日本農村医学会雑誌
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54 巻, 1 号
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綜説
  • 三舟 求眞人
    2005 年 54 巻 1 号 p. 1-10
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/06/21
    ジャーナル フリー
     第二次世界大戦後, わが国の旅行医学は長い間衰退期を過ごしたが, 1980年代後半になると経済発展が進み, 人や物の動きが世界的に活発かつ迅速となった。その結果, 国民所得が飛躍的に増加し, 海外旅行者が爆発的に増加するとともにアジア諸国に生産拠点を移す企業も出現し, 再び旅行医学の必要性が認識されるようになった。一方, 発展途上の国々では依然としてわが国では滅多に見られなくなった疾病や熱帯地域に特有の感染症が流行している。また, 新興感染症がときおり旅行者によって流行を拡大し世界を震撼とさせており, 旅行医学の重要性は増している。しかし, 欧米人と異なり日本人は, 長い間,国民皆保険制度の存在や予防接種なども国主導で行なわれてきたからか, 自分の健康は国や会社が守ってくれるという意識が強く, 自分の健康は自分で守るという意識に乏しい。まして海外旅行での健康については残念ながら無関心に近いのが現状である。今後は健康に関連することも今まで以上に自分の責任でこれに対応しなければならない時代になることが予想される。このような社会背景で今後わが国において旅行医学を推進するには, 関連学会が旅行業界や行政と密接に連携し, わが国における旅行医学のあり方を考えると同時に海外旅行での健康上のリスクの周知, そして自分の健康は自分が守るという意識を高める啓蒙活動が求められている。
原著
  • 前田 益孝, 近藤 久子, 椎貝 達夫
    2005 年 54 巻 1 号 p. 11-16
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/06/21
    ジャーナル フリー
     近年, 医療事故に対する国民の関心は高まり, 厚生労働省の指導もより厳密になってきた。事故報告への対応と分析は重要だが, 事例を的確・迅速に処理するだけでなく, その効果を客観的に評価する方法も確立されていない。当院では事故報告制度を改変し, 独自の管理レベルを導入することで一定の成果をあげており, 報告する。
     従来の事故報告制度は, 各部署からの事故報告書を5人のリスクマネージャーが分担して評価・分析し, 重要事例のみを委員会に報告する体制であった。この方法は少数のエキスパートにより専門的な解析を行なえるが, 一般職員へ安全管理意識を広める点からは不適切だった。このため, 事故報告書の一次評価・分析を部署ごとのチームリーダーに委ね, さらにリーダーがその報告を持ち寄って, グループワーキングを行ない, 問題案件のみを委員会に上げるシステムに変更した。さらに一般的な事故のリスクレベルに加え, 当院独自の管理レベルを導入した。これは事故報告を管理・対応の緊急性・内容から層別化したもので, 3段階に分けた。
     新たに導入した部署ごとに一次完結する事故報告システムは, 事故報告から対応までの責任を明確にし, 一般職員の安全管理意識を高め, 広めていく上で有効だった。管理レベルは事故の内容・リスクレベルによらず, 何時, どのような対応が必要なのかを考えられ, 事例ごとの評価だけでなく, 病院全体の安全管理の成果を評価する指標になりうる可能性が示された。
  • 野村 賢一, 岩瀬 定利, 斎竹 達郎
    2005 年 54 巻 1 号 p. 17-27
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/06/21
    ジャーナル フリー
     医療現場において,“モノの管理”はどうあればよいのか。全国厚生連病院を対象に, 医療材料管理の実態と物品管理システムに関するアンケート調査を試みた。アンケート調査は, 全国厚生連病院のうち100床以上の病院を対象に実施, 調査依頼数98件, 回答数51件, 有効回答数49件であった。調査項目の中で, 物品管理システムの稼働状況, 在庫管理についてはできる限りの分析を実施した。(1)物品管理システムの導入後, 安定的稼働状況に至るまでの期間については, 全体で41%の施設に半年以上の日数が掛かっていた。(2)物品管理システム導入後の効果については, 発注, 入庫, 出庫, 棚卸し業務の簡便化が主なものであり, 医事請求漏れ防止, 品目の絞り込み, 仕入率の低下など, 経営的側面での効果は少なかった。(3)物品管理システムのマスター管理については, データの精度, 迅速な処理, 作業効率管理体制を問題に挙げている施設が多かった。(4)物品管理システム使用の院内型SPDに於いて, 消費管理の有無による在庫比較では, 元倉庫より払い出された医療材料を使用者が消費管理を行なう方法では, 17.7日, 一方, 元倉庫の職員が使用者側に届けると同時に部署棚の消費管理をする方法では, 8.3日と在庫保有日数に差が出ていた。(5)約8割方の病院が物品管理システムの導入を行ない, 物品の標準化の推進, 物品の適正な購入, 在庫管理, 消費管理, 効率的な供給システムの構築を図ろうとしていた。
  • 横山 敏之, 横山 有見子, 荒井 亨
    2005 年 54 巻 1 号 p. 28-36
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/06/21
    ジャーナル フリー
     抗菌薬投与後に併発する下痢症 (抗菌薬関連下痢症, AAD) の主要な原因菌として, Clostridium difficile (C. difficile) が挙げられる。海外ではC. difficileによるAADの集団発生の報告が見られる。近年わが国でもC. difficile関連下痢症 (CAD) が院内感染として注目されつつあるが, いまだ一般診療現場での関心度は低い。
     今回我々は, 久美愛厚生病院におけるC. difficile関連下痢症発症について臨床的な背景因子の検討と, 院内感染の可能性を検討した。2003年3月から2004年2月までの1年間に当院で抗菌薬治療を受けた患者のうち, 53例がAADを発症し, うち35例 (66%) がCADであった。発症のリスクファクターは高齢, 寝たきりあるいは疾患の治療のためのベッド上安静状態, 経管栄養, 長期間の抗菌薬使用等であり, 従来から指摘されている要因が当院においても確認された。
     発生状況の調査では, 最初の2か月間で1つの病棟で7例, 他の1つの病棟で5例の集団発症が見られ, 院内感染も疑われたため, 感染予防策として, 手洗いと手袋の着用を強化したところ, その後のAADの発生は減少した。
     35例中20例についてC. difficile培養株が得られ, PCRリボタイピング法を用いて感染経路の検討を行なった。20株中19株が同一のリボタイプ (type smz)であった。また, 他施設でCADを発症した2例中1例からも同タイプの菌株が分離され, 職員の動線の一致しない複数の場所から同一タイプの菌株が得られたことは, 院内感染の可能性はあるものの, 断定することはできず, 今後のさらなる検討が必要と考えられた。
     毒素産生遺伝子の検討では, 全ての株がtoxin A陽性であったが, 今回用いた糞便中toxin A検出キットでは3例で陰性結果であり, CADの診断においてはC. difficile培養検査も併用する必要があると考えられた。
報告
  • 菊地 顕次, 須田 良孝, 塩屋 斉, 進藤 健次郎, 朝倉 健一, 西成 民夫, 黒木 淳, 後藤 博之, 山中 康生, 西村 茂樹, 中 ...
