歳以上の1人暮らし男性を支えている心理・社会的要因を明らかにすることを目的とした。調査対象者は,自己選択・自己決定が可能でコミュニケーションに障がいのない,1人暮らし男性21人であり,調査方法として半構成的面接を行なった。分析は,内容分析の手法を用いた。分析の結果,1人暮らしを支えている心理的要因は,【生活のなかで見つけた生きがい】,【時間に捉われない気ままな生活】,【根付いた土地での生活】の3つのコアカテゴリーが抽出された。社会的要因は,【子との関係性変化を受容】,【地域コミュニティの絆】の2つのコアカテゴリーが抽出された。
     調査地域は,人口減少と高齢化率の上昇によりコミュニティが縮小している。そのため,地域住民で支えあうことは限界があり,社会的に孤立する可能性がある。対象者が身体的衰えを自覚し,老いと向き合わなければならないとき,メンタルヘルスを維持することが,1人暮らしの継続に大きく影響すると考える。本人が望む地域で最期まで暮らし続けるためには,こころのケアができる専門職と行政が連携し,メンタルヘルスを支えるサポート体制の構築の必要性が示唆される。
研究報告
  • 廣渡 平輔, 戸田 繁, 藤倉 舞, 黒田 啓太, 板東 眞有子, 片山 高明, 花谷 茉也, 中村 拓斗, 傍島 綾, 藤木 宏美, 深津 ...
    2021 年 70 巻 4 号 p. 354-359
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/25
    ジャーナル フリー
     低置胎盤症例に対する自己血貯血の有用性と問題点を明らかにする目的で本研究を行なった。2013年4月から2018年3月までに当院で分娩となった低置胎盤症例78例を対象として,自己血貯血率,返血率,分娩時出血量,廃棄率等を診療録より収集し後方視的に検討した。58例(74%)に自己血貯血が実施された。貯血量の中央値(範囲)は300mL(300~600mL)であった。貯血群と非貯血群との間に,胎盤前壁付着の有無や胎盤下縁-内子宮口間距離につき有意差はなかった。分娩時出血量の中央値(範囲)は1,183mL(456~3,891mL)であった。2,000mL以上の多量出血例は7例(9%)であり,すべて貯血群であった。貯血例のうち9例(16%)に返血が行なわれた。自己血の廃棄率は血液量ベースで88%,症例ベース(部分的廃棄症例を含む)では91%におよんだ。同種血輸血を施行した症例はなかった。低置胎盤症例において自己血貯血は同種血輸血の回避に有効である可能性が示唆されたが,返血率の高さが明らかとなった。貯血対象をどのようにしぼりこむかが今後の課題と考えられた。
  • 吉池 麻衣, 宮田 智陽, 原 あや乃, 杉山 昌秀, 篠原 佳祐, 関口 展貴, 関戸 大司
    2021 年 70 巻 4 号 p. 360-365
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/25
    ジャーナル フリー
     結腸・直腸がん治療薬であるトリフルリジン・チピラシル塩酸塩配合錠(ロンサーフ®配合錠:以下,FTD/TPIと略す)の用量制限毒性は好中球数減少であり,発熱性好中球減少症のリスクが高い高齢者では,慎重な投与が必要とされる。今回,結腸・直腸がんに対してFTD/TPIを投与された後期高齢者を対象とし,有害事象発現状況,減量,投与コース数の実態を後方視的に調査した。結果,8例中5例と高い割合でGrade 3以上の好中球数減少が発現していた。また,6例で減量が行なわれていたが,そのうちの5例では3コース以上治療継続が可能であった。後期高齢者においては,好中球数減少を含む有害事象の発現頻度及び重篤度は高くなると考えられ,適切な対策を講じることが重要であると考える。
  • ─ダーモスコピーと虫体踏み潰し実験による検討─
    前田 学
    2021 年 70 巻 4 号 p. 366-371
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/25
    ジャーナル フリー
     カメムシによる皮膚障害例を13例(19か所)経験し,解析した結果,A)色素沈着型,B)咬刺型,C)誤食後ビラン・潰瘍型の3型に分類することができた。Aの色調やパターンについてダーモスコープを用いて検討した。
