日本農村医学会雑誌
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48 巻, 4 号
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  • 宮北 隆志, 上田 厚
    1999 年 48 巻 4 号 p. 583-587
    発行日: 1999/11/30
    公開日: 2011/08/11
    ジャーナル フリー
    カナダのトロント大学ヘルスプロモーションセンター (Center for Health Promotion: CHP) の研究グループは,「ヘルスプロモーションとリハビリテーションにおけるQOL」というタイトルの本を1996年に出版している。本稿では, CHPによって提示された「QOLの構成要素」と「QOLのフィールド (Quality of life field)」という概念モデルについて紹介したい。まず彼らは, QOLを「人々がそれぞれに与えられた人生の貴重な可能性をどれだけ享受しているかの度合い」と定義し,「Being」,「Belonging」,「Becoming」の三つの基本的要素と九つの下位要素から構成されるQOLのモデルを提案している。「Being」は, 個人としてどのような状態にあるかという最も基本的な側面を包括するもので, 身体的状態 (physical being), 心理的状態 (psychological being), 精神的状態 (spiritual being) の三つの下位要素,「Belonging」は, 個人が環境や周囲の人々にどのように適応/適合しているかに関連する三つの側面としての, 社会的帰属 (social belonging), コミュニティ帰属 (community belonging), 生態学的帰属 (ecological belonging) から,「Becoming」は, 各人がそれぞれの目標, 願望, 期待を達成するために何をするかといった目的のある活動に焦点をあてたもので, 日常生活 (practical becoming), 余暇活動 (leisure becoming), 自己実現 (growth becoming) のそれぞれ三つの下位要素から構成されるものとしている。また, QOLを直接的に規定する要因としての決定因子と, 決定因子の影響を強化したり緩和したりする修飾因子からなる「QOLのフィールド」では, 環境的決定因子, 個人的決定因子, そして, 自己決定/自己裁量, 潜在的機会/条件, 資源, 社会的支援システム, 技量, ライフイベント, 政治的変化, 環境的変化等の修飾因子とQOLとの関係がモデル化されている。生態学的な視点から生活のレベルで健康を捉え, 人々の暮らしに目を向けることの重要性が再認識されつつある今日, CHPによって提示された概念モデルは, 地域におけるヘルスプロモーションを具体的に実践していく上で非常に有用なモデルであり, 作業仮説の設定や施策づくりにおいて, 一つの手がかりを提供してくれるものと考えられる。
  • 熊木 昇二, 栗林 秀樹, 山本 浩一郎, 湯本 一彦
    1999 年 48 巻 4 号 p. 588-594
    発行日: 1999/11/30
    公開日: 2011/08/11
    ジャーナル フリー
    当院では新鮮アキレス腱皮下断裂の治療は観血的腱縫合術後神中式後療法を原則としている。1990年4月から1996年12月までにこの方法で治療し電話で本人と直接話のできた77例80腱を対象として, 農業従事者における治療成績を他の職業従事者と比較し検討した。職業別では肉体労働者が22腱, 農業従事者が22腱, 非肉体労働者が36腱 (事務職32腱, 主婦4腱) であった。経過観察期間は平均4年3か月であった。再断裂例は非肉体労働者の1例だけであった。受傷時平均年齢は肉体労働者で43.0歳, 非肉体労働者で38.4歳であったのに対し, 農業従事者では50.4歳と他の群と比べ高齢の傾向があった。スポーツへの復帰は肉体労働者と農業従事者でともに59.1%であり, 非肉体労働者では83.3%であった。このように農業従事者では非肉体労働者に比べるとスポーツ復帰が劣る傾向があった。これは, 農民は農業に伴う身体的活動を行っているから必要な体力は十分に保持されており, 体力の強化は必要ないと考える者が少なくないことの反映の可能性がある。体力の向上のためには農業労働だけでは不十分との報告があり, また定期的, 継続的にスポーツをすることが健康増進に有効で, 農作業の合理化を促し, 余暇時間の創出に貢献しているとの報告がある。このような面から農業従事者がスポーツに復帰することは有意義であり, 農業労働だけでなく, 何らかのスポーツへの復帰が大切であることを啓蒙する必要がある。
  • 高松 道生, 柳沢 素子, 町田 輝子, 松島 松翠, 飯島 秀人, 中沢 あけみ, 池田 せつ子, 宮入 健三, 矢島 伸樹, 佐々木 敏
