日本農村医学会雑誌
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71 巻, 4 号
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原著
  • 花城 和彦, 本村 純, 砂川 昌範
    2022 年 71 巻 4 号 p. 309-320
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/16
    ジャーナル フリー
     沖縄県は脂肪肝有病率が本邦において最も高いため,疾患感受性遺伝子であるpatatinlike phospholipase domain containing 3(PNPLA3)の一塩基多型(rs2896019)との関連を調べた。解析対象者として,健診受診者178名から36名(男性18名,女性18名)の肝腎コントラスト陽性者,年齢・性別を対応させた38名(男性19名,女性19名)の陰性者の計74名を抽出し,結果を横断研究に用いた。女性に比べて男性の肝腎コントラスト陽性率が高かった(p=0.0020)。PNPLA3 SNP解析では,TTの比率は16.2%,GT/TGは58.1%,GGは25.7%であった。女性では,肝腎コントラスト陽性者のBMIおよび体脂肪率は陰性者に比べて高値を示した(p=0.0003,p<0.0001)。女性の体脂肪率(%)では,TT(29.8±7.1)に比べてGG(41.0±6.5)が有意に高かった(p=0.0203)。肝腎コントラスト陽性の有無を従属変数とした多重ロジスティック回帰分析では,リスクアレルG数(調整オッズ比4.549,p=0.0073)と体脂肪率(同1.085,p=0.0329)において肝腎コントラストとの有意な関連がみられた。沖縄ではPNPLA3のリスクアレル(G)の保有率が84%と他地域に比べて高率であり,脂肪肝を発症しやすい遺伝的背景があると考えられた。
  • ─阿南町社会福祉協議会が限界集落で取り組んだケースから─
    合田 盛人
    2022 年 71 巻 4 号 p. 321-331
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/16
    ジャーナル フリー
     本研究では,阿南町社会福祉協議会(阿南町社協)が取り組んだ農福連携を調査分析することにより,農福連携の実施主体が実践行為から中間支援へ移行するプロセスを単一事例修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(SCM-GTA)を活用して明らかにすることを試みた。その結果,14の概念と4つのカテゴリーが生成され,結果図を作成した。さらに,概念とカテゴリーを用いて次のように文章化(ストーリーライン)した。阿南町社協が限界集落を対象に展開した農福連携は,まず<限界集落への訪問>など【限界集落の地域アセスメント】から始めて,集落住民へ【在宅生活存続のための農業支援】を開始,その後<農業支援事業の終了>と同時に<社協運営施設での農業実践>により【在宅高齢者への生活支援から障害者への就労支援へ】と転換し,さらに<障害者福祉施設と伝統野菜とのマッチング>を行ない<障害者と地域住民と社会資源の協働>による【地域共生社会の実現】に向けた取組となった。阿南町社協が実施した農福連携は,限界集落における地域自立生活支援であり,「福祉の地域力」を駆使して,「地域の福祉力」を高めており,その2つの合力である「地域福祉の推進力」を創出しており,その合力の先端には,限界集落において規模は小さくとも地域共生社会を実現していることが示唆された。
症例報告
  • 仲野 宏, 遠藤 英成, 松石 彬, 金澤 匡司
    2022 年 71 巻 4 号 p. 332-336
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/16
    ジャーナル フリー
     症例は85歳女性。嘔気,腹痛を主訴に近医を受診し,症状が強く精査加療目的に当院へ搬送された。上腹部に強い圧痛があり,胸腹部CT検査で縦隔内に胃と横行結腸が脱出しており,複合型(Ⅳ型)食道裂孔ヘルニアと診断した。横行結腸に急峻な狭窄と壁の造影効果不良があり,ヘルニア嚢内,骨盤底に腹水を認めたため,絞扼による虚血,壊死を疑い緊急開腹手術を施行した。食道裂孔に嵌頓した胃と横行結腸を腹腔内に還納したところ,横行結腸は40cm長に渡り壊死しており,切除・吻合した。食道裂孔の縫縮を施行したのちに,逆流防止・噴門形成術としてToupet法も併施した。術後に逆流や通過障害は認めず術後63日目に退院した。現在外来通院中であるが食道裂孔ヘルニアの再発なく経過している。
     複合型食道裂孔ヘルニアで腸管壊死を来した症例は稀であり,文献的考察を加えて報告する。
  • 辻 元基, 五十里 東, 鈴木 道雄, 久保田 哲夫
    2022 年 71 巻 4 号 p. 337-341