     Aは不定型と均一・びまん型の2種に分類でき,均一型はしみだしを伴うものと表皮剥離欠損型のものが存在した。不定型は4例で,ハイハイ児の足底を除いて3例は手指,腕や背部に見られた。均一型6例は手指の1例を除くと全て足底であった。両者の差は虫体の圧迫度や圧迫時間の差によるものと考えられた。皮丘一致性の黄色,黄橙,褐色の色素斑が特徴で,受傷数日後には色素沈着の一部の表皮が剥離する例が2例に認められたが,時間経過による角層剥離によるものと考えられた。染み出しの強いタイプは虫と体の間に強い圧が加わったために生じたと思われた。
     足底部にカメムシ成虫を8時間踏み潰し,色素沈着の消退を検討した結果,数日から1週間以内で自然消失した。なお,セロハン・テープで色素沈着部をストリッピングした結果,角層部の数層に色素が残存していることが明らかとなった。
  • 田中 結花子, 佐藤 真由美, 青石 恵子
    2021 年 70 巻 4 号 p. 372-381
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/25
    ジャーナル フリー
     本研究は,シングル介護者(以下介護者)が在宅介護3か月時の就労と介護の両立における現状を明らかにすることを目的とする。
     病院を退院した親を3か月間在宅で介護しながら就労を継続しているシングル介護者9名に半構造化面接を実施し,帰納的分析を行なった。
     【両立に良い影響を与える要因】と【両立に悪い影響を与える要因】の2コアカテゴリが抽出された。【両立に良い影響を与える要因】は,〈悩みを相談できる人の存在〉,〈地域の見守り及びレスパイト体制〉,〈介護経験者の介護情報提供体制〉の3カテゴリが抽出された。【両立に悪い影響を与える要因】は,[介護のきっかけ],[介護を替わってくれる人がいない環境],[介護による精神的ストレス]の3カテゴリが抽出された。
     【両立に良い影響を与える要因】をより促進する為には,介護に関する情報を提供することは必須である。また,介護に関与する全ての者が情報共有・意見交換が出来る連携システムの構築は喫緊の課題である。【両立に悪い影響を与える要因】を改善する為には,医療者は,退院前から介護者が相談出来る関係性を構築する必要がある。
症例報告
  • 高橋 幸治
    2021 年 70 巻 4 号 p. 382-386
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/25
    ジャーナル フリー
     患者は86歳,男性。遠位胆管癌に対して内視鏡的逆行性胆道膵管造影(以下,ERCP)で経乳頭的に胆管プラスチックステントを留置し,その後,Uncoveredの胆管金属ステントに交換したが,腫瘍のステント内発育で閉塞した。プラスチックステントを追加留置していたものの,早期にステント閉塞による胆管炎を起こしたため入院とした。入院日に,ERCPで胆管プラスチックステントを交換し,その5日後にプラスチックステントを用いて超音波内視鏡下胆管胃吻合術(以下,EUS-HGS)を施行した。その後は胆管炎の再燃なく経過し,EUS-HGSから42日後に退院とした。本症例のようにERCPとEUS-HGSを組み合わせる方法についての報告は少ないが,経乳頭的胆道ドレナージのみでは胆管ステントの早期閉塞による胆管炎を繰り返す症例に対して検討すべき治療選択肢の1つである。
  • 関本 晃裕, 久留宮 康浩, 水野 敬輔, 世古口 英, 菅原 元, 井上 昌也, 加藤 健宏, 秋田 直宏, 南 貴之, 稲田 亘佑, 緒 ...
    2021 年 70 巻 4 号 p. 387-394
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/25
    ジャーナル フリー
     症例1は66歳男性。健診の腹部超音波検査にて腫瘤性病変を指摘された。精査にて腸間膜原発腫瘍あるいは粘膜下腫瘍と術前診断をした。診断的切除目的に腹腔鏡下腫瘍摘出術を施行し,病理診断の結果から腸間膜原発神経内分泌腫瘍G1と診断した。術後25か月現在無再発生存中である。症例2は80歳男性。近医で受けた腹部超音波検査にて腫瘤性病変を認め,精査にて粘膜下腫瘍または腸間膜原発腫瘍と術前診断した。診断的切除目的に腹腔鏡下腫瘍摘出術を施行し,病理診断の結果から腸間膜原発神経内分泌腫瘍G1と診断した。術後36か月現在無再発生存中である。腸間膜原発神経内分泌腫瘍は稀と言われ,さらに鏡視下切除を施行された報告例は少ない。本症例のように腫瘍径が4cm以下で他臓器との連続性がなければ,鏡視下手術を選択することで,完全切除も可能であり,より低侵襲な手術を実施できることが示唆された。
  • 久我 貴之, 重田 匡利, 矢野 由香, 坂本 龍之介, 松野 多希子, 下田 智美, 渡邉 恵代, 松田 純一, 久保江 律子, 花島 ま ...