    1999 年 48 巻 4 号 p. 595-602
    発行日: 1999/11/30
    公開日: 2011/08/11
    ジャーナル フリー
    こんにゃくのコレステロール低下作用について検討し, その健康食品としての意義を明らかにする研究を行った。
    こんにゃくの成分であるグルコマンナンをチップ化して煎餅状に加工 (以下, マンナン煎餅) し, 総コレステロール200mg/dl以上の当院職員と正常範囲内の当院附属看護専門学校寄宿学生を対象に, 脂質代謝への影響を調査した。毎食後に煎餅を摂取し, 試験期間前後に脂質を中心とする血液検査を行ってマンナン煎餅の脂質代謝への影響を評価した。
    その結果, マンナン煎餅を摂取する事によって総コレステロール値の低下が認められ, 試験前総コレステロール値の高い群ほどその低下の度合いが大きかった。HDLコレステロールや中性脂肪への影響は認められなかった事から, マンナン煎餅はLDLコレステロールを特異的に低下させる作用を有するものと考えられた。血算や生化学などの検査値には変化を認めず, 腹満や下痢などの消化器症状が一部に観察されたものの, 重症なものではなかった。一方, 試験前後の体重に差はないものの試験期間中の総摂取エネルギーや脂質摂取は減少しており, マンナン煎餅を摂取することが食習慣に影響を与えた事が示唆される。以上から, こんにゃく (グルコマンナン) は直接・間接の作用でコレステロール, 特にLDLコレステロールを低下させ, マンナン煎餅が健康食品として意義を有するものと考えられた。
  • 林 雅人
    1999 年 48 巻 4 号 p. 603-615
    発行日: 1999/11/30
    公開日: 2011/08/11
    ジャーナル フリー
    農村部の都市化傾向は徐々に進行している。しかし現在でも都市近郊農村から山間農村まで差がなくなっているわけではない。その差をみる目的で, 都市近郊農村として広島市及びその周辺, 農村性の強い秋田県平鹿郡, 長野県佐久郡, その中間の島根県出雲市を対象として, 集団健診成績から地域差の抽出を試みた。その結果1) BMIについての比較で, 男性では都市性の強い広島が高いが, 女性では農村性の強い秋田, 佐久が高く男性と異なった特徴を有していた。2) 収縮期血圧は男女とも秋田が最も高く, 次いで島根で, 佐久が最も低く広島が中間となっていた。佐久の低い理由については次年度, 背景因子を検討する。3) 拡張期血圧は男女とも佐久の40代, 50代で高く逆に70代で他地域より低くなっているが大きな差はみられなかった。4) 血清総コレステロールは都市性の高い広島が男女とも高いが, 男性の70代は低値となり中年で最も低い秋田より低かった。4地域中最も好ましくないパターンと考えられる。5) 空腹時血糖は男女とも農村性の強い秋田, 佐久で高く, 今後の農村部の生活習慣を指導する際重要である。6) ヘモグロビンは男女とも広島, 佐久が高かった。広島は都市特性, 佐久は集団特性によるものと考えられる。上記各地域の健診成績の他に得られた生活習慣病の臨床疫学的研究要旨は各研究者毎に示されており重複するのでここでは省略する。尚, 運動療法については茨城県で心筋梗塞における運動療法とQOLに関する研究を行った。その結果, 運動療法とQOLとの問には明らかな関連はみられなかったが, 心機能が良好な症例においてはQOLスコアが上昇する傾向がみられた。
  • 松島 松翠
    1999 年 48 巻 4 号 p. 616-624
    発行日: 1999/11/30
    公開日: 2011/08/11
    ジャーナル フリー
    検診活動及び健康増進, 生活改善を含む健康教育活動を実施することによって, それが疾病予防及び医療費の軽減にどの程度役立つかを, 上記活動が充実している町村群と, あまり充実していない町村群との比較によって明らかにすることを本研究の目的とした。
    まず, 検診活動, 健康教育, 保健衛生活動が充実している代表的な町村 (検診群) と, それらが低くとどまっている町村 (対照群) として, 北海道では鷹栖町 (検診群) と東神楽町 (対照群), 長野県では八千穂村, 臼田町, 川上村 (以上検診群) と南牧村, 小海町, 佐久町 (以上対照群), 高知県では梼原町 (検診群) と安田町 (対照群) の各町村を選んだ。
    それらの町村について, 検診活動及び健康増進活動と一般医療費, 老人医療費との関係について調査分析した。その結果, 検診群は対照群に比較して, とくに年間1人当たり老人医療費が少なく, その差額は鷹栖町では34,649円, 八千穂村, 臼田町, 川上村の3か町村では4.2~10.2万円, 樽原町では, 344,915円であった。
    一方, 検診ならびに健康教育に要した費用を年間1人当たりに換算して算出し比較したが, いずれも検診費用総額よりも老人医療費の低下額のほうが大きいという結果が得られた。すなわち, 検診活動および健康教育活動が, 老人医療費を低下させており, 費用効果の点から見ても効果が大きいことが明らかとなった。
