先ごろ米国のレーガン元大統領がアルツハイマー病であることを発表してわが国でも一般の人たちのアルツハイマー病に対する関心が高まっている。わが国においても, 人口の急速な老齢化に伴い, 痴呆老人が増加の一途をたどっており, 社会的にも大きな問題となりつつある。現在わが国における痴呆老人はおよそ100万人に上ると推定されており, 脳血管性痴呆の方が少し多く, その比率はおよそ3: 4程度と推定されている。発症年齢について初老期 (40-65歳) の発症の場合を早発型アルツハイマー病 (あるいは狭義のアルツハイマー病), 老年期 (65歳以降) 発症の場合を遅発型アルツハイマー病 (あるいは老年期痴呆) と分類することが行われてきたが, 最近では, 病理的にも病態機序の上からも両者に本質的な差はないとする考え方から, 両者をあわせて, アルツハイマー型痴呆 (dementia of Alzheimertype) という名で呼ぶことが多い。
痴呆患者に対するアプローチとしては, まず第一に, 痴呆の存在を診断することが重要で, その上で, 痴呆を来しうる疾患についての鑑別を行う。この際に, 特に治療可能な痴呆疾患 (treatable dementia) を見逃さないことが重要である。
痴呆を起こしうる疾患は, アルツハイマー型痴呆, 脳血管性痴呆だけでなく, この他にも, 内科疾患に伴うもの (甲状腺機能低下症などの内分泌疾患, ビタミンB1, B12などの欠乏症, 腎疾患, 肝疾患など), 正常圧水頭症, 慢性硬膜下血腫, 脳腫瘍, 感染症 (脳炎, 梅毒, AIDSなど), 薬物の副作用, 神経変性疾患 (進行性核上性麻痺, ハンチントン病, パーキンソン病の一部など), さまざまな疾患がある。これらの中には, 治療可能な疾患も多く含まれており, 実際の臨床の場ではtreatable dementiaの可能性について十分に検討を行うことが重要である。脳血管性痴呆については, そのリスクファクターをチェックし, 進行を予防することが重要である。アルツハイマー型痴呆については, 現在のところ, 抜本的な治療法は確立されておらず, 主として介護の点に重点が置かれているのが現状である。
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