    2021 年 70 巻 4 号 p. 395-401
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/25
    ジャーナル フリー
     症例は80歳代後半女性。4世代8人家族で居住し,認知症で加療および介護サービスを受けていた。症例の孫が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者として近医に入院した。残り家族7人は濃厚接触者となった。3日後症例を除く6人の濃厚接触者がCOVID-19患者となり,入院・入所・自宅待機が必要となった。症例のみ陰性であったが,独り暮らしは困難で,かつ同じ医療圏の病院や宿泊施設への入院および入居も拒否された。最終的に家族の希望を元に,同意書で確認し,家族全員と共に当院のCOVID-19病棟に入院した。入院後家族のCOVID-19治療と共に症例への徹底した感染予防対策が行なわれた。入院後11日目に家族5名と同時に症例もPCR検査陰性を確認し退院した。認知症患者が増加している日本の高齢化社会において,本事例の増加も予想される。推奨されている感染予防対策はCOVID-19患者と同室である非感染患者への感染予防に対しても有効であった。
  • 水野 亮, 古池 真也, 田上 鑛一郎
    2021 年 70 巻 4 号 p. 402-406
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/25
    ジャーナル フリー
     症例は86歳女性。19時30分頃からの右股関節痛あり20時に受診。腹部軽度膨満軟,右股関節に圧痛を認めた。CTで右閉鎖孔内に嵌頓した小腸を認め,右閉鎖孔ヘルニア嵌頓と診断した。発症早期であり,腸管壊死の可能性は低いと判断して用手的に整復を行なった。施行後,右股関節痛は速やかに改善し,CTで腸管の陥入は解除されていた。待機的に腹腔鏡下の手術を行なった。腹腔内には血性腹水を認めたが,明らかな腸管虚血は認めず。腸管の拡張は解除されており,良好な視野にて手術操作が行なえた。術後経過は良好で,術後2年11か月経過した時点で再発は認めなかった。閉鎖孔ヘルニアは高齢女性に多いとされ,種々の並存疾患を持っている事も多い。用手的還納を行なう事によりリスクの高い緊急手術を回避できた事は有意義であり,腹腔鏡下に手術を行なう事により対側の評価治療が行なう事ができるのは有用であると思われた。
  • 長田 亮介, 今井 宗, 矢﨑 明香, 高野 宏太, 野池 雅実, 篠原 剛
    2021 年 70 巻 4 号 p. 407-413
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/25
    ジャーナル フリー
     A群溶血性レンサ球菌(Streptococcus pyogenes,GAS)による重症感染症には原発性腹膜炎の病型をとるものがある。従来この病型の初期対応では開腹術が選択されることが多かった。今回GASによる原発性腹膜炎に腹腔鏡下手術が有効であった症例を経験した。症例は30歳,女性。流産後5日目に発熱,腹痛,下痢,嘔吐の訴えで当院へ救急搬送された。急性汎発性腹膜炎の診断で,診断的腹腔鏡を行なったところ,腹腔内には膿性腹水が貯留していたが,原因病巣は認めなかった。腹腔内洗浄・ドレナージを行ない手術終了とした。術後に血液,腹水,腟分泌物培養よりGASが検出され,GASによる原発性腹膜炎と診断した。抗菌薬をAmpicillin SodiumとClindamycin Phosphateに変更し,状態は改善に向かった。GASによる原発性腹膜炎を疑う症例において腹腔鏡下手術は検討すべき初期対応である。
  • 川原 聖佳子, 西村 淳, 長谷川 潤, 北見 智恵, 牧野 成人, 河内 保之, 新國 恵也
    2021 年 70 巻 4 号 p. 414-418
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/25
    ジャーナル フリー
     80歳代,女性。高血圧,脂質異常症,内痔核のため近医で処方を受けていたが,ADLは自立していた。また高度な便秘は無く,下剤の処方や浣腸・摘便の既往も無かった。2か月前から体調不良と食欲低下を認めた。3週間前から腰痛のため歩行困難となり,当院整形外科へ紹介された。腹痛や腹部膨満などの腹部症状は無かった。腹骨盤部CTで腰椎骨折は無く,骨盤内後腹膜や臀部,左鼠径部皮下に気腫像が認められ,肛門周囲の炎症が疑われたため当科紹介となった。下部直腸の後腹膜穿孔と診断し緊急で腹会陰式直腸切断術を施行し救命した。下部直腸穿孔は大腸穿孔の中で頻度が少なく,非外傷性のものはまれである。特に高齢者は非典型的な症状しかないこともあり,注意を要する。
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