    この中で, とくに35年間健康管理を続けている八千穂村では, 平成7年度において全国と比較した1人当たり年間医療費の差額は, 一般国保医療費 (歯科を除く) において37,373円, 老人医療費において208,246円の低下となって現れている。
    また別に, 島根県, 熊本県の全市町村について, 各種検診活動, 健康教育活動と一般医療費, 老人医療費との相関関係について分析した。島根県の分析では相関がはっきりしなかったが, 熊本県の分析では, 保健婦数については, 療養諸費と歯科を除く全ての診療費 (入院・入院外・計) に負の相関を認めた。また健康診査では, 老人保健事業による基本健康診査受診率と大腸がん検診受診率について, 同じく療養諸費と歯科を除く全ての診療費 (入院・入院外・計) に負の相関を認めた。また胃がん・大腸がん・子宮がん検診受診率については, 一部の診療費と負の相関が認められた。
    以上, 住民の健康保持・増進を目指した保健婦活動や各種検診活動は, 医療費抑制に効果があると考えられた。
  • 角田 文男
    1999 年 48 巻 4 号 p. 625-629
    発行日: 1999/11/30
    公開日: 2011/08/11
    ジャーナル フリー
    1980年以前まで我が国の人口構成は西欧先進諸国に比して老年人口割合が低かったが, 1985年老年人口割合が10%を超えるとその11年後の1996年には15%を超えるという, 他の先進諸国でも類をみない速度で高齢化が進行してきた。農村部と目される地域においては, その傾向が顕著であり, 島根や秋田, 山形などでは老年人口割合が既に20%を上回るに至っている。このような人口動向により, 特に農村部では地域保健医療の面で様々な老年期の退行性疾患が注目されるが, なかでも老年期骨粗鬆症患者の増加は著しく, 同症による骨折や疾痛, 寝たきり, さらにはQOL (Quality of Life) の低下などが大きな問題となっている。すなわち加齢とともに全身骨量が減少して骨折の発生率が高まり, 寝たきり状態の要因になること, また, 医療費の高騰にもかかわってきていることなどから特に農村の保健医療福祉上, 緊急な対応がせまられるようになった。
    骨粗霧症は, 骨量の減少および骨梁構造の悪化により骨の脆弱性が亢進した状態であり, 多くは閉経に伴うエストロゲンの減少による閉経後骨粗霧症および加齢による生理的な骨量減少を基本とする老年期骨粗霧症に分類される。同症の発症には, 成長過程での骨量獲得の程度, また, 女性における閉経期前後の骨減少, さらに男女での壮年期以降の骨量減少もしくは骨梁構造の破綻の程度と壮老年期での転倒事故などの有無やその頻度が大きくかかわるものと考えられており, 予防医学的見地から一生を通じての対策が重要である。骨粗鬆症の診断や重症度の判定, また骨粗霧症のリスクファクターの検索には骨量の評価が必要不可欠である。従来, 骨量減少の有無は胸腰椎X線写真から定性的に判定されてきたが, 最近の骨量測定法の飛躍的な発展によって, 本症の第一次予防や管理に有効な骨密度や骨強度を高精度, 高感度に数量化できるようになった。しかしこれらの測定法を用いて骨粗鬆症の集団検診を行うには, 測定機器の器差, 測定部位の問題, 測定時間の短縮等, いくつかの未解決な課題がある。
    本研究では, 骨粗鬆症を基本とした農村地区における骨粗霧症の集団検診技法を確立する一方, 特に農村部婦人の骨粗鬆症発症に係わる諸要因について検討し, その予防対策と健康管理に寄与しようとするものである。
  • 吉崎 浩一, 野瀬 弘之, 鈴木 優司, 近藤 則央, 前田 淳一, 堀井 修, 飯井 サト子, 牧村 士郎, 寺井 継男, 東 弘志
    1999 年 48 巻 4 号 p. 630-637
    発行日: 1999/11/30
    公開日: 2011/08/11
    ジャーナル フリー
    上部消化管造影検査で高濃度バリウムを使用するにあたっての前調査として, バリウム飲用による副作用及びその服用感がバリウム濃度及びその性状によりどのように変化するかアンケート調査を行い検討した。
    副作用は, バリウム濃度上昇に伴い増加したが, 何れも一過性のものであり, 医療機関で治療を要した例はなかった。さらに, 便秘群と通常群に分けて検討したが, 便秘群では通常群より低い濃度で副作用の割合が増え, 排泄状況に関しても便の硬化や排泄の遅延などが認められた。バリウム便の排泄は, 基本的には普段の排便状況と一致し, 濃度増加による影響をあまり受けないものと思われた。
    下剤の有無による排便状況の調査では, 下剤の服用が必ずしも良好な排泄につながっておらず, 今後下剤を服用するタイミングや水分摂取等に関する検討が必要であると思われた。
