日本農村医学会雑誌
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61 巻, 5 号
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原著
  • 横山 友香, 沖 公平, 近藤 俊貴, 高須 浩太郎, 中村 訓之, 鈴木 康友
    2013 年 61 巻 5 号 p. 683-688
    発行日: 2013/01/31
    公開日: 2013/05/10
    ジャーナル フリー
     昨今の高齢化により大腿骨近位部骨折 (以下近位部骨折) の発生率は増加している。これに伴い,時期を隔てて対側を受傷する患者も増加傾向にある。その中で,近位部骨折患者の主な罹患疾患の1つである,変形性膝関節症に着目し,両側近位部骨折との関連性について検討を行なった。
     対象は,2008年4月から2011年3月の間に近位部骨折を受傷し,当院にてリハビリテーションを実施した片側近位部骨折患者 (以下片側群) 234例,両側近位部骨折患者 (以下両側群) 17例であり,後方視的に情報収集を行なった。項目は,性別,年齢,受傷機転,対側受傷までの期間,両側近位部骨折の発生率,主な罹患疾患 (変形性膝関節症・認知症・脳血管疾患・眼疾患・呼吸器疾患・糖尿病・その他の骨折) の罹患率である。
     結果,変形性膝関節症と両側近位部骨折との関連性が認められた。そのため,変形性膝関節症は両側近位部骨折受傷の一要因であることが示唆された。また,両側群の受傷機転は全例転倒であった。今後,一般的な近位部骨折の治療に加え,変形性膝関節症・転倒予防へのアプローチを行なっていくことの重要性が考えられた。
  • 腰原 裕之, 宮尾 真由美, 横田 佐和子, 藍澤 喜久雄, 秋月 章
    2013 年 61 巻 5 号 p. 689-694
    発行日: 2013/01/31
    公開日: 2013/05/10
    ジャーナル フリー
     退院後の在宅患者の栄養管理の現状を明らかにし,今後の在宅での栄養管理について検討する目的で,訪問看護,リハビリテーション利用者53名に対し栄養に関する聞き取り調査を実施した。BMI18.5未満群 (やせ型群) は39.6%認められ,摂取エネルギー不足が想定されるため,必要栄養量の算出や栄養評価が必要と考えられた。栄養状態評価者は84.9%であったが、そのうち非経口群で体重測定者が有意に少なかった。体重未測定者は生命予後不良,入院治療の要因との報告もあり,患者の危険回避のため栄養アセスメントキットを用いた身体計測と必要栄養量の算出,栄養評価をする必要がある。一方,経口摂取患者44名のうち,むせがある患者は34.1%認められ,そのうち40.0%の患者に対しては特に対処を行なっていなかった。これは医療従事者がむせを問題と感じていないためと考えられる。また,むせがある患者はやせ型群で有意に多く,誤嚥リスクやむせ対処法の指導と同時にやせ型群には言語聴覚士の指導介入を考慮する必要がある。栄養補助食品使用者はやせ型群で有意に多かったが,そのうち84.6%はいわゆる健康食品を使用しており,栄養補助食品に関する正しい知識不足がうかがえ,適切な情報提供が必要と考えられた。今後,在宅患者の栄養管理において栄養士はもとより,言語聴覚士,歯科衛生士など多職種での指導介入が必要であり,多職種の連携に向け,病院主導のNSTが介入して行くことも必要と考えられた。
報告
  • 矢嶋 晃仁, 倉持 元
    2013 年 61 巻 5 号 p. 695-702
    発行日: 2013/01/31
    公開日: 2013/05/10
    ジャーナル フリー
