抗菌薬投与後に併発する下痢症 (抗菌薬関連下痢症, AAD) の主要な原因菌として, Clostridium difficile (C. difficile) が挙げられる。海外ではC. difficileによるAADの集団発生の報告が見られる。近年わが国でもC. difficile関連下痢症 (CAD) が院内感染として注目されつつあるが, いまだ一般診療現場での関心度は低い。
今回我々は, 久美愛厚生病院におけるC. difficile関連下痢症発症について臨床的な背景因子の検討と, 院内感染の可能性を検討した。2003年3月から2004年2月までの1年間に当院で抗菌薬治療を受けた患者のうち, 53例がAADを発症し, うち35例 (66%) がCADであった。発症のリスクファクターは高齢, 寝たきりあるいは疾患の治療のためのベッド上安静状態, 経管栄養, 長期間の抗菌薬使用等であり, 従来から指摘されている要因が当院においても確認された。
発生状況の調査では, 最初の2か月間で1つの病棟で7例, 他の1つの病棟で5例の集団発症が見られ, 院内感染も疑われたため, 感染予防策として, 手洗いと手袋の着用を強化したところ, その後のAADの発生は減少した。
35例中20例についてC. difficile培養株が得られ, PCRリボタイピング法を用いて感染経路の検討を行なった。20株中19株が同一のリボタイプ (type smz)であった。また, 他施設でCADを発症した2例中1例からも同タイプの菌株が分離され, 職員の動線の一致しない複数の場所から同一タイプの菌株が得られたことは, 院内感染の可能性はあるものの, 断定することはできず, 今後のさらなる検討が必要と考えられた。
毒素産生遺伝子の検討では, 全ての株がtoxin A陽性であったが, 今回用いた糞便中toxin A検出キットでは3例で陰性結果であり, CADの診断においてはC. difficile培養検査も併用する必要があると考えられた。
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