    2005 年 54 巻 1 号 p. 37-49
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/06/21
    ジャーナル フリー
     平成10年1月から平成15年12月までの6年間に秋田県本荘市・由利郡で発症し当院で治療した脳卒中2,414例を対象として,発症状況,病型割合とその変遷,性別・年齢階層別割合などについて分析・検討した。前半3年間は年間約400例を超える症例数だったが,後半はそれに達せず,漸減の傾向が認められた。病型別割合では脳梗塞68%,脳出血22%,くも膜下出血10%であり,昭和40年代,50年代と時代を経るにしたがって脳出血の割合が特徴的に減少しており,脳卒中病型に時代的変遷が認められた。性別では男性55%,女性45%で,病型別にみると脳梗塞,脳出血はともに男性に多く,くも膜下出血では明らかに女性に好発していた。また,脳卒中各病型ともに女性が男性よりも高齢発症だった。年齢階層別では脳卒中各病型ともに70歳台に発症のピークがあり,70歳以上の高齢者が全体の64%を占め高齢化が顕著だった。各病型の年齢階層別割合をみると,30歳台以下ではくも膜下出血が最も多く,40歳台では脳出血と脳梗塞が相半ばし,50歳台以降はいずれも脳梗塞が最も頻度の高い疾患だった。脳出血の部位では被殻出血,視床出血の順に多く,両者が全体の70%を占めたが,昭和50年代と比較して被殻出血が激減し,視床出血,小脳出血および皮質下出血が増加しており,脳出血病巣にも明らかな時代的変遷が認められた。脳出血の発症年齢は全体として70歳台にピークがあるが,被殻出血と橋出血は60歳台以下と若く,一方視床出血,小脳出血および皮質下出血は過半数が70歳以上の高齢発症だった。当地域における脳卒中は過去において若年者の脳出血が特徴的に多発したが,最近ではこれが激減し脳梗塞が多発するなど,脳卒中発症に関して他との地域差があまりなくなり,全国の平均的な様相を呈しているものと考えられた。
  • ――第2報(最終報告)――
    堀内 信之, 西垣 良夫, 小口 真司, 塩飽 邦憲, 松永 剛, 坂井 博之, 佐藤 英嗣, 鈴木 長男, 内川 公人, 村松 紘一, 矢 ...
    2005 年 54 巻 1 号 p. 50-64
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/06/21
    ジャーナル フリー
     マダニ刺咬症の農村地域における実態調査のために,平成14年と同様の調査票にもとづいて,症例の集積を行なった。調査依頼機関は,日本農村医学会に関係の110医療機関で,そのうち80医療機関から回答が得られた。日農医関係以外でも11医療機関から協力が得られた。
     マダニ刺咬症は,134例が集計された。これらの症例の実態は,今までの報告と同様であり,特別な相違はみられなかった。
     ライム病の症例は,14例集計された。全例とも,第1期の皮膚症状のみであった。日本紅斑熱の症例は本年もみられなかった。
     調査に協力された医療機関,集計された症例は表1の通りである。
症例報告
  • 小林 義昭
    2005 年 54 巻 1 号 p. 65-69
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/06/21
    ジャーナル フリー
     症例は75歳,男性。高血圧,気管支喘息のため当院内科に通院中,いびき,日中の眠気などを訴えたため2003年4月睡眠ポリグラフ (polysomnography; PSG) 検査を行ない,無呼吸低呼吸指数 (apnea-hypopnea index; AHI) が41.6/時の閉塞性睡眠時無呼吸低呼吸症候群 (obstructive sleep apnea-hypopnea syndrome; OSAHS) 重症と診断された。持続陽圧呼吸 (continuous positive airway pressure; CPAP) 療法は有効で,自覚症状は改善した。彼は寺の住職であり,岡山の住職代理を冬の100日間勤めるため,10月末でCPAP治療を中止した。寺院で給仕された食事だけを食べ飲酒・外食は一切せず,食生活は管理された。彼は周囲にいびきを指摘されたが日中の眠気を自覚しなかった。2004年4月のPSG検査ではAHI9.9/時の軽症OSAHSに改善していた。自分の寺の住職に戻っても食養生を継続していたが,2004年11月のPSGではAHI12.8/時と軽度の増悪を認めた。住職代理終了直後はOSAHSが改善し,彼が寺に戻って約9か月後に増悪したのは,日常生活の相違が原因と考えられた。
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