     大規模地震災害における透析支援の基本原則は,患者移送の必要性を早急に把握し,災害拠点病院を中心軸とした被災施設の状況と患者対応能力に関する情報を円滑に収集できるシステムが完備していることである。さらにその外環地域にある透析施設とのネットワークも必要である。この連絡網を駆使して,短時間に実働性のある透析支援プログラムが作られることが求められる(輪状支援体制)。また,被災施設の一部のスタッフに過重な負担がかからないようにする支援スキームの構築も重要である。そのための具体的な方策として,1.患者の移送時間を最短にすること。2.支援施設での透析を含めた滞在時間を最短にする透析プログラムを作ること。3.災害時用に患者のカルテ作りおよび透析に必要なデータを限定してかつ共有化することがあげられる。透析施設の大規模地震災害に備えた地域防災体制作りでは,輪状支援体制を作ることが大規模災害を乗り切るには重要であり,多くの地域でも共通の防災システム作りが行なわれなければ有効に機能しない。さらに今後も大災害時の検証も加えながら,その時々で最良の地域災害対策フレームワークを作り上げていかねばならないと考えられる。
  • 伊藤 麻紀, 宮田 香, 高谷 浩英, 齊藤 厚, 高橋 茂
    2013 年 61 巻 5 号 p. 703-709
    発行日: 2013/01/31
    公開日: 2013/05/10
    ジャーナル フリー
     昨今の化学療法の多様化に伴い外来での抗がん剤治療が増え,病院での点滴後に保険薬局で薬を受け取る流れが出来ている。しかし保険薬局では,抗がん剤化学療法に関する知識が乏しく,また告知の有無を含め患者の治療計画,治療段階,状態等を知る手だてがなかった。休薬期間を要するなど服用方法の複雑化によるコンプライアンス低下も懸念される。そこで保険薬局において,患者により有益な服薬指導が出来るよう,病院薬局との情報の共有化を含め薬薬連携の在り方の模索を始めた。
     まず処方箋発行元である仙北組合総合病院の薬局との話し合いから始め,お互いに必要とする情報を交換し,治療スケジュールに関してのレジメンの提供を受け,服薬指導ツールの共有化を行なった。その後病院薬剤師による外来での化学療法開始時の患者説明への立ち会い,病院薬剤師や医師による抗がん剤化学療法・服薬指導に関する勉強会の開催を経て保険薬局での患者服薬指導の実施へと繋げた。更に病院薬局を窓口とし,告知の有無等の確認やフィードバックを行なえるようなシステムの構築を図った。
     病院薬局と保険薬局の情報の共有,合同勉強会の開催,服薬指導の統一等により,入院時から継続した指導を行なうことができ,これにより治療の効果・安全性を高めることができると思われる。
  • 髙野 康二, 新谷 周三
    2013 年 61 巻 5 号 p. 710-714
    発行日: 2013/01/31
    公開日: 2013/05/10
    ジャーナル フリー
     東日本大震災当初,院内のライフラインは通常通り確保されていたが,度重なる余震等により,高架水槽の配管が損傷,全館断水に陥り医療ガス設備の吸引システムが停止する事態が発生した。病院機能が一時的にも停止する重大な事例であり,緊急手術等が発生した場合の事態収拾に困惑した。ポータブル吸引器をかき集めても院内に4台しかなく,吸引能力も喀痰を吸引できる程度であった。血液などを大量に吸引する必要がある緊急手術に対応出来ない事態が発生した。災害拠点病院としてあってはならない事である。この教訓から医療ガス設備の資料を読み返し,講習会で講師が指摘していた水封式吸引ポンプの手動操作 (注水) の方法を記載したメモを確認した。その方法とは,工事関係者が行なう新規ポンプ設置時の初回ポンプ作動時における「呼び水」の手法である。断水時においても,ある程度の水 (36~60l程度) が確保できれば緊急手術等に対応出来た可能性があった。今後,同じような事態が発生した場合でも,災害時のリスクを最小限にするために,吸引設備を更新するときは水を必要としない油回転式吸引ポンプの採用により,断水時における吸引機能が停止する事態を避ける事が出来る。医療ガス設備機能の維持は最低限の病院機能維持に欠かせない。当院は平成24年の病院の増改築に合わせ吸引ポンプは水を必要としない油回転器式を採用し,災害に強い病院作りに努めているので報告する。