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/16
    ジャーナル フリー
     臍ヘルニアに対する圧迫療法が普及しているが,重篤な合併症は稀とされる。今回,へそ圧迫材パックを用いた圧迫療法中に蜂窩織炎を発症し,入院加療を要した乳児を経験したため報告する。症例は2か月の女児。圧迫療法開始から5日後に,圧迫部位に一致した裂創,皮膚の強い発赤,硬結と排膿を認めたため当院を受診した。白血球数13,200/μl(好中球56%),CRP 3.78mg/dlと上昇を認め,超音波検査で周囲脂肪織の高エコー化と血流シグナルを認め,蜂窩織炎と診断した。5日間の抗菌薬治療により速やかに症状は改善した。圧迫療法中の蜂窩織炎は稀ではあるが,合併症として念頭におくべきである。
  • 杉山 恵みり, 徳山 泰治, 小塩 英典, 川尻 真菜, 西村 幸祐, 石原 和浩
    2022 年 71 巻 4 号 p. 342-347
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/16
    ジャーナル フリー
     症例は80歳代後半,女性。数日前からの嘔気および食思不振,便秘症状が改善せず,近医から当院へ紹介された。CTにて開大した食道裂孔より全膵・脾臓・横行結腸・小腸・全胃が縦郭から左胸腔内に脱出し,腹腔内で小腸が拡張しイレウスの状態であった。Upside down stomach(以下UDSと略す)を呈するⅣ型食道裂孔ヘルニアと診断し保存的治療を開始したところ,イレウスは改善し経口摂取が可能となった。その後のCTで全膵・脾臓・横行結腸・小腸・全胃の脱出は持続しているが,5年前撮影されたCTでも同様の脱出所見を認めていることから,手術は施行せず退院してフォローすることになった。その後1年半経過しているがイレウスの再発なく経過している。
     UDSは手術適応となることが多いが,本症例のごとく多数の臓器が脱出した状態で経過観察を行なっている症例報告は少なく,文献的考察を加えて報告する。
  • 木村 直美, 加藤 悠太, 橋本 陽, 山内 桂花, 近藤 恵美, 柴田 茉里, 小﨑 章子, 水野 輝子, 松川 泰, 熊谷 恭子, 池内 ...
    2022 年 71 巻 4 号 p. 348-356
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/16
    ジャーナル フリー
     症例は68歳,子宮留膿腫を合併する子宮頸癌ⅢA期に対し,同時化学放射線療法concurrent chemoradiotherapy(以下CCRTと略す)の方針であった。初診から3週後,性器出血と下腹痛増強のため入院,入院5日目に38℃台の発熱あり,造影CTで腹腔内遊離ガス像,腹水貯留を認め,消化管穿孔或いは子宮穿孔による汎発性腹膜炎を疑い緊急手術となった。多量の膿性腹水,子宮前壁に穿孔を認めたが消化管穿孔は認めず,腹腔内洗浄ドレナージ,人工肛門造設術を施行した。敗血症性ショック,急性腎不全のため術後13日までICU管理した。腹膜炎治癒後,放射線療法を単独で施行,残存病巣に対し化学療法を追加したが子宮留膿腫が再発した。子宮穿孔を予防するため経膣ドレナージを施行した数日後に子宮腸管瘻,腸管皮膚瘻を併発し全身状態が悪化した。子宮留膿腫を合併する進行子宮頸癌では,子宮穿孔や放射線腸炎・皮膚炎による瘻孔形成など治癒困難な合併症が発生しうる。適切な時期に子宮ドレナージを行なうことが予後改善につながると思われた。
  • 有馬 一, 手崎 貴友, 太田 一志, 関谷 憲晃, 大矢 真, 衣笠 梨絵, 竹内 直子
    2022 年 71 巻 4 号 p. 357-362
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/16
    ジャーナル フリー
     毒キノコであるニセクロハツによる重症横紋筋融解症を経験した。70歳代の男性が,自分で採取したニセクロハツを摂食した。嘔吐,下痢で発症し,続いて横紋筋融解症をきたした。当院搬送時の血清クレアチンホスホキナーゼ濃度(以下CK)は38,100IU/Lであった。
     人工呼吸療法,大量輸液療法と昇圧薬の持続投与で循環動態を維持しながらオンライン血液濾過透析(以下OHDF)と持続的濾過透析で有害物質の除去を試みたが,血管透過性の亢進が続き,全身の浮腫が進行した。当院入院4日目にはOHDFを中断するとショック状態になってしまうため,連続してOHDFを施行した。しかし,最大CKは203,800IU/Lに達し,血圧の維持が困難となり,摂食から160時間後に死亡に至った。
     OHDFは横紋筋融解による有害物質を取り除くことができるとされる。しかし,本症例では連続したOHDFでも除去しきれなかった。
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