    バリウムの飲み易さは, バリウムを選択する際の要素の一つと考えられるため, その服用感に関して調査したが, 濃度の差よりその性状に起因することが明らかになった。
    これらの結果より高濃度バリウムを使用するに当たり, 副作用出現を抑制するためには特に便秘群において適切な指導をする必要があると思われた。
  • 長谷川 ウツミ, 星野 文, 山添 久美, 浦東 泰子, 村山 直子, 永倉 富美子, 石川 由記子, 島 健二, 倉持 元
    1999 年 48 巻 4 号 p. 638-643
    発行日: 1999/11/30
    公開日: 2011/08/11
    ジャーナル フリー
    透析低血圧症は, 安定した透析療法を維持するうえで大きな問題の一つである。この改善のために通常透析施行時に昇圧剤の併用が行われているが, それでも十分にコントロールできない症例が存在する。近年, 透析液温度を低下させて透析を行う低温透析の有効性が報告され, また最近グレープフルーツジュースと一部の薬剤との相互作用も指摘され, グレープフルーツジュースの飲用によって薬剤の効果が増強することが報告されている。今回我々は, 昇圧剤を併用していても透析低血圧症を頻回に認める維持透析患者9人に対して, 昇圧剤の併用に加えて透析施行中の透析液温度の低温化 (透析液温度35.0℃) および/または透析前にグレープフルーツジュース (100ml) を飲用させた時の透析中での血圧値を経時的に測定し比較検討した。その結果, 低温透析を併用することにより透析中の血圧の低下が防げる傾向がみられ, 透析後のQOLをより高く保つことができた。しかし透析液の低温化によると思われる痙攣 (2人), 意識低下 (1人) を認めた症例もあり, その副作用の出現には十分な注意が必要であると思われた。またグレープフルーツジュースの併用に関しては, 透析中の血圧値およびQOLの保持に関しての影響は認められなかった。
  • 病院保健婦の立場から
    大前 ちあき, 井上 みのり, 浜砂 隆子, 八木 ちゑ子, 馬場 敏朗, 樫木 良友
    1999 年 48 巻 4 号 p. 644-649
    発行日: 1999/11/30
    公開日: 2011/08/11
    ジャーナル フリー
    当院では平成5年度より岐阜県からの在宅ケアシステム運営事業の委託を受け, 地域総合ケアシステムづくりに参画し, 病院保健婦が他の医療機関や自治体と連携しながら患者の在宅療養支援に努力してきた。
    事業の当初, 自治体のサービス不足, 病院側の問題では退院時の患者の在宅ケアニーズ把握不足, サービスの情報提供不足, 自治体への療養者の情報提供不足, 連携が不充分などの問題があげられた。これらを評価・修正しながら, 平成5年度から平成10年度までにわたり総合的な在宅ケアシステム整備を行った。
    従来は, 個々の機関が単独でのサービスを提供することが多かったが, 本事業により病院・地域医師会・自治体との連携が進み, サービスが効果的かつ効率的に提供できるようになった。院内においても在宅ケアに対する意識づけができてきている。
  • 高齢者向けサービス付き住宅に関する報告
    戸村 成男, 右田 玲子, 柳 久子, 斎藤 秀之, 平野 千秋, 土屋 滋
    1999 年 48 巻 4 号 p. 650-656
    発行日: 1999/11/30
    公開日: 2011/08/11
    ジャーナル フリー
    少子・高齢化がすすんでいる昨今, 同居率の低下により, ひとり暮らし高齢者や高齢者のみ世帯が増加している。ひとり暮らしや高齢者のみ世帯の高齢者が, 安心して老いることのできる高齢社会を実現するためには, (1) 高齢者の生活に配慮した住宅や住環境, (2) 若年者や近隣の人々等多世代との交流, (3) 保健・福祉・医療が連携して行う予防医学や介護サービスの提供システムを実現していくことが重要となる。現在, わが国では, 高齢社会に向けた生活環境の基盤づくりを, 高齢者の経済的自立度に応じたかたちで推進している。高齢者は, 高齢化に対応できる集合住宅で, 福祉サービスを受けることにより, プライバシーを守りつつ自立して生活を続けることができる。このような高齢者サービス付き住宅のモデルプロジェクトがすすめられている。そのモデルプロジェクトであるシルバーハウジング, シルバーピアの試みは, 安心して老いることができる環境整備, 福祉サービスのあり方を提示していると思われる。
  • 1999 年 48 巻 4 号 p. 657-665
    発行日: 1999/11/30
    公開日: 2011/08/11
    ジャーナル フリー
  • 1999 年 48 巻 4 号 p. 666-674
    発行日: 1999/11/30
    公開日: 2011/08/11
    ジャーナル フリー
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