症例報告
  • 箱守 正樹, 山本 泰三
    2013 年 61 巻 5 号 p. 715-721
    発行日: 2013/01/31
    公開日: 2013/05/10
    ジャーナル フリー
     症例は60歳代女性のパーキンソン病患者で,プラミペキソールによる薬剤性ジストニア疑いで,立位で右側への傾きが出現した。原因となった薬剤は中止になったが,薬剤の影響がなくなった1か月後も,症状が改善しなかったため理学療法が開始された。主訴は左頸部から肩の疼痛,左腰背部痛と,長時間歩行困難であった。右側への傾きを戻そうとし,左側の頸部と肩,腰背部に代償により二次的な疼痛が生じていた。理学療法は右側側腹筋群のジストニアを抑制し,右脊柱起立筋を再活性化させることを目的としスリング・エクササイズ・セラピーによるリラクセーションと,さらに左側の代償をさせずに右脊柱起立筋を収縮させた。立位,歩行は,右側靴に補高し姿勢制御練習を行なった。7か月後左頸部から肩の疼痛は安静時,家事動作時に消失し,左腰背部痛は安静時,家事動作時ともに減少した。立位での傾きが正中位近くまで改善した。歩行は1時間以上できるようになり,QOL (SF-36) は8つの尺度すべてで改善した。
  • 原内 大作, 宇山 攻, 島田 良昭
    2013 年 61 巻 5 号 p. 722-725
    発行日: 2013/01/31
    公開日: 2013/05/10
    ジャーナル フリー
     子宮内膜症は子宮内膜あるいはその類似組織が異所性に増殖する疾患である。今回,我々は帝王切開術後創に発生した腹壁子宮内膜症の1例を経験したので報告する。症例は39歳女性で,帝王切開後7年経過して手術瘢痕部に3cm大の硬い有痛性腫瘤に気が付き病院を受診した。超音波検査で辺縁不規則,内部不均一な腫瘤,造影CTで僅かな造影効果がある充実性腫瘤がみられた。針生検による病理組織検査を行ない,免疫染色で内膜腺様の腺管にvimentin (+),エストロゲンレセプター (ER) (+),周囲の間質細胞はCD10 (+),ER (+)であり子宮内膜症と診断された。治療はホルモン療法と外科的切除があるが,術前診断できたことで遺残なく完全切除できた。子宮内膜症は基本的に良性疾患であり,過大侵襲にならないようホルモン療法と外科的切除を組み合わせてquality of life (QOL) に配慮した治療が大切である。
看護研究報告
  • 佐藤 早百合, 伊藤 恭子, 腰高 秋子, 小林 美和, 佐藤 まゆみ, 浅野 ゆかり, 守山 浩子, 太田 佳奈
    2013 年 61 巻 5 号 p. 726-731
    発行日: 2013/01/31
    公開日: 2013/05/10
    ジャーナル フリー
     当院における平成21年度のインシデント・アクシデント報告件数は417件であり,そのうち入院中の転倒・転落によるものが155件と最も多かった。これを受け,平成21年11月に医療安全委員会のプロジェクトチームとして立ち上げた,転倒・転落予防ワーキンググループ (WG) の取り組みによる,転倒・転落によるインシデント・アクシデント報告件数の減少と,転倒・転落発生率の減少効果について検討した。
     本WGは,薬剤師1名,理学療法士1名,看護師5名の合計7名より成り,院内の転倒・転落予防の推進と,患者の安全と医療の質の向上を目的としている。WGの具体的な活動は,転倒・転落アセスメント・スコアシートの見直し,危険度別予防対策の見直し,職員に対する教育研修,及び予防対策の実施状況を検証する医療安全ラウンドである。
     WGによる1年間の介入の前後を比較した結果,入院中の転倒・転落によるインシデント・アクシデント報告は,155件から,108件に減少し,重症事例 (レベルⅢ) の報告は5件から3件に減少した。転倒・転落発生率は2.19‰から1.56‰と減少がみられた。
     WGの活動により,転倒・転落予防対策のシステムの強化と,職員への教育・研修を行なった。その結果,職員の安全に対する意識が高まり,転倒・転落によるインシデント・アクシデント報告件数の減少と転倒・転落発生率の減少につながる結果が得られたものと考える。
      転倒・転落発生率 (単位 ‰ パーミル)
        =期間中に発生した転倒・転落件数/期間中の入院患者の延べ人数×1,000)
  • ──当事者の看護師・病棟師長・病棟スタッフへの関わりの現状──
    新宅 祐子
    2013 年 61 巻 5 号 p. 732-740
    発行日: 2013/01/31
    公開日: 2013/05/10
    ジャーナル フリー
     わが国の病院に専従リスクマネジャー (以下RMとする) が配置され約9年が経過した。RMは,病院管理者の指示に基づき組織内の安全文化の醸成に向け活動する。事故発生後RMは現場に出向き,①情報収集,②原因分析,③問題点の抽出,④再発防止策の策定,⑤フィードバック,⑥改善策の実施,⑦評価の一連の過程に関わるが,いつの時点で誰にどのように関わっているかについて明らかにした研究は少ない。今回,レベル3a誤薬発生時,RMがどのように行動をとったのか,当事者の看護師・病棟師長・病棟スタッフへの関わりに焦点を当てた。研究対象者は,2009年9月1日現在,医療安全対策加算を取得している250床以上の病院の看護師専従RMのうち同意を得られた249名である。本研究に先立ち,日本赤十字広島看護大学研究科倫理審査委員会の承認を得た。
     本研究対象のRMの年齢は40~50歳が9割以上,RM経験年数は1~3年が7割弱で,RMの9割以上は病院長や副院長の直下の安全管理部門として独立した部門に属していた。一連の過程①~⑦の行動プロセスのうち,①~④にはほとんどのRMが行動しており,最もRMの行動が少なかった⑦においても約6割のRMが行動していた。①~⑦すべてに行動しているRMの役割受容は高く,それらのRMの約5割が当事者の看護師には①で行動し,共感的な関わりを行なっていた。病棟師長には①~⑦すべてに行動し,6割強が助言,5割強が依頼を行なっていた。
  • ──看護専門外来の取り組み──
    松谷 由美子, 小野 一惠, 加藤 敬子
    2013 年 61 巻 5 号 p. 741-745
    発行日: 2013/01/31
    公開日: 2013/05/10
    ジャーナル フリー
     当院は安芸高田市唯一の総合病院であり,地域の基幹病院としての役割を担い医療・福祉・保健の充実に努めている。また,山村部では超高齢化が進み医療にも様々な影響を及ぼし,患者やその家族のニーズが複雑・多様化している。そのため,医師の診療のみで患者の抱える問題やニーズに応じることは困難となり,患者が安心して療養できるためには看護の役割が重要となっている。
     このような現状に対応するために,平成22年4月より治療と暮らしを共にサポートすることを目標として,緩和ケア認定看護師が担当する緩和ケア看護専門外来と,認知症看護認定看護師が担当するメモリー看護専門外来を創設した。その活動内容について事例を通じて報告する。
     それぞれの事例から,医師の診療時間内だけでは知る事の出来ない患者の生活課題を知り対応する事や,患者の価値観を大切にしながら支援していく事の重要性を認識できた。また,患者のニーズに応じセルフケア能力を引き出す支援を行なうためには,外来と病棟との連携,更には地域との連携が必要であることが明確となった。
     今後更に高齢化が進み患者のニーズが多様化する社会情勢の中,私たち看護専門外来の目標は,患者と家族が安心感と満足感を持ち病気と共存して生きていけるようサポートすることを中心に,生活の視点に立った親しみやすい看護の立場で専門性を発揮し,地域に貢献していくことである。
国際会議報告
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